世界農業遺産など、国際認証地域の持つ地域づくりでの可能性

国際会議の一つの分科会では「国際認証地域における地域づくりのための生物文化的アプローチ」というテーマが取り扱われました。

 

ここでは国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産(GIAHS)」や国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が認定する「ユネスコエコパーク」を取得している各地の実例から、生物多様性や文化多様性が地域づくりにどのように貢献するのか議論を深めていきました。

石川県能登

石川県アジア生文化多様性国際会議 議場の様子

 

GIAHSとは2002年に開始されたプロジェクトです。近代化の中で失われつつあるその土地の環境を活かした伝統的な農業・農法・生物多様性が守られた土地利用、農業文化・農村景観などを「地域システム」として一体的に保全し、次世代へ継承していくことを目的とし、地域のシステムを認定します。

 

分科会では海外事例として中国や、大分県の国東半島宇佐地域、能登の羽作市など様々な事例が紹介されました。中国には現在、10を越えるサイトがあるそうですが、それらのサイトではGIAHSへの登録を通して、サイト内の農家の有機農業への関心が高まったり、昔ながらの養殖漁業の継続や、加工手法の向上といった好事例が生まれ、認定地域の農産品の質の向上が促進されているそうです。また中国の中では多くの開発が進んでいる農村地域のモデルとしてGIAHSを積極的に活用し、持続可能な地域社会を創造しようとしているという報告がありました。

 

フィリピンや石川県、JICA、金沢大学などが共同実施している「里山マイスタープログラム」の報告では、GIAHSを理解し文化・生物の保全ができるような人材を通して農村部の人口減少問題を解決しようという、人材育成事業の事例が紹介されました。現在3年目を迎え50名を越す生徒が卒業しているそうです。また、プログラム内では授業だけでなく生徒たちによる研究も行われていることや生徒へメンターを必ずつけサポートを実施しているという工夫なども紹介されていました。

アジア生物文化多様性国際会議

分科会の様子

 

大分県の国東半島宇佐地域の報告では、古くは庶民用の畳おもてに使用していたい草の代用品「シットウイ」文化の復活とそれによる地域づくり、また環境保護との関わりが紹介されました。このシットウイという植物はもともと数十年前まではい草の代用品として栽培されていましたが、現在は手間がかかること、中国産のい草に押されていることから生産が衰退しているそうです。

 

発表者である林浩昭さんは地域産業の振興を考える中で、子供の時に家で育てていたシットイウイが田んぼで育てられ、海岸で干すという文化を持っていることを思い出したことから、古地図や古い航空写真から過去の履歴を呼びおこし、シットイウ文化の再生を地域産業の振興の一つとして挑戦しています。その中で、海岸でシットウイを干す際に砂浜がテトラポットと護岸で埋め尽くされたことを意識し、またシットウイを干すために海岸を綺麗にしていたことがウミガメの産卵地でもある宇佐地域の海岸を綺麗にすることにつながっていたことに気がつき、文化が結果的に自然保護の一部も担っていた。という内容が共有されました。

 

これらの事例の中で大きな課題として共有されていたことは、農家の若者離れによる高齢化と人口減少でした。これらの問題については解決策としてGIAHSといった国際認証をいかに活用して農産品に付加価値をつけること、また文化の多様性や生物多様性を理解し保全を実践できる人材を育て現場で積極的に活動してもらうことが重要な手法であるという認識が共有されていました。

 

参考:国際連合食糧農業機関(http://www.fao.org/home/en/
能登の里山里海 (http://www.pref.ishikawa.jp/satoyama/noto-giahs/index.html

 

IUCN日本委員会
伊藤 邦泰