9月2日 第3回ポスト2020作業部会 CG4、CG3、CG2

第3回ポスト2020作業部会の最終日前日となる9月2日の7時から、コンタクトグループ4,3,2の順番で会議が行われました。最終日前日に、会議が詰め込まれるのは、生物多様性条約会合のいつもの風景です。

日本のNGOとEU代表団とのポスト2020枠組みの意見交換の様子

日本のNGOとEU代表団とのポスト2020枠組みの意見交換の様子

CG4 行動目標13-21

行動目標17 バイオテクノロジー(ファーストドラフト)

Establish, strengthen capacity for, and implement measures in all countries to prevent, manage or control potential adverse impacts of biotechnology on biodiversity and human health, reducing the risk of these impacts.

影響リスクを減らしながら、バイオテクノロジーが生物多様性や人間の健康に及ぼす潜在的な悪影響を防止、管理、抑制するために、すべての国で対策を確立し、そのための能力を強化し、実施する。

意見としては、バイオテクノロジーの良い面を評価するような記述(入れ方には様々なバージョンが提示されました)や予防的アプローチの言及、リスクを自然だけでなく人へのリスクも同じように対策していくべきという趣旨からの修正案、生物多様性影響だけではなく社会経済配慮の記述(カルタヘナ議定書第26条)

また、数的要素としての、allの削除を提案する物もありました。

バイオテクノロジーの影響ではなく、国際移動に関するバイオテクノロジーの影響と射程を狭める意見。新規技術に対するホリゾンタルスキャニング(他分野からの多方面技術評価手法)の提案をもありました。

行動目標18 奨励措置の改善(ファーストドラフト)

Redirect, repurpose, reform or eliminate incentives harmful for biodiversity, in a just and equitable way, reducing them by at least US$ 500 billion per year, including all of the most harmful subsidies, and ensure that incentives, including public and private economic and regulatory incentives, are either positive or neutral for biodiversity.

最も有害な補助金を含めて、生物多様性に有害な補助金を少なくとも年間5,000億米ドルを削減しつつ、それらの奨励措置の方向転換、目的変更、改革、廃止を、公正かつ公平な方法で行い、かつ、公共および民間の経済的・規制的インセンティブを含むインセンティブが生物多様性にとってプラスまたは中立であることを確保する。

意見はかなり多岐に渡りました。

悪影響かどうかを「特定する」というステップを入れる意見

5000億ドルを削除する意見(金額の根拠や妥当性、計算方法への疑問)と、5000億ドルは控えめな推計値として保持を希望する意見。

インセンティブ(奨励措置)に加えて補助金を入れる意見や、更には、税制や調達方針にも拡張しようという意見がある一方、インセンティブを、農業と漁業に限定する意見。また、意欲度をより高める意見として「あらゆる(all incentives)

また、インセンティブを好影響または中立化に加え、好影響のインセンティブの増加を加える意見

表記をWTOなどとも整合するものにすべきという意見、などです。

行動目標19 資源動員(ファーストドラフト)

Increase financial resources from all sources to at least US$ 200 billion per year, including new, additional and effective financial resources, increasing by at least US$ 10 billion per year international financial flows to developing countries, leveraging private finance, and increasing domestic resource mobilization, taking into account national biodiversity finance planning, and strengthen capacity-building and technology transfer and scientific cooperation, to meet the needs for implementation, commensurate with the ambition of the goals and targets of the framework.

あらゆる資金源からの財源を毎年2,000億米ドル以上ずつ、増加させる。これには、新規の、追加的で、効果的な財源を含み、途上国への国際的な資金の流れを年間100億米ドル以上増加させること、民間資金を活用すること、国内の資源動員を増加させることなどが含まれ、国の生物多様性資金計画を考慮に入れ、能力構築と技術移転、科学協力を強化することで、枠組みの目標とターゲットの野心に見合った実施のためのニーズを満たす。

こちらも意見が多岐にわたり、この目標になると、意欲度を求める国が逆転するといういつもの展開が見られました。

数値の観点でいうと、2000億ドルという原案に対し、もっと意欲的な目標が必要として、7000億ドル、1兆ドル、世界GDPの1%といったアイディアが出ました。他方、数字の検証が必要あるいは、根拠がないとして、[ ]や数字への言及の削除を主張する意見もありました。また、途上国への資金も、100億ドル(原案)では不十分として、400億ドルという数字も出されました。

その他、途上国への資金は、「政治的・経済的な制裁の有無にかかわらず」アクセスできるという意見や、新しい生物多様性基金を創設する意見。

中央政府だけでなく、あらゆるレベルの政府での資源動員という表記の提案がありました。国際的なフローは測れないので、あらゆる国における資源動員(性質上各国で計算できて、実務的)にするという案もあります。

民間による資金増加への期待を述べる意見もあれば、先進国が条約20条に定められている義務を果たすのが先という意見もあります。

また、資源動員と、能力養成や技術移転を分けて記述するという案

行動目標20 先住民の知識含む、知識の改善・活用(ファーストドラフト)

Ensure that relevant knowledge, including the traditional knowledge, innovations and practices of indigenous and local communities with their free, prior, and informed consent, guides decision-making for the effective management of biodiversity, enabling monitoring, and by promoting awareness, education and research.

先住民地域共同体の自由、事前、および十分な情報に基づく同意と共に得られる彼らの伝統的な知識、技術革新、慣習を含む、関連知識が、モニタリングを可能としながら、生物多様性の効果的な管理のためや、啓発、教育、研究の促進による意思決定の指針となる。

意見としては、先住民地域共同体の参画や知識に関する尊重について言及する意見と、生物多様性関連の知識に関する調査研究の推進に関する意見が出されました。変わったところで、脚注に、この目標がDSIと連動する旨をつけたいとする意見もありました。

行動目標21 意思決定への参画(ファーストドラフト)

Ensure equitable and effective participation in decision-making related to biodiversity by indigenous peoples and local communities, and respect their rights over lands, territories and resources, as well as by women and girls, and youth.

生物多様性に関する意思決定に、先住民や地域コミュニティ、同じく、女性や少女、若者が公平かつ効果的に参加できるようにし、土地、領土、資源に対する彼らの権利を尊重する。

意見としては、女性・ユースに加えて例示(子供、脆弱な人々)の追加する案、効果的な参加をより具体化するための提案として、参加のためのプラットフォーム・政策・手続きの強化といった表記や、参加のための情報へのアクセスなどの表記追加の提案がありました。

また、環境問題における人権擁護者の安全確保という指摘もあります。IPBESグローバルレポートでは、保護地域のレンジャーや活動家が害されてきたことを課題としており、それに答える提案と思われます。

CG3 行動目標9から12

行動目標12 持続可能な都市(ファーストドラフト)

Increase the area of, access to, and benefits from green and blue spaces, for human health and well-being in urban areas and other densely populated areas.

都市部やその他の人口密集地における人間の健康と福祉のために、緑地や親水の空間の面積、アクセス、そしてそこから得られる恩恵を増やす。

意見としては、目標値として面積をX%増加させるという数値目標の設定の提案、緑地等の質(biodiversity safeguardとかquality)や、連続性の記述を入れる案、緑地や親水地に加えインフラストラクチャー(都市公園)の追加、都市や人口密集地という表記だけでなく、緑地等がない地域(disadvantage area)といった対象拡張の意見もありました。

また、かなり具体の提案として、緑地等が徒歩20分の距離にあるようにするとか、緑地等へのアクセスだけでなく、繋がり(Connection)も入れたいとする意見がありました。

行動目標13 ABS(ファーストドラフト)

Implement measures at global level and in all countries to facilitate access to genetic resources and to ensure the fair and equitable sharing of benefits arising from the use of genetic resources, and as relevant, of associated traditional knowledge, including through mutually agreed terms and prior and informed consent.

遺伝資源へのアクセスを促進し、遺伝資源の利用や、関連する場合、伝統的知識の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を確保するために、相互に合意した条件および事前に十分な情報を受けた上での同意を通じた対策も含め、世界レベルおよびすべての国で対策を実施する。

意見は、やはりというべきか多岐に渡ります。

地球レベルだけでなく、広域、国レベルでの実施が重要とする意見。ABSの対象を拡張して、派生物やDSIを入れる意見あ、「あらゆる形態の遺伝資源の利用」といった表現を提案する国。対策(Measure)だけなく、世界レベルの仕組み(メカニズム)を組み込み、名古屋議定書で議論が進む多国間メカニズムに含みをもたそうとする意見も見られました。その他、アクセスの条件として、FPICの概念に言及する意見などが出されました。

 CG2

行動目標6 外来種

Manage pathways for the introduction of invasive alien species, preventing, or reducing their rate of introduction and establishment by at least 50 per cent, and control or eradicate invasive alien species to eliminate or reduce their impacts, focusing on priority species and priority sites.

侵略的外来種の導入経路を管理し、その導入・定着の割合を少なくとも50%防止・削減し、優先種や優先地域に焦点を当てながら、侵略的外来種を制御・根絶して、その影響を排除・削減する。

意見としては、外来種の分布範囲や生物多様性への影響、経済セクターへの影響などの低減といった目標の拡張、KBAの言及、侵入初期段階の観測強化と迅速対応、国際協力による国境の手前での対策、優先度の高い外来種とその他の外来種とを分けながらの目標設定、法律や規制枠組み、能力構築などの行動要素の具体化、

一方で、数値目標設定への疑問。新たな侵入を半減するといった数値目標の提案、ユニークなところで、外来種管理や防除の新たな革新的手法の支援と開発といった意見もありました。

行動目標7 汚染

Reduce pollution from all sources to levels that are not harmful to biodiversity and ecosystem functions and human health, including by reducing nutrients lost to the environment by at least half, and pesticides by at least two thirds and eliminating the discharge of plastic waste.

環境中に放出される栄養素を半分以上、農薬を3分の2以上削減し、プラスチック廃棄物の排出をなくすなど、あらゆる発生源からの汚染を、生物多様性や生態系の機能、人間の健康に害を与えないレベルまで削減する。

多様な意見が出されました。pesticideよりもbiocideのほうが広範な概念ではないか、汚染の種類として、その他の汚染(例えば鉛や重金属)という表記や、騒音や光害も対象とするべきという意見、蓄積的影響や汚染物質の相互影響などもカバーすべきとする意見、プラスチック廃棄ではなくプラスチック汚染や、汚染物質の環境への放出抑制を行動目標とする意見がありました。放出された汚染の減少という意見もありました。

数値目標については、賛否やあるいは判断が現時点でつかないという意見が見られました。数的理由を入れないという理由としては、汚染はタイプや場所によって変わり単純な目標の設定が難しいという意見、ある特定の農薬を減らすことが他の農薬を増やすなどの問題が起こすという意見、人の健康に関して言えば、閾値や科学的根拠が不十分で実務的でないという意見です。一方、最も生物多様性に悪影響を及ぼす農薬の特定と2030年までに撤廃するとか、農薬の「量」ではなく、生物多様性への影響を減らすというアプローチなら可能という意見も見られました。

再利用の推進や、循環経済(サーキュラー・エコノミー)戦略、農薬を必要としない新たな手法への投資といった提案もありました。

行動目標8 気候変動による悪影響

Minimize the impact of climate change on biodiversity, contribute to mitigation and adaptation through ecosystem-based approaches, contributing at least 10 GtCO2e per year to global mitigation efforts, and ensure that all mitigation and adaptation efforts avoid negative impacts on biodiversity.

気候変動が生物多様性に与える影響を最小限に抑え、生態系に基づくアプローチで緩和と適応に貢献し、世界の緩和努力に年間10GtCO2e以上を貢献し、すべての緩和と適応の努力が生物多様性への悪影響を回避する

意見としては、生物多様性条約と気候変動枠組み条約との適切な連動にも触れながら、出されました。大きなところでは、自然に根ざした解決策(Nature-based Solutions)というコンセプトを使いたいという意見と、使用を避けたいという意見ははっきりと生まれました。

その他には、レジリエンスという概念、炭素が豊かな生態系の保全や回復、NDCを使った生物多様性と気候変動の連動という要素、権利ベースアプローチ、コミュニティーベースアプローチや、非市場型アプローチ、

数値目標の10ギガトンについては、保留、削除、維持それぞれの意見が出ました。

道家哲平(IUCN-J事務局長/日本自然保護協会)