ジュネーブ会合におけるNGOの交渉戦略

CBDアライアンス

CBDアライアンスは、NGOステークホルダーグループの代表と認識されている、NGOの緩やかな連合体です。当会もメンバーとして参画しています。メンバー組織は、普段はそれぞれの団体で活動しており、メーリングリスト(ML)を通じて情報共有をしています。今回のような会合の際には参加者のみのMLを作成し、会合に関連する情報を共有しています。会期中の活動としては、①毎朝のミーティング、②共同での提言作成・発言、③締約国との打合せ、④ECO(提言・ニュース)発行、⑤会場内外での意見表明活動、などを行っています。③については、3/21にEUとの会合を行いました。④は、基本はオンラインですが、3/21には紙媒体を発行しました。過去の対面会合では毎朝紙媒体を配布していたのですが、COVID-19の影響で会合がオンラインになったことから電子媒体に変更したという経緯があります。

CBDアライアンス ECO

CBDアライアンス ECO

メンバーの多くは地域または特定分野の課題に取り組んでいる小さなNGOの方ですが、世界中なNGOの地域支部の方も参加されています。CBDアライアンスとして連携することが多いIPLCやユースの方がミーティングに参加されることもしばしばあります。基本的な方向性は、「生物多様性に関連する権利所有者(IPLCなど)を尊重し、いかなる自然破壊も認めず、政府主体の取組み(特に法規制)を求める」というものです。ゆえに、ビジネスに対して非常に否定的であり、「ビジネスの自主的取組みは一切認めない」という発言も多く聞かれます。今回の会合では、CBDの色々な議論の中にビジネス界からの提言や関与があることを非常に問題視するメンバーが、会期当初からポスターアクションを行っています。

ビジネスに対するポスターアクション

ビジネスに対するポスターアクション

グローバル自然保護NGO

世界自然保護基金(WWF: World Wide Fund for Nature)コンサベーション・インターナショナル(CI: Conservation International)バードライフ・インターナショナル(BirdLife International)野生生物保全協会(WCS: Wildlife Conservation Society)などのグローバルな自然保護NGOは、近年共同で提言を行っています。これらのNGOは自ら科学的調査・研究を世界中で行うと共に、政府やビジネスと連携した活動も数多く行っています。例えば、WWFは先にご紹介したビジネス・金融の自然関連財務情報開示によるNature Positiveを進めようとしているTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)の創設に深く関わっています。

グローバルNGOの提言から私が感じるのは、「権利所有者を尊重し、科学的根拠に基づき、政府に規制を含む政策の立案・実施を求めると共に支援し、金融・ビジネスに投資家からの圧力による自己変容と透明性の高い情報開示を求める」という姿勢です。

この中で、「ビジネスを積極的に支援し、行動変容を促す」という活動スタイルは、2010年代半ばくらいから強まってきたと私は認識しています。この対応は、前述のCBDアライアンスとは正反対と言っても過言ではありません。そのためかどうかは明確ではありませんが、以前はこれらの団体の本部の方がCBDアライアンスの朝のミーティングに参加することもあったのですが、近年は見られなくなっています。

その他のNGO

近年のCBDの会合において存在感を強めているNGOにAvaazがあります。Avaazは主にウェブ署名という手段を用いて政策提言や市民への普及啓発を行っている組織です。様々な社会課題に取り組んでおり、自然保護を中心に据えている上記の組織とは異なるミッションを持っています。

Avaazは、3/19にジュネーブ会合参加者100名程度を招き、マンダリン オリエンタル ジュネーブ ホテルでレセプションを開催しました。知り合いの日本人の研究者が招待を受けたことから、同伴者として私も参加させていただきました。OEWG共同議長や各国政府団の方が参加されていましたが、日本の政府団からの参加はありませんでした。

Avaazはこの中で、レセプションにおいて配布した100頁に渡る提言書の内容についてプレゼンし、提言への賛同を呼びかけました。また、世界中から会合に参加しているAvaazスタッフ10数名が積極的に参加者と交流する姿が見られました。

Avaazのレセプションでの発表

Avaazのレセプションでの発表

Avaaz提言書

Avaaz提言書

単独のNGOがこのような大規模のレセプションを開催するというのは過去に記憶がありません。今回のジュネーブ会合では、公式のレセプションは無く、ビジネス・フォー・ネイチャーがレセプションを開催したと聞いています。Avaazのレセプションが効果的だったかどうか、今後の会合において機会があれば聞いてみたいと思います。

このように、NGOというステークホルダーグループの中にも、多様な組織があり、NGO内外の多様な連携があります。それらの組織には自身の信念に沿った戦略と、それに基づく活動があります。信念の違いが行動を分かつことも少なくないのが現状ですが、私としては、より多くのNGOが連携し、交渉により大きな影響を及ぼせるようになることを期待しています。

宮本育昌
(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)