生物多様性を農業や林業、その他の分野でも盛り上げていこう!

開会に先立って開かれた閣僚級会合では、農林水産業を営む際には生物多様性への影響を考慮することや、観光業を通して生物多様性への関心を高めることなどを定めた「カンクン宣言」が採択されました。そのような中、多様性条約締約(CBD)COP13に合わせて、第2回目となる国連生物多様性の10年日本委員会が主催のイベント「国連生物多様性の10年の日(UNDB day)」が12月5日(月)に開催されました(IUCN-J共催)。

 

タイトルは「生物多様性の主流化:世界のあらゆる所で変化を起こそう」。2011年から始まった国連生物多様性の10年も半分を過ぎ、残り4年という状況の中、「生物多様性に関する人々の行動の変化」=「生物多様性の主流化」が求められています。主流化とは簡単に言えば、生物多様性に関係する分野で生物多様性が意識されることを指し、主流化を強い力で進めていくため、1日がかりのイベントで、様々な分野の人が一同に会しました。

 

 

<開会宣言>

UNDB dayは環境省生物多様性地球戦略企画室長の中尾さんによる開会宣言から始まりました。中尾さんからは、イベントを共催し、運営を支援してくれた生物多様性条約事務局に感謝を述べるとともに、愛知ターゲット達成のために、人々の様々な経験を共有し、主流化を推進していく必要があることが訴えられました。

 

<午前の部>

午前の部では、地球レベル、国レベル、地方レベルで展開されている主流化を加速する仕組みを紹介し、発表者全員によるパネルディスカッションが行われました。

 

はじめに、日本自然保護協会専務理事の吉田さんからUNDB-Jのメンバーの一人として、UNDB-Jの取組みについて紹介がされました。個人への普及啓発を目的とした「生物多様性MY行動宣言5つのこと」や、「アクション大賞2016」を受賞した糸島こよみなどの取り組み、団体の生物多様性に関する活動事例を集めてチームにすることを目指す「にじゅうまるプロジェクト」などが展開されていること説明し、主流化を更に進めていくために2020年までのロードマップを作成したことを発表しました。

 日本自然保護協会専務理事の吉田さんからUNDB-Jのメンバーの一人として、UNDB-Jの取組みについて紹介がされました。


日本自然保護協会専務理事の吉田さんからUNDB-Jのメンバーの一人として、UNDB-Jの取組みについて紹介がされました。

 

次に発表したのはドイツのUNDBユース親善大使のお一人のZarahさんです。SNSやウェブサイトを使った主流化の事例や、ドイツでのイベントを紹介してくれました。

ドイツのUNDBユース親善大使のお一人のZarahさん

ドイツのUNDBユース親善大使のお一人のZarahさん

 

その後、UNDB-Jのように多様なセクターから組織されている委員会としてメキシコCONABIOの主流化事業顧問のOscarさんのプレゼンテーションでは、セクターを超えた協調の必要性が訴えられ、フードセキュリティーや生物多様性への貢献の重要性を改めて実感しました。

scarさんのプレゼンテーションでは、セクターを超えた協調の必要性が訴えられました。

Oscarさんのプレゼンテーションでは、セクターを超えた協調の必要性が訴えられました。

 

最後に、「あいち生物多様戦略2020」の取り組みを、愛知県の佐橋さんが発表しました。知多半島の工業地帯の企業が学生の活動によって刺激、活性化されながら、協力しあって森を作っている事例など、多様なセクターを巻き込んだ取り組みが印象的でした。

「あいち生物多様戦略2020」の取り組みを、愛知県の佐橋さんが発表しました。

「あいち生物多様戦略2020」の取り組みを、愛知県の佐橋さんが発表しました。

 

パネルディスカッションでは、とくに企業の参画の重要性や、消費と生産、特にもっと持続可能性を配慮した消費を進めることの重要性、都市における生物多様性の取り組みなどについて話し合われました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

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会場との意見も交わされました。

会場との意見も交わされました。

 

 

<午後の部>

午後の部では、農業、林業、企業、ユース(若者)、市民での主流化についてそれぞれプレゼンが行われ、その後発表者によるパネルディスカッションが行われました。

 

農業分野の主流化について発表したのは、ラムサールネットワーク日本の呉地さん。水田が食糧生産の場だけではなく、野生生物の生息地でもあり、5668種の生物が発見されたこと、湿地としての機能もありその重要性を共有するラムサール条約の決定と生物多様性条約の決定を使って、農林水産省と協働関係を構築した事例が紹介されました。現在は、愛知目標を水田に置き換えた水田目標の達成に向けた仲間づくりをしていることが紹介されました。

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農業分野の主流化について発表したのは、ラムサールネットワーク日本の呉地さん。

 

林業分野の主流化については、ミス日本みどりの女神(農林水産省みどりの広報大使)の飯塚さんが発表しました。いきもの賑わい企業コンテストやグリーンウェーブ事業、REDD+の事例などについて話がありました。特に、REDD+に関する取り組みの中で話していた、とうもろこし畑をカカオ畑に変えたことで、現地の人の収入も増え、生物多様性の損失も抑えられた事例が印象的でした。

林業分野の主流化については、ミス日本みどりの女神(農林水産省みどりの広報大使)の飯塚さんが発表しました。

林業分野の主流化については、ミス日本みどりの女神(農林水産省みどりの広報大使)の飯塚さんが発表しました。

 

企業の取組について発表したのは、電機電子4団体生物多様性ワーキンググループの阿部さんと野口さん。事業活動と生物多様性との関連性の整理や従業員への教育ツールの提供、行動指針の策定などを通じた、世界でも珍しい電機電子業界における生物多様性の主流化についてお話がありました。

 

企業の取組について発表したのは、電気電子4団体生物多様性ワーキンググループの阿部さんと!

企業の取組について発表したのは、電気電子4団体生物多様性ワーキンググループの阿部さんと!

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野口さんです。

 

次に日本のユースから生物多様性わかものネットワークの安藤さん、世界ユースからGlobal Youth Biodiversity NetworkのChristianさんから発表を行いました。日本のユースからは、「生物多様性わかもの白書」という、日本のユースの活動を調査してまとめたものを紹介がされました。世界ユースは、COP11から始まった世界のユースをつなぐ団体の活動を紹介し、協働とキャパシティ・ビルディングの必要性を訴えました。

生物多様性わかものネットワークの安藤さんからは、「生物多様性わかもの白書」について紹介がされました。

生物多様性わかものネットワークの安藤さんからは、「生物多様性わかもの白書」について紹介がされました。

Global Youth Biodiversity NetworkのChristianさん

Global Youth Biodiversity NetworkのChristianさん

 

事例発表の最後は、CONABIOのカルロスさんから、市民科学の取り組みが紹介されました。調査員の育成や、調査員のアドバイザーの育成を通じて、全メキシコを網羅する形で市民調査員のネットワークが構築され、専門家が数十年かけて蓄積したデータ量を数年で追い越すほどの生物多様性の調査が進んでいるそうです。写真コンテストなども実施しており、そのサイトがまた多くの市民の環境意識向上を促しているそうです。

CONABIOのカルロスさんから、市民科学の取り組みが紹介されました。

CONABIOのカルロスさんから、市民科学の取り組みが紹介されました。

 

パネルディスカッションのコーディネーターは、JBIB事務局長の足立直樹さんが勤められ、それぞれが直面した良い変化を阻害した課題は何か、それをどのように克服したのかといった点について深く議論を進めました。議論の中では、生物多様性の課題に対する問題意識は、気候変動と比べてまだまだ浅く、もっと高める必要があること、残り4年間さらなる取り組みを加速することが重要という話がありました。

パネルディスカッションのコーディネーターは、JBIB事務局長の足立直樹さん

 

休憩を挟んだのち、午前の部と午後の部のまとめが行われ、このセッションには、生物多様性条約事務局の主流化を扱う部局を統括するエイミーさんと、IUCN環境教育コミュニケーション委員会のカレンさんをお招きしました。

生物多様性条約事務局の主流化を扱う部局を統括するエイミーさんと、IUCN環境教育コミュニケーション委員会のカレンさん

生物多様性条約事務局の主流化を扱う部局を統括するエイミーさん(写真左)と、IUCN環境教育コミュニケーション委員会のカレンさん(写真右)

 

カレンさんは、主流化が起きるためには、そもそも「自然」というものへの関心やふれあいの機会がないといけないこと、そして人と自然が触れ合う機会が世界的に減少しているという根本的な課題を指摘。これを克服するため、IUCNは世界中の団体と一緒に#NatureForAll(直訳すると、あらゆる人々に自然と触れ合う機会を)というキャンペーンを展開していることを紹介し、このキャンペーンへの参加を呼びかけました。

 

エイミーさんからは、主流化をメイン吸えたこのCOP13では、市民とユースのフォーラム、ハイレベル会合での各国大臣からの力強いメッセージ、企業や自治体のフォーラムの動きが紹介され、大きなうねりとなっている様子が説明されました。特に、愛知目標が持続可能な開発目標のあらゆるところに組み込まれたことを紹介し、愛知目標の達成を推し進めることが世界のあらゆる人々のために求められている。そのような理由からも主流化のメッセージを様々なセクターに広げていこうと強調されました。

 

 


(公財)日本自然保護協会経営企画部副部長
国際自然保護連合日本委員会副会長・事務局長
道家哲平