海洋沿岸生物多様性の決定事項

解説:

今回の議論はEBSA(生態学的もしくは生物学的に重要な海域)が重要な焦点の一つとなっています。EBSAとは、どの国の主権にも属さない海(公海)なども含め、生物多様性上重要な海域を特定することを目的とした、COP9(2008)から続いている取り組みです。重要な海域は保護すべきという議論が生まれるので、一部の国は、EBSAを決めることに難色を示すなどCOP9から難しい交渉が行われるテーマでした。

SBSTTA22の文書に書かれている主な内容は、EBSAの基準の変更について検討したワークショップの結果を受け、変更を受け入れるか否か(どうCOPに要請されるか)の検討と重要海域の今後の更新や基準を見直すための専門家会合の必要性についてです。また、人為的な海中騒音、海洋ごみへの対処、寒海域(cold water)における生物多様性および海洋空間計画に関しての進捗報告も含まれています。

各国の政策提言では、国際海洋法条約(UNCLOS)への提案で、「海域で行われるすべての活動の実施に関する法的枠組み」の記載に関して、イギリスが過去のCBDの決議と一致していると指摘し、ギリシャとモロッコから支持されましたが、トルコによって反対されました。

また、EBSAに関する科学的情報の使用に関する協力や情報共有に対して意見が分かれ、COP14に持ち越すこととなりました。

EBSAリストを変更する(既存のEBSAの修正、新規の登録の両方とも)ための手続きについて、EBSA基準の改定については2つの選択肢が専門家会合から示されましたが、どちらかを選ぶことも、その内容を修正することも合意を得ませんでした。①国連総会でのプロセスの進展を損なうことなく、国の管轄を越える海域でのEBSAの変更を強調するべきかどうか、②更新されたEBSAの記述がSBSTTAに提出され、COPで検討されるべきかについては結論が出ませんでした。また、EBSA基準を満たす新しい分野の記述を誰が開始できるかについてもCOP14へ持ち越しとなりました。

【関連する愛知ターゲット】
目標6:2020年までに、すべての魚類と無脊椎動物の資源及び水生植物が持続的かつ法律に沿ってかつ生態系を基盤とするアプローチを適用して管理、収穫され、それによって過剰漁獲を避け、枯渇したすべての種に対して回復計画や対策が実施され、絶滅危惧種や脆弱な生態系に対する漁業の深刻な影響をなくし、資源、種、生態系への漁業の影響が生態学的に安全な範囲内に抑えられる。

目標10:2015年までに、気候変動又は海洋酸性化により影響を受けるサンゴ礁その他の脆弱な生態系について、その生態系を悪化させる複合的な人為的圧力が最小化され、その健全性と機能が維持される。

決定事項:

COP14での決定案として、EBSAの地域ワークショップの報告に基づいて、現在の決定書草案と併せてSBSTTA22で歓迎し、黒海とカスピ海、およびバルト海の重要海域をEBSAに含め、国連総会に提出するよう要求しました。

また、昨年開催された、重要海域の記述を変更するための方法を考える専門家ワークショップの報告を歓迎しました(が、そこで出された結論を採択するか、留意いするかはCOP14に持ち越されました)。愛知ターゲット、SDGs達成に向けて、生物多様性条約事務局、国連食糧農業機関(FAO)、国際海事機関(IMO)、国際海底局、地域の漁業団体の間で、さらなる協力と情報共有を求めました。

また、生物多様性条約下で進む重要海域の基準に関するプロセスの結果が、沿岸国の管轄権、または他の国の権利を損なってはいけないことが合意されました。更に、伝統的知識をEBSAを変更する際のプロセスに組み込むことの重要性を指摘し、先住民地域共同体がEBSA変更に関するすべてのプロセスに確実に参加できるように要求しました(伝統的知識という言葉の表現方法については合意ができていません)。

その他の事項では、冷水域、海洋漂流物、漁業における主流化、海中騒音の影響緩和、海洋空間計画についてこの間の進展を留意するとともに、その情報を締約国、他の政府および関係機関に活用することを奨励しました。

No gene driveを訴えるキャンペーンに使われたピンクチキン

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生物多様性わかものネットワーク 大江奈巳
(中央大学/法学部/法律学科3年)