SBSTTA22決定の紹介

SBSTTA22(第22回生物多様性条約科学技術助言補助機関会合)が7月7日(土*延長ではなく、最初から6日間の会合が予定されていました)に終わりました。SBSTTA決定=COP決定案について一部を紹介します。

保護地域

<解説>
自然公園や鳥獣保護区など、自然を守る場所して作られたものを総称して「保護地域(Protected Area)」と呼びます。この議題は、面積ばかりが注目されるのですが、COP10の時から、面積だけではなく、重要な地域を保護すること、効果的に管理すること、広域景観に統合する(都市の真ん中に隔絶した形でつくる保護より、保護区の周辺に里山や、二次林をつくるなどして、自然の連続性を保つことなど)ことの重要性が認識され、目標に組み込まれてきました。
そして、愛知ターゲットでは、法律で指定する保護区以外に、「その他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全する場(Other Area-based Conservation Measure)」という誰も定義を考えていないコンセプトが交渉の中で組み込まれました。今回のSBSTTAでは、今更ながらの指摘がありますが、面積以外の「重要地域、景観との統合、そしてOECMの定義など」の曖昧な要素について、科学的技術的な視点から助言をすることが、求められました。

参考 愛知ターゲット11 保護地域
「2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観や海洋景観に統合される」

今回の決定案には、「景観への統合」「効果的な管理」「OECMの管理アプローチと定義」「海洋保護区の推進」という4つのガイダンスが、付属文書(Annex)としてつけられています。それぞれの付属文書は丁寧に背景説明が設けられ、指針となる原則、ステップ、特定手法、定義などがコンパクトまとめられています。それでは決定案の内容を紹介します。

<決定>
SBSTTAとして、景観への統合・効果的な管理・OECMに関する付属書を歓迎しつつ、海洋保護区の付属書は留意(take note)するという表現に留めました(訳注:科学的技術的に文書にどのような違いがあってメッセージの強弱をつけたのかはわかりません)。

OECMの定義として、仮訳:「OECMとは、保護地域ではない地理的に定義がなされた場所で、
生態系機能やサービス、適用できる場合は、文化的、精神的、社会経済的またはその他の地域に関係(locally relevant)する価値とともに、生物多様性の生息域内保全に関する積極的で持続的な長期の目標を達成する仕方で統治・管理されている場所」という定義が採択されました。

そのうえで、COP14に対して、

景観への統合(付属書1)と保護地域の効果的な管理(付属書2に関するガイダンスの適用、OECMの特定と、OECMのデータを世界保護地域データベースに入力するためのUNEP-WCMC(国連環境計画世界自然保護モニタリングセンター)への情報提供を奨励する案をまとめました。

またCOP14に送る案として、各国に対して、その事例を共有するとともに、IUCNとUNEP-WCMCに対して、政府の支援、保護地域データベースの拡張、その他の関連機関とも共同した能力養成(CapacityBuilding、トレーニングワークショップなど)の実施も奨励しています。

また、締約国に、OECMと関係して、農林漁業セクターにOECMの主流化を促進することも呼びかけています(訳注:OECMは、生物多様性保全上良く管理された農林水産業の営まれる場(田んぼとか)も含む定義・コンセプトです)。

IPBES

<解説>
IPBESは、2018年3月のIPBES総会で、4つの地域アセスメント、土地劣化に関するアセスメントをまとめ、これから地球規模アセスのとりまとめを行う予定です。地球規模アセスは、2019年の5月にフランスで総会が開かれ、そこで採択される予定です。引き続き、外来種の評価が始まるなど、一度財政的な理由などで止まったアセスメントの再開も予定されています。

地球規模アセスの完成をもって、第1期の作業計画が終わることになり、次の作業計画の検討が議論の対象となっています。付属書には、IPBESに検討してもらいたい内容がまとめられています。

<決定>
SBSTTA決定として、IPBESの取り組みを歓迎するとともに、現在進行中の地球規模アセスのプロセスに対する意見提出を呼びかけました。また、次の作業計画に対す意見・提案呼びかけることとし、

COP14の決定として、次期IPBES作業計画は、ポスト愛知枠組みの実施に貢献するとともに、SDGsにも効果的に寄与するものを目指すこと、次期作業計画に向けまとめられ検討実行の要求(付属書)の検討、次のCOP15の前に開かれるSBSTTAで、次期IPBES作業計画の内容についてCBDとして更なる提案事項をまとめるよう依頼する文案をまとめました。

花粉媒介生物の保全と持続可能な利用

<解説>
この議題は、IPBESの花粉媒介生物アセスメントを受けて、COP5に採択された「plan of action for the International Initiative for the Conservation and Sustainable Use of Pollinators」を更新することを目指した議題です。決定案の中には、花粉媒介生物の現状などについてまとめた文書(の抜粋。全文はSBSTTA22/INF21)が付属文書としてつけられています。

<決定>

プランは2018-2030年を計画期間にしています。プランの採択とともに、締約国や関連機関等に対して、花粉媒介生物の保全と持続可能な利用の奨励、調査研究モニタリングの奨励、事務局に対して、FAO等の機関の連携をもとめる決定案を採択しました。

計画は、1:目標・目的・スコープ、2:文脈、3:要素(政策や戦略の条件整備、フィールドでの実施、市民社会や民間セクターの関与、モニタリング・リサーチ・アセスメントの要素で、必要な行動がまとめられている)という目次になっています。

ブラケット(合意に至らなかった)部分は、遺伝子組み換え生物がもたらすミツバチへの影響についての現状認識の部分です。これはCOP14での合意をめざすこととなりました。

愛知ターゲットのフォローアップ

<解説>
議題の正式な表記は「特定の愛知ターゲットの進捗に関する科学的アセスメントと<決定>進捗の加速の選択肢」ですが、この議題は、IPBESによる「生物多様性が全地域で損失しており、良い取り組みが生まれているが効果を発揮していない」という厳しい評価を受けて、臨んだ決定案となります。

<決定>

SBSTTAは現状の結果を厳しく受け止めるとともに、IPBESの4つの地域アセスメントと土地劣化に関するアセスメントをポスト愛知の検討材料に加えるよう事務局長に要請しました。

COP14に対しては、この評価結果に深い懸念を表明するとともに、各国に対して、アセスメント結果の活用、各国レベルのアセスメントの実施を検討するとともに、2020年の愛知ターゲットのために緊急の行動をとることを強く呼びかけることとしました。

  • ターゲット1:持続可能な消費のための態度変容の促進手法としての教育や普及啓発の戦略の開発促進
  • ターゲット3:生物多様性の劣化につながる負の誘導措置の撤廃、改善や正の効果をもつ誘導措置の拡大
  • ターゲット5:森林全体の年間減少率は半減したものの、地域レベルの森林伐採や劣化への取り組み強化
  • ターゲット6:世界の漁業の持続可能性の減少を反転させるための取り組み強化
  • ターゲット7:土壌の生物多様性の保全と持続可能な利用、持続可能な森林管理の改善強化とモニタリングの促進
  • ターゲット8:汚染の削減のための行動の強化
  • ターゲット9:外来生物の拡大防止とすでに定着した種の撲滅
  • ターゲット10:生きたサンゴの世界的な減少取り組み強化
  • ターゲット11と12:保護地域が全生態系をカバーできていないことに注目し、保護地域の管理効果評価の加速、、生物多様性の重要な場所(AZEなど)の保護区化やOECMによる保全と管理強化
  • ターゲット13:保全された食料や農業に関する植物遺伝資源の数が増加していることに注目しつつ、遺伝的多様性の減少の回避のための行動強化
  • ターゲット14,15:生態系復元のための短期行動計画の実施
  • などの行動が呼びかけられました。

付属書には、IPBES地域アセスメントから特定された必要な取り組み事例が列記されています。

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)
*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。