名古屋議定書国内措置のあり方について

2013年1月12日に、生物多様性条約の目的の一つである「遺伝資源から得ら得る利益の公正・衡平な配分」に関する議定書である「名古屋議定書の国内対応」に関する勉強会を開催しました。

勉強会参加者によってまとめられた文書をご紹介します。

名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会報告書案へのパブリックコメント募集に際しての見解まとめ(NGO有志による) 2014年1月23日

2012年9月に始まった「名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会」(以下、検討会)では、これまで15回にわたる議論が重ねられてきました。検討会委員のみなさまの並々ならない努力に深く敬意を表しております。

名古屋議定書は、締結国が28カ国(2014年1月18日現在)に上り、EU、その他の国も批准手続きを進めていることから、2014年10月のCOP12までに発効に必要な50カ国に達する可能性が出てきています。

なお、1月22日には欧州議会の環境委員会がABSに関する規則案を賛成多数で可決しました。3月にも欧州議会(European Parliament)の本会議で審議され、その後に欧州理事会(European Council)による採択となる見通しと欧州議会が報道発表を出しています。

以下に、NGO有志の見解をまとめておりますので、参考にしていただければ幸いとするところです。

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1.生物多様性条約の目的に合致する国内措置をとるべきこと。(提供国措置として)

同条約には3つの目的が掲げられている。すなわち、①生物の多様性の保全、②生物多様性の構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分である。

議定書は条約の第3の目的に関するものであるが、これが実施されることで、遺伝資源の提供国に金銭的・非金銭的利益が配分され、利用国だけでなく、提供国もともに発展し、提供国の生物多様性の保全が図られるという仕組みであると説明される(『生物多様性・生態系と経済の基礎知識』(林希一郎編著・中央法規出版・2010年、p221-223)。

検討会における議論は、これまでのところ利用国の立場での論点整理が主だったことから、①②の目的に言及されることが少ない。もとより利益配分に係わる議定書ではあるが、生物多様性の保全と持続可能な利用にも適切にふれることで、単なる利益配分ではなく、生物多様性保全という大きな目的に向かう意義のある取り組みであることが検討会で共有されることが望まれる。議定書でも第9条で、利益を生物多様性の保全及び持続可能な利用に充てることを奨励することが規定されており、この点を強調しておきたい。

国内措置には、我が国政府、企業あるいは研究機関等が遺伝資源を提供する側の立場に立ったときに得る利益(金銭的・非金銭的の両方)を生物多様性保全と持続可能な利用につなげる仕組みも盛り込まれるのが好ましい。

一方、これは国内措置とは別の議論になるが、我が国政府、企業あるいは研究機関等が海外の遺伝資源提供国に対して配分する利益についても、同様に保全と持続可能な利用に役立てられるよう、相互に合意する条件を通じてそれらに貢献することが期待される。

2.諸外国のモデルとなるような国内措置をとるべきこと。(提供国措置として)

検討会では、議定書に則ったABS法令の整備の済んだ国がいまだ少ないことから、我が国の対応は慎重にすべきと語られる場面が見られる。その背景には、遺伝資源提供国が遺伝資源へのアクセスを促進するために、どのようなABS法令の整備をすればよいのか、その答えが出ていないということがある。そのためにも、簡素ながらも議定書の要件を満たす提供国措置を、我が国が世界に先駆けて構築した方が賢明とも考えられる。つまり、日本の国内制度を参考にして、諸外国が諸規則を定めるという流れを作ることも考えられるのではないか

途上国の遺伝資源の利用に際しては、相手国の法的安定性が不十分なために、遺伝資源へのアクセスが円滑でなく、さらに、いつ法解釈が変わり、不法行為に問われるかわからない不安を抱えているという声が聞かれる。そのためにも、国内的にも、対外的にも分かりやすい制度を我が国が整えて、クリアリングハウスに通知することは、諸外国のお手本となる意味があると思われる。

3.順応的管理を念頭に置いた国内措置をとるべきこと。(利用国措置として)

遺伝資源の利用国として、国内でチェックポイントがうまく機能しない、研究開発の実情にそぐわないといった事態が生じる可能性が考えられる。これはどんな国内措置であっても起こりえるが、その解決のためには、近年の我が国の法律に決まって設けられる“見直し規定”を設けることが妥当であると考える。昨年改正された種の保存法にも、1992年の制定以来、はじめて本格的な改正へ向けた動きが生まれ、3年後の見直し規定が盛り込まれたところである。

議定書の第31条には、その有効性について、発効後4年たって評価をすることが規定されている。これにならえば、チェックポイントをしかるべく運用した上で、一定期間後に、我が国の国内措置を見直し、適切な修正を図るという順応的管理の考え方を取り入れることが望ましい。諸外国の動向はいまだ判然としないのであるから、こうした規定を置くことは妥当であると考える。

その場合、PICとMATに関する情報収集機能のあるチェックポイントには、議定書第17条1(a)(iii)に示された秘密情報の保護に配慮しつつ、そうした情報に基づき、MATに関する優良事例の積み上げとABSについての全体的な動向を把握する役割を持たせるべきである。

なお、議定書では、各国で講じる措置は立法上、行政上又は政策上と、どの措置をとるかについて各国に裁量を委ねているが、ここではABSに関する国内法の制定を念頭に置いている。我が国は国際条約等の締結に際しては、おおむね国内法の整備を条件にしているからである。

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我が国は、海外の資源に依存するところが大きいことは多言を要しません。そのため、世界の生物多様性に影響を与えていることは、「生物多様性国家戦略2011-2020」(2012年9月28日閣議決定)にも記述されているとおりです(p.26)。我が国が名古屋議定書の責務を果たし、適切な国内措置によって生物多様性の保全に資することは、国内外からの期待としてあります。

名古屋議定書という我が国の都市名を関した国際協定に関して、世界のモデルとなるような国内制度を整え、その発効の助けになることは、これからの生物多様性保全の議論において我が国が存在感を保つよい機会となると考えます。検討委員会の委員の皆様におかれましては、その高い志を意義のある国内措置に成就させることで、いっそう評価を高められるよう期待しております。

以上