SBSTTA2日目 海を巡る大きな大問題、小さな大問題
SBSTTA2日目は、海洋についてと、合成生物学などについての意見表明が行なわれました。地表面の7割に及ぶ公海についての話題から、目に見えないほど小さな「マイクロプラスチック」をめぐる問題まで多岐に渡る課題が扱われます。
NGOが合成生物学を問題視していることは紹介しましたが、海も今回のSBSTTAの大きなテーマとなっています。海については今回は4議題、生態学上生物多様性上重要な海域(EBSA)、海洋酸性化、海中騒音と漂流物、海洋空間計画と能力養成が議題としてあがっています。
重要海域(EBSA)
重要海域(EBSA)は、2008年COP9から続いている取り組みです。地球表面の7割を占める公海(どの国の主権にも属さない海)を含め、保護管理するべき重要な海域を特定しようという国際合意に基づいて始まりました。IUCNは2004年から公海の保全を話題にしており、当時、国連海洋法条約においても保護に関する規定がほぼない”空白地域”と聞かされて、守られているものとばかり思っていたので驚きました。
さて、この重要海域特定作業としてCOP9で採択された重要海域特定のための基準(生態学的重要性、脆弱性、生産性など)をもとに行われてきた地域ワークショップが、ほぼ全海域(南極海周辺がまだですが)で2016年までに実施され、一部完了した作業は、国連の作業部会に報告されています。これは先ほど規定がないと紹介した国連海洋法条約の強化に向けた国連作業部会での議論に活用されます。
SBSTTA20では、今回試行作業のなかで特定された重要海域の今後の更新(合理的な境界線の引き方が困難という課題などがある)や、基準の見直しのための専門家会合の役割、EBSAを巡る多くの機関や人をつなぐナショナル・キュレーターの設置の是非についてが焦点となっています。
海洋酸性化
海洋酸性化は、一旦は、寒海域(cold water)における海洋酸性が問題だという議題となっていますが、各国からは全世界的な海の問題として扱うべきという意見も出されています。なお海洋酸性化は、大気のCO2が海にとけ込むことで、弱アルカリの海が酸性に向かうという減少です。海という境界のない大きな生態系なので影響の程度や範囲を予測することが難しいのですが、少なくない影響が出るだろうという見方がほとんどです。
会議冒頭、イギリススコットランド沖の深海の調査を行っている研究者の発表がありましたが、寒海域でも地形や生物種の多様性に富み、暖かいところにできると思われているサンゴ礁や多数の海綿動物、ヨーロッパウナギの生息なども確認されたとの報告もありました。
海中騒音と漂流物(海洋ゴミ)
海中騒音と漂流物は、COP11から話題になってきました。海中騒音は、研究や航行に伴うソナーやプロペラの振動などが野生生物に及ぼす影響について注目があつまり、更なる情報ギャップを埋める必要性が検討されています。漂流物は、主にプラスチック、マイクロプラスチック、マイクロビーズなどのゴミの海表面に漂い、海流の影響で、数カ所にゴミが集約したり、食物連鎖の中で、プラスチックやそれに付随する化学物質の生物濃縮による健康被害、野生生物の誤飲やゴミとなった漁網に引っかかる問題など多くの課題をまとめたものです。
サイドイベントで情報を集めたのですが、およそ海を漂うゴミの8割が陸上からに起因するゴミで、国連環境計画では1995年から取り組みがなされているそうです(そして、一向に解決の目処が立っていないどころかゴミの排出量は増加の一途)。特に懸念されているのは、「マイクロプラスチック・ビーズ」です。マイクロビースと聞くとピンときませんが、「古い角質を落とすためのツブツブ入り洗顔料とか歯磨き粉」とかに利用されているので結構身近な物質です。
先進国の下水処理施設ですら、これらマイクロビーズをフィルタリングすることはできないといわれており、アメリカやヨーロッパでは全面禁止という措置も出始めています。プラスチックの中には、生分解性(土壌にいる微生物の力で分解される)という技術も出てきているのですが、海にはその微生物がいないので、解決策にはなりません。分解しない、回収できない、けれども、海表面に集中して食物連鎖の中で濃縮されるとあっては、国際的な規制の目はどんどん強くなるのではないかと思います。
海洋空間計画
海洋空間計画は、3次元で扱わなければならない海の管理を行なっていくためのツールが取りまとめられ、それを活用するための能力養成の活動Sustainable Ocean Initiative(略してSOI。日本からも資金的な援助がなされている活動ですが、その活動について高く評価し、継続を求める声が多くありました。
(公財)日本自然保護協会・IUCN-J事務局長 道家哲平