記念フォーラム 「もう一度愛知から 2020へのブレイクスルー」

にじゅうまるCOP2の午後からの記念フォーラムでは、「もう一度愛知から 2020へのブレイクスルー」と題し、都市デザイン・ビジネス・サイエンスのスペシャリストが読む2020年の日本をヒントに、私たちの活動の未来像を考えました。

 

先ず第一部として、IUCN-J会長吉田氏とIUCN-J事務局長道家より、にじゅうまるプロジェクトの報告をさせて頂きました。また、後援団体でもある愛知県自然環境課陣内さゆり氏より、愛知ターゲット達成に向けた折り返し地点となるこの年に、愛知県でこのような会合が開かれるということについて歓迎のメッセージを頂きました。

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愛知県自然環境課課長 陣内氏からの歓迎の言葉を頂きました。

 

豊かさを”深める” 自然共生型の未来へ

第二部は「ロードマップ2020」と題して、3名の有識者の方より講演をいただきました。まず、国連生物多様性の10年日本委員会の委員長代理の他、東京都市大学教授・岐阜県立森林文化アカデミー学長・なごや環境大学学長など数々の現場で活躍されている涌井史郎先生からは、災害と生物多様性を結びつけたEco-DRR(生態系をいかした防災・減災)という考え方が国土強靭化計画の中にもグリーンインフラという言葉で位置付けられ、生物多様性の多面的利用の考えが浸透してきたことや、マクロに捉えられる気候変動に対し、生物多様性は私たちひとりひとりが生態系ピラミッドの中のしくみで生きている、生活そのものであるという捉え方のできるテーマであることが指摘されました。

 

そして、2030年以降の人口減社会に対して、生態系サービスを活用した減災型の国土づくりや、森里川海をいかしたライフスタイルにこそ未来があり、「豊かさを追い求める」ライフスタイルから「豊かさを深めていく」ライフスタイルへの転換が必要であるというメッセージがありました。

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国連生物多様性の10年日本委員会の活動を紹介する涌井先生

 

自然資本”から探る、2020年の世界が求める企業像

続いて、CI(コンサベーション・インターナショナル)ジャパン代表理事の日比保史氏より、世界的に注目されている「Natural Capital Coalition(自然資本連合)」に関する動向を紹介して頂きました。昨年11月にリリースされた自然資本プロトコル(Natural Capital Protocol)」は、ビジネスが自然資本に対して及ぼす直接・間接的な影響を評価し、経営判断に役立つ指標を与えるものとして注目されています。すでに世界ではインドのTataグループなど50社が試験的に導入し、アパレルや食品飲料業界では業界別ガイドも作成されているとのこと。

 

自然資本の価値を経済化すると、2012年は年間125兆ドルもの価値を得たという分析があるそうですが、同年の世界GDPの合計が約75.6兆ドルですから、私たちはこれをはるかに超える規模の恩恵を、無料で自然から得ているということになります。2015年は、気候変動の分野で、歴史的な「パリ合意」の採択がありましたが、気候変動は生物多様性に大いに関連する問題であり、CO2の削減は経済のあり方にも密接に関わりを持つ問題。これを大幅に削減することに世界が合意したということは、自然に対して向き合う姿にも大きな影響が出るとも言えそうです。

IC日比氏からの自然資本プロトコルについてのプレゼンテーション

CIジャパン、日比氏からの自然資本プロトコルについてのプレゼンテーション

 

 

生物多様性の科学的知見を政策に活かす

最後に、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター長の山野博哉氏から、「学術分野のおける生物多様性の主流化の促進」について話を頂きました。科学的研究成果を政策へと活用する動きとしては、気候変動はIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が1988年に、そして生物多様性の分野でこれに該当する機関と言えるIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府観科学政策プラットフォーム)が2012年に設立されました。生物多様性の影響を測るGEO-BON(生物多様性観測ネットワーク)は世界では2008年に、その日本版J-BONは2009年につくられています。

 

また、生物分布のデータベースGBIF(Global Biodiversity Information Facility)についても日本版JBIFもつくられるなど、科学的データを活用し、生物多様性の状況を可視化する動きが国内でも進められており、最近は一般の人たちから送られた生物写真をデータにして活用するシチズンサイエンス(市民科学)も注目されています。 こういった情報をいかして、生態系保全や活用を考えるサイクルをまわすために、文科省が作成するDIAS(データ統合解析システム)の情報の活用など、生物多様性分野での科学と政策の関連づけを推進する動きを進めること、また、国際研究プログラムFuture Earthを活用し、研究のデザイン段階からいろいろな利害関係者(ステークホルダー)が参画する場を設けるなど、科学を政策に結びつける多様なアプローチが、今後、自然共生社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター長山野氏の発表

国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター長山野氏の発表

 

3名の有識者からの講演に対して、コメンテーターとして登壇したIUCN-J会長の吉田氏からは「生物多様性保全のためには、2020年の先につながる”さんじゅうまるプロジェクト”が必要という声もある。さらに活動を活性化したい」と、また、環境省中部地方環境事務所の常冨氏からは、「生物多様性は概念であり、生物多様性という視点から考えることは、そのままESD(持続可能な開発のための教育)につながる。生物多様性という切り口で人間活動を評価していく必要がある」とのコメントを頂きました。

 

それ以外にも国連生物多様性の10年市民ネットワーク中部グループに所属されている高山氏からは、流域という観点に焦点を絞って開催したシンポジウムが好評だったという報告と共に、「生物多様性の主流化は、単に認知度をあげるだけではなく、変わりきれていない理由を探る作業に集中することも必要」とのコメントも頂きました。

 

これらのコメントを受け、涌井先生からは、「土地とその土地に結びついた人たちの暮らしが美しく反映したものがランドスケープ、地縁結合社会であり、もう一度そこに戻るべき」、日比氏からは「資源を海外(主に途上国)に依存した利益結合型から、自然資本への関わり方に意識を向け、地縁結合型の社会を取り戻すことが大切」との意見が、山野氏からは、「科学者として、社会的ニーズに沿った研究をさまざまなステークホルダーとともに進めていきたい」とのコメントを頂きました。

コメンテーターの意見を受けてのパネルディスカッション

コメンテーターの意見を受けてのパネルディスカッション

 

これらの講演を受けて開催されたワークショップからは「生物多様性はわかりにくい」「がんばっている人を評価し、よくないことに対しては声をあげることも必要」「愛知県では愛地球博、COP10、ESDの10年などの体験もあり、行政と一緒に進める流れがうまくできている」「世代間で、社会や自然に対する考え方が大きく違う」となどという指摘もありました。100人近い参加者が集う、熱気に溢れた時間でした。

ワークショップは各グループでそれぞれに盛り上がっていました。

ワークショップは各グループでそれぞれに盛り上がっていました。

 

(報告:にじゅうまるメンバー 株式会社yukikazet 今井麻希子)

当催事は、平成27年度地球環境基金、経団連自然保護基金の助成を受けて開催しています。