人と自然の共生と、主流化の最新動向 SBSTTA二日目

SBSTTA21の2日目となりました。気温はどんどん低くなり、積雪もだんだん深くなっているのですが、会場では、サイドイベントも含め熱い議論が交わされています。2日目は、1日目から続くドラフトへの意見を集約したConference room paper(CRP)の議論にも入り始めましたが、全体はやや遅れているような印象を受けます。(会議の進め方は締約国会議ととても似ています。詳しくは、こちらをご参照ください

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サイドイベントでは、日本のIUCNメンバーも活躍中。自然資本についてアフリカと日本の事例を紹介する、コンサベーションインターナショナルジャパンの名取さん

さて、今回のレポートでは、注目している議題の説明と1-2日出された各国の意見を集約してみます。全体としてはSDGsが合意されたというインパクトの大きさを感じた各国の意見でした。

議題3 2050年ビジョンに向けたシナリオと、愛知ターゲットと持続可能な開発目標とのリンク

この議題は、2010年に合意された愛知ターゲットが目指すビジョン「2050年までに人と自然の共生する社会を目指す」(本文はもう少し長いです。)というものが果たして今でも共通ビジョンとしてあるいは実現可能なビジョンとして、妥当なビジョンであるのか。その社会に向けたどういうシナリオで社会を変えていくのか、その際に2030年までの国連目標であるSDGs(持続可能な開発目標)とどのような整合を図る必要があるのかといった議論です。

IPBESでは、これを検討するためのシナリオとモデルを作るプロジェクトがあり、その結論である「2050年ビジョンは妥当であるが、現状の世界の生物多様性の動向は逆の劣化の方向にすすんでいる」も紹介されました。

各国の発言まとめ

・2050年ビジョンは妥当であり、私たちが目指すべき社会としてふさわしいという意見が大部分を占めていた(*人と自然の共生は、日本から提案した概念なので、とてもうれしい意見です)

・IPBESの結論はとても大事なメッセージとして強調したい。他の膨大な関連資料の中に埋もれないよう、決議の付属書にするべき。

・ポスト愛知の枠組みはより意欲的なものが必要、意欲的な目標を打ち立てるなら同時に資金提供も含めた力強い実施メカニズムが必要、コミュニケーションしやすい目標というものを次は考えるべき

・SDGsや仙台防災枠組み、パリ協定など重要な国際目標にとっても、生物多様性の取り組みが重要になるので、その点を強調していくべき。SDGsの変革的な変化(Transformative change)というキーワードも大事

などの意見が出されました。

実施の強化のために、パリ協定のようなコミット&レビュー(各国で目標(NDC)を打ち立て、検討する仕組み)を導入してはどうかといったアイディアや、普及啓発のためのアンバサダーを任命してはどうかという意見も出されました。

 

議題6 エネルギー、鉱工業、インフラ産業、製造業、健康セクターにおける生物多様性の主流化:科学的技術的検討と条約の作業プログラムの活用の視点から

冒頭で、主流化とは、「生物多様性保全を、公的ないし民間の政策や戦略や実践に組み込む過程で、それによる生物多様性の保全や持続可能な利用を進めること」という定義が示され、議論の対象となる産業の重要性が説明されました(エネルギー産業は2040年までに30%上昇。インフラ投資は2030年まで3兆円から7兆円の間で発生、その投資の70%は都市で生じる見込み、メタルや鉱物、製造業は同時に需要が伸びる見込み。)

 

国を豊かにする(GDPを増やす)という(20世紀型?)の国家戦略を考えると、今回議論の対象となる産業群を成長させるという選択肢が取られるわけですが、

 

安易に進めれば自然も破壊され、長期的なサステナビリティのが損なわれます。国際社会は、そうではない持続可能な開発(=SDGsが達成されるシナリオがベストシナリオ)を進めることで合意したのですが、意思決定者は生物多様性のことに関心がなく、どう効果的に情報を伝えるか、意思決定がとても速い中で、どう適切なタイミングに情報を提供するかということが課題となります。

 

話題提供にあったウガンダでは、国家戦略などの、計画プロセスで生物多様性を組み込むことが大事であると考え、緑の成長戦略(Green Gross strategy)を作る際に、生物多様性の視点を組み込むことに成功したそうです。

 

生物多様性に悪影響を出したらGDPも下がるという理屈、自然資本の劣化とGDPの低下が相関すると世界に知ってもらうことが大事であると強調されました。

製造業における生物多様性の主流化。Keringという服飾メーカでは、製品の製造段階における自然のインパクトを可視化

製造業における生物多様性の主流化の事例。Keringというアパレルメーカでは、製品の製造段階毎の自然資源へのインパクトを可視化

各国の発言まとめ

生物多様性国家戦略や、経済発展計画等で生物多様性の配慮を書き込んで配慮を進めた事例、戦略的環境評価・環境影響評価などの開発活動における生物多様性の視点を組み込んだ、セクター毎(例えば、南アフリカは鉱工業に関して)ガイドラインを作成して取り組みを進めた事例、業界との意見交換や情報交流を通じて生物多様性への配慮を進めた事例などの紹介がありました。

 

そのような事例が多く発表されたこともあり、次の議論の場(第2回条約の実施に関する補助会合:SBI2)のまえに各国に情報提供を行い、集約をしてSBI2に提出するよう事務局に依頼する意見が相次ぎました。

 

全体として、トップダウン型で規制を敷いていくというより、対話の実施、優良事例や情報、ツールの提供などを通じて、主流化を実現していくというアプローチを多くの国が求めているように感じました。

 

そのほか、エネルギー産業には、化石燃料による発電に限らず、再生可能エネルギーも視野に入れた議論が必要、革新的変化(Transformative Change)というキーワードが重要、効果的な参画の仕組みや透明性の確保、企業関係者だけでなく、主流化のプロセスにおいて先住民地域共同体やユースの参画も大事にすべきといった意見などが出されました。

 

日本からは、会場では主にプロセス(SBIとの議論の仕分け、重複しないようにするための進め方)についての意見が出されました。

(公財) 日本自然保護協会・IUCN日本委員会事務局 道家哲平