民間保護地域ガイドラインの発表
保護地域(国立公園や鳥獣保護区などを総称して呼称する呼び方。英語は、Protected Area)は、COP10前までは比較的、“国が設立する保護地域”への注目が集まっていたのですが、アジア公園会議あたりから、民間が管理主体になる保護地域、いわゆる、「民間保護地域」という保護地域に注目が集まってきました。
IUCNの専門委員会の一つWCPA(世界保護地域委員会)の民間保護地域専門家グループが、調べ始めたところ非常に多様な主体による保護地域が、フィンランドやオーストラリア、南アフリカ、ブラジルやUSA、チリ、ケニヤ、イギリスなど世界各地に存在することが分かってきました(詳しくは、こちらのページを参照。)。そのため、生物多様性第12回締約国会議(COP12)や、IUCN世界自然保護会議2016では、IUCNに対して更なる研究をもとに、ガイドライン策定を期待する声がでました。
今回、COP14のサイドイベントの一つとして、IUCN-WCPA民間保護地域専門部会では、2000人以上の方にコメントなどをもらいながら作り上げた、「民間保護地域に関するガイドライン」を発表するイベントがありました。
http://privateconservation.net/index.html
https://portals.iucn.org/library/sites/library/files/documents/PAG-029-En.pdf
ガイドラインの表紙
このガイドラインは、民間保護地域の設定方法と、管理、インセンティブ、サブタイプごとの分析(企業や宗教団体など)、サイトの維持、国の保護地域との調整、登録および民間保護地域間のネットワークの役割についてなど多岐にわたるテーマについて、世界各国の優良事例をベースとして作られたガイドラインとなっています。
民間保護地域には様々な可能性が指摘されています。
- 国や自治体が設定した保護地域の周辺に設定することで、国の保護地域と保護地域の間を結ぶコリドー機能の提供や保護地域の拡張の機会提供
- 国が保護しにくいが希少種の保全などで重要な“小さい面積”の保護区の設定
- 開発問題に対して民間(NGO)ならではのフットワークを生かした緊急的保護措置
- (上に似ていますが)国が保護地域を設定するまでの間の、保全措置としての機能
- 企業やNGOなど独自の自然保護への投資を促す機能
最近では、土地の乱開発を避け自然環境を良好に保つために、固定資産税軽減などの税制や補助金制度も活用し、自然環境保全に理解のある土地所有者にもインセンティブがある形で、民間保護地域を活用する国も出てきました。また、開発事業による生物多様性への悪影響を避け、理論的に悪影響をゼロにするための“生物多様性オフセット”という手法も実践が増えているのですが、生物多様性オフセット制度を機能させる仕組みとしても、民間保護地域という手法が今後注目されるという報告もありました。
民間保護地域は、歴史は古いのですが、世界レベルでの比較調査が少なく、かつ、制度(自然保護のツール)として、日進月歩の進化を遂げているようです。日本にも民間保護地域と呼ぶべき地域がたくさんありますが、日本型民間保護地域の特徴や自然保護への貢献の状況や、活用の可能性などを整理し、効果的な生物多様性保全につなげていくための何らかのグループが必要とされてます。
これからも、民間保護地域の動きに注目し、情報発信をしていきたいと思います。
道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)
*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。