SBSTTA事前準備 世界のNGOが注目する議題
快晴に恵まれた日曜日のモントリオール。月曜から始まるSBSTTA20に向けた準備会合が始まりました。準備会合では、それぞれの参加者が「どんな議題に注目し、何を大事とするか」を共有し合います。非常にテーマの広い生物多様性条約の議論について、それぞれの専門性を出し合いながら、課題に潜む共通点、自分が見逃していた視点などを発見するための大事な会合です。まずは、世界各地から参加して議論されている合成生物学についてご紹介します。
生物多様性条約でしか話す場のない合成生物学(Synthetic Biology)
合成生物学は、一言で言うと「新世代の遺伝子工学」。特定の遺伝子配列に別の配列を組み込むという従来の遺伝子組み換えを技術を超えて、遺伝子(塩基配列)を切った貼ったして、新たな遺伝子配列をもった生物を作るというものです(この合成生物学の定義をどう定めるかも、今回の課題の一つ)。1992年にできた生物多様性条約の”遺伝子組み換え”の定義や概念を超えた技術というのがポイントです。2010年のCOP10で議題として扱うことが決まり、2014年のCOP12で専門家会合が開催されることになりました。その結果、定義や現在の開発・利用状況、その国際的な管理手法の有無など、多くの疑問への回答が専門家会合によって示されています。実は、生物多様性条約という舞台だけがこの新しい遺伝子工学の是非や危険性などについて話し合い、政策決定できる唯一の場所となっており、この課題に関心の高い専門家やNGOが何人もいます。
遺伝子操作された生物を意図的に拡大させ、蚊や雑草などを駆除しようという「Gene drive」という手法(=つまり、遺伝子組み換え生物をオープンな野外に放つ)と、digital genetic sequenceという、遺伝子情報をデジタルで解析・共有する技術について名古屋議定書にも抵触するのではないかという大きく二つの課題について問題視しているそうです。
また、既存の国際的な管理の枠組みから抜け落ちている課題もあります。カルタヘナ議定書という遺伝子組み換え生物を扱うルールが生物多様性条約の一部としてありますが、カルタヘナ議定書の効果が及ぶのは”生きた遺伝子組み換え生物(Living Modified Organism=LMO)の適正利用”が中心。つまり、合成生物を構成要素(合成生物学で作った生物の一部)とした利用や、素材とした製品(例えば、バニラやサフランの香りを持った生物を作り、それを材料としてバニラ風味の食品などが作られる)の規制、それがもたらす社会的影響まではカバーしていないのがポイントです。
このテーマに関心をもつETCグループというNGOは1週間のうちに4回もサイドイベントを開催して、合成生物学という技術の概要、NGOが懸念している点を生物多様性条約の締約国の交渉官に紹介して、規制の強化を提案する予定となっています。
(公財)日本自然保護協会、IUCN-J事務局長 道家哲平