にじゅうまるCOP3 記念フォーラム 「ヒアリとウナギと投資から見る、私達の生活の未来」(終了しました)

にじゅうまるCOP3の1日目午後は、「ヒアリとウナギと投資から見る、私達の生活の未来」と題する記念フォーラムが開催されました。

IUCN日本委員会副会長の日比保史さんは開会の挨拶で、ヒアリとウナギと投資は一見つながりがないように思えるが、生物多様性の視点では生物と食と経済はバラバラのものではなく、融合させないと愛知ターゲットの目標は達成できないことが、このあとの講演やパネルディスカッション、討議を通して理解できるはずと話しました。

 

午後の部 開会挨拶

午後の部 開会挨拶

グローバリゼーションと外来生物

まず登壇したのは、国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室室長の五箇公一さん。生物多様性を脅かす要因の1つに「外来種の侵入」があるが、外来種とはなんらか人の手によって移動させられた生物種で、人間社会にインパクトをもたらすものであることが解説されました。その1例として、オオクチバスが示されました。オオクチバスは戦後、食用目的で導入されましたが、その後スポーツフィッシングのために全国に放流され、その結果として在来種が被害に遭っているとのこと。マングースやアライグマ、ミシシッピアカミミガメなどの例も紹介されました。

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一方、こうした人の手によって食用・ペット用として意図的に移入されたものとは別に、物資の輸送にともなって移入してくる例として、アルゼンチンアリの根絶プロジェクトが紹介されました。根絶のために、科学的知見に基づいて効率的に、かつ根気よく活動を続けることが重要で、なおかつ在来種への被害が少ない方法が確立されたとのことでした。

現在、話題となっているヒアリは、人を刺すという身体的被害だけでなく、電気コードをかじるなど設備への被害、農作物や家畜への被害などをもたらす生きものと紹介。物流のグローバル化にともなって、原産地の南米から世界各地へと拡がってアジアにも急速に拡大している生物であることが紹介されました。物流をストップさせれば移入を未然に防げるが、貿易による経済効果を断ち切ることはできないため、防除方法の確立と普及が急務であると訴えられました。

また、サッカーワールドカップやリオ五輪を機にジカ熱ウィルスが世界的に拡散したように、国際的イベントによって新興感染症ウィルスなどの侵入が拡大するリスクについても注意喚起をされました。

経済から見た生物多様性の今と未来

株式会社レスポンスアビリティ代表取締役・企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長の足立直樹さんからは、経済活動と生物多様性の関係についての講演がありました。

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たとえば森林について見ると、過去300年で世界の森林の40%が消失し、その結果、生きものも激減しています。企業活動の責任は大きく、あるNGOの分析によれば、世界の森林破壊の原因の80%は、木材・パーム油・牛(肉・革)・大豆の生産によるものであるといいます。

「測れないものは管理できない」という発想のもと、この課題を解決するために考えられたのが「TEEB(生態系と生物多様性のための経済学)」や「自然資本プロトコル」であり、国際的には、外部不経済を明らかにして、国家会計や企業会計などへ組み込むことが必要だという考え方が急速に進んだ、と足立さんは説きます。

そしていまや世界の投資家たちがこの考え方に注目していますが、それは近年急増している異常気象や気象災害による経済損失、保険支払いを食い止めるには、また投資先の事業リスクを回避するためには、ESGリスクの高い企業には投資しないと考えるようになってきたためだと分析されました。先進的な企業は、持続可能なビジネスのためには、生物多様性に配慮したサプライチェーン・バリューチェーンを整備し、消費者や投資家へのコミュニケーションを重視することをはじめていることが紹介されました。

未来を変えるためには、市民は、努力している企業を応援するとともに、努力を怠っている企業からは商品を買わないなどして意見を示すことが大切だと、足立さんは訴えかけていました。

ウナギから考える海の生物多様性

3つめの講演は、共同通信社編集委員の井田徹治さんから、海の環境の現状と問題点についてです。

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現在の海は、海温上昇、海洋酸性化に加え、化学物質、リン・窒素、プラスチック、放射性物質など陸上起源の汚染が拡大し、その環境変化に加え、過剰漁獲による漁業資源が減少するという、危機的状態にあり、生きものの棲めないレッドゾーンが拡大しているといいます。

さて、ウナギは温帯では日本、北米、ヨーロッパなどに生息していますが、そのすべてで資源が激減しています。そしてウナギだけでなく、サバ・アジ・トラフグ・スケトウダラなど日本近海に漁業資源や、クロマグロ・ミナミマグロ・フカヒレ・メロなど日本の消費と深く関係するものも資源減少が進行しています。FAOの漁業白書によると、世界のおもな漁業資源の約6割が限界まで漁獲されていて、およそ約3割が過剰漁獲か枯渇状態であるといいます。

このような厳しい状況にありながら、一般市民はさほど危機感を持っていないのはなぜなのでしょうか。井田さんの指摘によれば、そもそも海の中のことは見えにくいことと、海が大きすぎてその規模を把握するのがむずかしいことが要因であるといいます。そして、海から魚がいなくなるなど、想像しがたいから、危機感が募らないのではないかとの見方を示されました。さらに、代替種や代替漁場があるため、スーパーの売り場からは魚がなくならず、そのため、消費者は危機を実感しにくいのだといいます。しかし、資源の崩壊は突然やってくるもので、タイセイヨウタラやベーリング海のスケトウダラなど、一度枯渇した資源は数年間禁漁にしてもなかなか復元しない例がたくさん挙げられました。

井田さんは最後に、海の危機に目を向けるためには多くの努力が必要だと訴えました。それは、海の有限性を心にとめること、海の実態を知る努力をすること、毎日の食べものがどこからやってくるのか想像力を働かせてつながりを考えること、そして、私たちの生活習慣を変えることが大切だと結論づけました。

つながりを拡げることで社会が変革する

講演をした3人の有識者にIUCN日本委員会副会長の日比保史さんを加えて、CSOネットワーク事務局長・理事の黒田かをりさんのコーディネートでパネルディスカッションが行われました。

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自然資本という概念を説明すると、NGOからは「自然に値札を付けるとはけしからん」などと否定的な意見が出ることも多いが、しかし、自然資本とは値札付ではなく、自然が持っている価値を再認識することで、里山なので自然を持続可能に利用してきた日本人にはなじみ深いものではないか、と日比さんからの感想が述べられました。

フロアからもいくつかの質問が寄せられました。「どの製品を選べばいいのか情報が少ない」との疑問には、企業に直接質問をすればいいと足立さんが回答。意識の高い企業には質問そのものが励みになり、意識していない企業には気づきになるからと。また、問題解決のためには組織の中で閉じてしまわずに、エンゲージメントが必要で、そのためにはNGOなどが社会と積極的にかかわる必要があるとの指摘もありました。

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こうした議論を受けて、会場に参加した人たちが数人ずつのグループに分かれて、「良い変化を起こす阻害要因は何か」「それを取り除くためにはどのようなことをしていけばよいか」についてディスカッションしました。

各グループから、下記のような報告が挙げられました。
・行政が動くためには、市民からの声が必要である。
・認証制度を受けた商品は価格が高い。
・魚を「野生生物」と認識することがない。
・「生物多様性」はむずかしそうだから、楽しそうな入り口をつくるべき。
・価値観の違う団体同士では常識のギャップがあるが、「自然プロトコル」がそのギャップを埋める手段になるのではないか。
・そもそも、今日の参加者が少ないのが問題だ。

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これらの疑問や提案に各コメンテーターが意見を述べましたが、なかでも日比さんから、「まずは、隣の人に生物多様性の大切さを伝えることからはじめましょう」と提案が心に残りました。
(報告:原野好正@バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス(にじゅうまるプロジェクトメンバー))