パラオの生活に息づく「自然資源」の発想
こんばんは。事務局の佐藤です。パラオ2日目のレポートをお送りします。
(本日も回線速度が遅いので、文章のみで失礼します…)
今日は、パラオ政府への表敬訪問、パラオ自然保護協会、パラオ国際サンゴ礁センターなどを見学し、インタビューなどを行いました。詳細な内容については下記をご覧いただくとして、個人的に日本との大きな差だな、と今日感じた2つのことについて触れます。
一つ目は、「自然資源」という考え方が、生活の根源の中に根付いていること。
例えば、今日意見交換を行った高校のスクールカウンセラーの先生と生徒さんに、「自然保護と経済的発展のバランスについてどう思われますか?」と伺ったところ、「Environment is our Economy(環境は私たちの経済である)。リサイクルや、きれいにすることなど、環境保全に取り組むことが必要だ」とのコメントがあったり、国務大臣からも、「Ocean is our resource.(海は私達の資源だ)」という言葉が、違和感のない感覚として口から出てきたことに驚きました。
日本であれば、そもそも保全の価値を訴えるために、「自然が美しいから、ある特定の種がかわいいから守りたい訳ではないんです…自然資源なんです!」というロジックから説明しなければならないところ、ここではその1ステップが不要…!自然との距離の近さや、社会システムについて考えさせられる一言でした。
二つ目は、国(若しくは州としての)意思決定の速さについてです。
これに関しては具体的な数的根拠はないのですが、パラオで先進的かつ代表的に活動を行っているパラオ自然保護協会に訪問した際に、保護地域の設定方法について話を聞いたり、JICAの活動をされている方と雑談をしていた際に感じたことです。
例えば、保護地域の設定に関しては、主に州が州法の中で設定を行うのですが、この保護地域を設定するプロセスも、地元住民がパラオ自然保護協会に相談を行い、自然保護協会が州に相談を行い決定をするとのことでした。(日本であれば、地元が主体で行う保護地域の設定までは、気が遠くなるようなプロセスがあるように思います)
JICAの方と話をした際には、人口わずか2万人、面積は日本の屋久島とほぼ同じ、という小さい国であることも影響し、関係者はほとんど知り合い同士であるため、人々が集まって物事を決めるのは、日本に比べると簡単である印象があるとのことでした。二点目については、引き続き様々な主体の方と情報交換をしながら理解を深めていきたいなと思っています。
◆◆インタビューのメモ◆◆
1.パラオ政府への表敬訪問
今回の表敬訪問では、国務省、公共インフラ・産業・商業省、地域・文化省の大臣にお会いしてお話を伺うことが出来ました。大統領と、天然資源・環境・観光省の大臣は、現在ニューヨークで開催されているSDGsの会合に参加中のため不在とのことでした。
■パラオの保護地域について
200海里の80%を禁漁区に設定しようとしている。しかし、余りにも広く(フランスと同面積!)パトロールが難しい。インドネシア・台湾・ベトナムなどからの密猟者が絶えない。パラオは、ミクロネシアの中でも先進的に活動している。例えばサメの保全のための保護地域を作った。キリバスやクック諸島もそれに続いた。
■経済と環境のバランスについてどう思うか?
自分たちとしても、その見極めがとても難しいと感じている。何人の観光客を年間で受けれれることが可能なのか、科学的な内容に基づき計算しなければならない。
例えば、観光地として有名なジェリーフィッシュレイクに、一日500人の観光客が日焼け止めを塗って入ったら何が起こるか、私達は知らない。自分たちでも計測して許容量を決めなければいけない。現在、日本財団経由で、ポリシーを作るための専門家を招へいし、調査を進めている。
■パラオでの人材について
パラオは小さい国であり、労働人口が少ない。現在、6,000人以上のフィリピン人が働いている。また、大学がないため、アメリカなどの大学に奨学金制度を利用して行く生徒が沢山いる。奨学金自体のバリエーションも多い。但し、パラオの最低賃金は3.3$に対し、アメリカは7.0$。海外に出て、そのまま帰ってこない学生もいる。頭脳流出事態も問題だか、出生率もとても低く、次世代が少ないのが現状。
■エコツーリズムについて
ユースの参画も必要だが、高齢者の参画についても考えていきたい。また、歴史的な遺跡の保全と、自然保護地域の管理を両輪として進めていきたい。そして、海に偏りがちな観光客の分散化を図りたい。
不足しているホテルなどのファシリティに関しては、土地を持っている地元の人に小額融資を出して、バベルダオブ島(最も大きな島)に小さなロッジを開設出来るようにする話もある。ホームステイも検討中。電気、水、鍵等の最低限のスタンダードを考える段階にある。現在新聞で募集広告を出し、手伝ってくれる家庭を探しているところ。
2.パラオ自然保護協会(PSC)について
■概要
設立1994年。ボードメンバーは11名。3年毎の戦略計画を策定していたが、長期ビジョンの必要性を感じ、今年から6年計画に変更した。
■活動内容
主な仕事内容は、地域での戦略策定方法、法律の決め方(保護地域に関する法律は、基本的に州が決めていることが多い)、保護地域の設置場所についての知識や方法を、地域コミュニティーに提供すること。コミュニティーミーティングを行い、地域と州を繋いで保護地域を策定している。
保護地域の策定は、PCSに地域コミュニティーから保護地域としたい候補地についての連絡があり、それを州に繋ぐ仕事をしている。近年の活動は、バードウォッチのアプリ作成や、学校の先生向けの環境教育(夏休みに集まって行う等)などを行っている。科学的データに基づく保全の促進にも力を入れている。例えば、魚のモニタリング調査の結果を積み上げ、危機にある魚のデータを示すことで、2州の法律を変え、危機にある魚5種を禁漁にすることに成功した。
また、同時に、地域での海からの資源に基づく経済価値の調査を行い、漁業の代わりにキャッサバやタロイモの生育を行ったほうが経済的価値がある、などのデータを積み上げて、代替手段を示す努力も行っている。
3.パラオ国際サンゴ礁センター
■概要
1995年頃、太平洋諸島のうちどこかにサンゴ礁を研究する場を作る話が持ち上がり、パラオで設立されることが決定した。パラオ・アメリカ・日本の協力により、2000年設立。ボードメンバーは9名、うち3名は常に海外の人材を登用しなければならないと決まっており、多様な主体からの視点を大切にしている。NGOとしての役割を果たす時もあるし、政府機関としての役割を果たすこともある。
■活動について
様々な国の研究者が出入りし、サンゴ礁に関する調査研究が行われている。現在の最も大きな悩みは、イノベーションと変革について。自分達を取り巻く環境はどんどん変化しているのに、人はそれに気付けず、或いは普段の環境に慣れてきてしまっていて、なかなか必要性に気づけないことが問題である。
サンゴ礁に対する、観光客からの影響に関するモニタリングは実施している。特に、シュノーケリングによる影響を調査している。シュノーケリングに参加する人達は、泳ぎ方を知らないような人も多いため、知らず知らずのうちにサンゴを傷つけていることがある。
どちらかといえば、人口2万人の島国に、年間17万人もが訪れることによる、水・電気・ゴミなどに関連する環境問題のほうがインパクトが高いと感じる。