ココロとカラダに働きかける、4つのステップ 行動を促進させる心理学、コンサベーション・サイコロジーという言葉をご存知ですか?~2~

行動を促進させる心理学、コンサベーション・サイコロジーという言葉をご存知ですか?第2回では心理学的アプローチの具体的な内容をお伝えしていきます。

 

さて、心理学的アプローチとは、どのようなものなのでしょうか?リーさんは行動を変える(Behavior Change)のためのプログラムには4つのステップがあると語ります。それが、1)フォーカス、2)モチベーション、3)エナブリング、4)ファシリテーションです。先述した上海のプログラムで扱われたというトピックの実例を紹介して頂きました。

オランダで実際に展開されたプログラムを事例に紹介

オランダで実際に展開されたプログラムを事例に紹介

 

1:フォーカスする

環境教育について考えましょう!そう言われたところで、環境問題のトピックはあまりに広域です。もちろん「生物多様性を保全しましょう」といっても広すぎてわからない。「水問題に取り組もう」というのも、まだ漠然としています。そこで必要になるのが、1つ目のポイント「フォーカス(選択・集中すること)」です。

 

例えば「水を大切にしよう!」というものが良い例です。皆さんが子どもの頃から小学校などの水道に、こういったポスターが貼られていたのではないでしょうか。では、本当に水を大切にするためには何が必要か。それには、成果につながるより具体的な、「水を出す時間を短くしましょう」といった1~2個のアクションにフォーカスすることが必要です。

 

2:モチベーション(動機付けする)

「水道の水を無駄に使わないようにしましょう」。そんなシンプルなことも、楽しく取り組むにはモチベーション、つまりココロが刺激される、楽しい、好奇心を注ぐ要素を取り入れることが大事です。

 

「いいことをして、褒められる」「他の人もしているから、自分も参加したくなる」といった心理を利用するのです。このケースでは、シャワールームを使う際に制限時間を設けるという「ゲーム仕立て」のしくみを考えました。ある調査によると、人はシャワーを浴びるのに平均8分かけています。そこで、このシャワーのケースでは、「5分以内にシャワーを終えること」という、解りやすいゲーム的な要素を設定することにしました。

 

3:エナブリング(実現可能にする)

シャワー時間を8分から5分以内に変える。具体的な節水効果が明らかに想定されるこのルールに、楽しく取り組む人を増やすためには、ちょっとした “しかけ”が必要です。例えば、シャワールームの壁に5分の砂時計を置いてみたらどうでしょう?「節水のためのコミュニケーション・ツールをつくるという工夫です。環境保全や水問題に関心を持つ企業に、企画を提案するのもよいかもしれません。彼らにスポンサーになってもらい、NGOと共に、こういった環境コミュニケーションをデザインするのです。

 

そして、他団体と共にコミュニティ(地域、あるいは企業や組織)に貢献する価値を創造して、その成果が、コミュニティの中で認識・評価されることで、参加者の間に「このアクションを続け・広めたい」という動機も生まれてきます。

 

4:ファシリテーション

この例のように、こういったコミュニケーションやアクションのデザインを、多様なセクターと共にデザインしていくファシリテーションができる人がいるといいでしょう。課題設定をして、参加者が共に、取り組むことへの動機ややりがいを感じるプログラムを考えだすことも有効です。

 

以上が4つのステップになります。心理学的アプローチ、つまりココロが刺激され、カラダが思わず動き出すコミュニケーションデザインを取り入れることで、環境教育プログラムは、ぐっと磨きがかかります。このようなシナリオを作り出す場の設計が重要なポイントと言えるでしょう。

 

 

都市生活者の間で注目される、自然の心理的効果

リーさんは今、IUCN-CECのメンバーとして、北京政府に先進的な自然教育プログラムを提供することに力を注いでいます。中でも意欲的なのは森林局です。今年は北京政府の資金でIUCN-CECのネットワークから経験豊富な専門家を招き、森林公園を使ったプログラムを開発しました。北京政府は、北京北部の森林公園を、自然教育の現場として活用することを計画しています。

 

中でも特に注目を集めているのが「森林セラピー」です。森林には「癒し」の効果がある。心身ともにリラックスし、健康にもいい。そんなプログラムへのニーズは、今後益々高まっていくと、リーさんは感じています。

 

以前は中国でも、北京のような都市部に若い労働人口が集中する動きがありました。けれども、今は、自然の欠乏に不満をいただき、小規模な都市に移り住む人も増えています。日本は都市部の近くに、たくさんの森林がありますので、こういったプログラムが今後益々広がっていく可能性がありますね。

 

日中韓政府による環境教育プログラムの推進にも携わり、政策会合やフィールドワークなど幅広い現場で活躍するリーさん。今年は日本でも、リーさんを招いての研修プログラムが開催される予定だそうです。楽しみですね!

 

 

以上で行動を促進させる心理学、コンサベーション・サイコロジーという言葉をご存知ですか?は終了です。今後、この分野に関してまた最新情報が入りましたら、ぜひ紹介させて頂きます。

報告:今井麻希子