宿題ができないのは、宿題の出し方が悪い!?

夏休みも半分を過ぎた頃、子どもがこんなことを言い出したらどうします?こちら、COP13では、大の大人がこんなことを言い出さないかとやきもきしています。それも誰かに与えられた宿題ではなく、自ら課した宿題に対してです。。

IISD/ENB http://www.iisd.ca/biodiv/cop13/enb/8dec.html

IISD/ENB http://www.iisd.ca/biodiv/cop13/enb/8dec.html

 

生物多様性条約COP13 の第1週目が終わろうとしています。決議案の意見提出は、準備会合(SBSTTA:科学技術助言補助機関会合、SBI:条約実施補助機関会合)で合意された文章の修正を極力避けたためスムーズに行ったものの、CRP文書(会議用文書)の検討の段になって、合意されたと思われた文章への修正案が続出し、なかなかに難航するかも知れないという気配が漂ってきました。

 

交渉文書はネットでも見られるので会議場にいなくてもわかることがあるのですが、当然、現地ならではの情報というものがあります。その一つが、少しずつ声の上がってきた「2020年の先をどうするか?」という議論です。色々なサイドイベント等で2020年の先を見据えた発言が出始めているようです。2020年以降の意見は、普通に考えれば、このCOP13の後に開かれるSBSTTAといった準備会合で、ブレインストーミングに近い形での各国の意見を共有する場が設けられることになるのではないかと思います。

 

そしてこの議論に関しては、生物多様性条約事務局やIUCNなどは、少し警戒感をもって注視しているようです。というのも、愛知ターゲットの実施状況は厳しいと見られている中で、次の目標の議論に関心が削がれ「残り4年間を努力する」ことがおろそかにならないかといった懸念があるからです。

 

これは、その努力を怠り、愛知ターゲットが全面的に失敗という評価となったら、2010年目標も失敗したこともあり、生物多様性の関係者は、目標立てても達成できない人々と烙印を押されて、信頼を失うのではないかというもっと大きな懸念につながります。また2020年の先についてもっとも問題視されている主張は「愛知ターゲットの達成が失敗しそうなのは、目標が意欲的すぎるから(=宿題ができなかったのは、宿題の出し方が悪い)」というものです。

 

持続可能な開発目標達成のためにも、生態系サービスをもたらす生物多様性を保持しなければいけないにも関わらず、現実的(realistic)という名目で次の目標設定の議論が始まってしまうのではないか、生物多様性条約事務局やIUCNなどは心配しているのが現状です。そんなことはないだろうと思う人がいるかも知れません。しかし、愛知ターゲットを作ったCOP10の時に、意欲度を抑えて、”現実的目標づくり”を最も強く主張した中国が、ポスト愛知目標を決めるCOP15のホスト国となる可能性もありより不安は募っています。

 

意欲的な愛知ターゲットの合意を導いた日本では、まだポスト2020について公式に議論が始まっていませんが、日本がどんなポジションでこの議論に望むのかは、世界的に注目が集まることでしょう。「宿題ができないのは、宿題の出し方が悪い!」という主張に対しては、誰もがかつて言われたことがあるように、「まだ十分時間があるんだから、しっかりやり遂げなさい」と言う声をにじゅうまるプロジェクトをすすめる日本だからこそ発言をしていく必要があるかもしれません。
 

(公財)日本自然保護協会経営企画部副部長
国際自然保護連合日本委員会副会長・事務局長
道家哲平