生物多様性保全の新たな潮流~民間保護地域の今とこれから~

きれいな水や空気、食べ物や環境の安定化、あるいは信仰・地域文化の営み。多様な自然の恵みを将来にわたってもたらす場が「保護地域」です。自治体、企業、市民団体の取り組みとしても守られてきた保護地域ですが、「国が指定した地域」ばかり注目されてきました。しかし近年、市民、企業が様々な形で現場をもって自然を守り、育む活動が盛んになっています。市民が守る保護地域、民間保護地域は、いま注目すべき取り組みといえるでしょう。

日本のこれまでの歩み

民間保護地域 表紙画像2013年度、「市民が守る保護地域プロジェクト」

画像をクリックすると、冊子データをダウンロードできます。(約11Mb)

2013年度、「市民が守る保護地域プロジェクト」が発足しました。プロジェクトメンバーは、民間保護地域の暫定定義の作成や強み弱みの精査等に取り掛かり、同時に国内外の事例の把握と発信に注力しました。

第1回アジア国立公園会議をきっかけに、世界レベルの民間保護地域の現状把握事業へも参加し、その報告書『The Futures of Privately Protected Areas』には、17カ国の情報提供を元とした最新の定義案・主な議論・各国事例がまとめられています。

日本でも、この冊子の要約と、日本での取り組みを紹介した冊子を作成しました。ダウンロードはこちらから(クリックすると資料をダウンロード出来ます。約11Mb)

 

 

 

民間保護地域はなぜ必要?

「国が決め、守ってくれればいいのではないか。」とは誰もが思うことでしょう。しかし、民間保護地域には、民間保護地域ならではの強みがあります。例えば民間保護地域は、保護地域同士をつなげたり、政府の手の回らない場所を保護したりすることも可能です。

その一方で、管理水準の確保が難しいなど弱みも抱えています。民間保護地域は、国の管理する保護地域に取って代わるものではなく、対立するものでもありません。国の保護地域制度を補完し、強化するツールとして重要なのです。

民間保護地域の定義

民間保護地域の定義は、以下のように定められています。

民間保護地域(Private Protected Area)とは、国の自然環境保全法制度に指定されていませんが、生物多様性および関連する生態系サービス、文化的価値の長期的な保護に貢献する地域であって、土地の所有権の有無にかかわらず、以下の3つの条件全てを満たす地域のことを指します。

1.営利、非営利を問わず民間団体等が、

2.地理的な空間を明確に定め、

3.宣言・協定その他の手法を通じ、保全・持続可能な利用に資する活動・事業の継続を保障している。

世界の事例

民間保護地域の取り組みは、世界各国で行われています。例えばメキシコは、国の陸地の表面の487,300ha(0.25%)をも覆う民間保護地域を所有しています。またイギリスでは、NGOが主体となって土地の400,000haを管理しています。公式な法制度がなくても、NGOなどが積極的に管理を行っていたり、政府管轄の保護地域をつなぐ重要な役割として民間保護地域が設置されたりと、各国で民間保護地域への取り組みは広がっています。

 

The-Future-of-Privately-Procted-Areas p.18-19

The Future of Privately Procted Areas p.18-19

民間保護地域が抱える課題

民間保護地域の抱える課題の一つとしてあげられるのが、民間保護地域と社会との関係です。民間団体の大規模な土地所有は、時として地域社会との対立を生みだします。また、海外の機関が土地を所有することに対して是非が問われることもあります。

自然という観点だけでなく、地域にとっても意味のある土地の購入や管理が重要といえるでしょう。他にも、管理や計画に関する課題、報告に関する課題など、様々な課題が議論されています。

民間保護地域のこれからに向けて

民間保護地域のこれからに向けて、世界的に次のようなアドバイスが公表されています。

一つ目は、システムや情報共有など、国内外で民間保護地域を強化すること。

二つ目は、民間保護地域イニシアティヴを広めること。

三つ目は、民間保護地域の報告システムを改善することです。

また、日本としては、日本における世界基準に沿った民間保護地域の定義策定と適用、さらには日本の民間保護地域を世界データベースに登録することをめざしています。

民間保護地域の日本での事例

日本でも、全国で多数のNGOや企業が民間保護地域といえる活動に取り組んでいます。沖縄の恩納村や千葉の大草谷津田いきものの里など、どの民間保護地域も団体の支援者や企業、市民など、幅広い関わりの中で形成されているものです。多くの協力のもと、日本の豊かな自然、豊かな生態系を守るために、多くの可能性を秘めた「民間保護地域」への取り組みが進められています。

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市が約30の地権者と「谷津田等の保全に関する協定」を結ぶことで保全が担保されている「大草谷津田いきものの里」

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大草谷津田いきものの里でのアカガエル保全回復計画策定ワークショップの様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像2【日本野鳥の会】

北海道根室市にあるタンチョウのための野鳥保護区内で繁殖したタンチョウの家族

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にじゅうまるプロジェクトと民間保護地域
民間保護地域の可能性を含んだ国内の取り組み

にじゅうまるプロジェクトには、数多くの「目標11 保護地域」に関する宣言が集まっています。
下の地図に、にじゅうまる宣言で「目標11 保護地域」に関する取り組みをしている団体を表示ました。多様な「民間保護地域の可能性を含んだ取り組み」を下の地図から探してみて下さい。
にじゅうまる宣言をしている団体は赤色のピン、田んぼの生物多様性向上10年プロジェクトを通じて宣言をしている団体等は緑色のピンで表示しています。