SBSTTA24からのCOP15勧告案紹介

ジュネーブ会合を構成する会合の一つ第24回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA24)は3月27日10時(日本時間17時。サマータイム開始により、3月27日から1時間ずれています)に最終のプレナリーが行われ、いくつものブラケットを残しつつも、COP15への決定案をまとめました。

以下、その主要なポイントを紹介します。議題のあとのLはLimited CirculationのL文書の番号となっています。筆者によるポイント解説のため、詳しくは本文をご参照ください。

GBO5(L2)

GBO5の扱いに[Welcome歓迎するor Take note留意する]ブラケットを残したまま採択

モニタリング枠組み本体(L10)

ヘッドライン指標(Headline Indicator)、要素指標(Component Indicator)、補完指標(Complementary Indicator)を設定する方向で議論しているが、それを、指標の扱い方については、ポスト2020枠組みの結論を待って取りまとめる方向が読み取れます。

主要な論点としては、
ヘッドライン指標をGBF達成の判断材料とするか(その熟度があるほど、目標に整合する指標を設定できるか)、
ヘッドライン指標や要素指標のモニタリングに必要なデータを各国のモニタリングや報告と連動できるか、
指標の開発やモニタリングにかかる能力養成と開発のための途上国支援、

指標開発のための暫定的な技術部会(ad hoc technical expert group,)の設立やその技術部会の作業内容等、SBSTTAやSBIなどの関り方なども整理されました(IPBESとの関係がまだ決まっていませんが)、、、が文章全体を一旦ブラケット(合意されていない)という扱いにしたいと主張する国もあり全体がブラケットとなりましました。科学技術助言補助のための会合なのですが、、、。

IPBESへの要請(L4)

IPBESへの要請事項ですが、今年の7月にも総会があり、その総会の結果も受けてCOP15決議を行いたいという意見もあり、いくつもブラケットがかかるようになっています。IPBESは、第9回総会を2022年7月に、第10回総会を2023年4月か5月に開催。IPBESグローバルアセスメント作成を第9回総会で決定する予定だが、同時に、CBDからの要請や期待が寄せられれば、第10回総会で対処するという計画でいます。

合成生物学(L5)

ある技術を想定した合成生物学というよりは、合成生物学と呼ばれる領域に含まれる各技術が持つ(あるいは、もたらす)課題等をどう評価し、生物多様性条約でどう扱うかを検討する内容となっています。ホリゾンタルスキャニングと名付けられた生物多様性視点に限らない多様な専門性を活かした技術検証を行う方向性は共通解のようですが、その専門家会合の持ち方、専門家会合、作業範囲とその技術会合を受けたSBSTTAとCOPの関り方などについては、未定状態となっています

農業と土壌の生物多様性(L7 )

土壌の生物多様性への注目が高まっており、土壌の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国際イニシアティブの採択(ブラケットかかっていますが)を中心とする決定案です。

国際イニシアティブは、土壌の生物多様性の重要性や危機を紹介する「1章導入」、国際イニシアティブの「2章目的・目標」、「3章範囲と原則」「4章グローバルアクション」「5章主要な要素と活動」「6章その他のガイドラインの活用」の全6章11ページからなる文章です。
主要要素は
要素1:政策の一貫性と主流化、要素2:持続可能な土壌管理手法の利用促進、要素3:意識改革、知識の共有、能力開発、要素4:調査、モニタリング、評価、となっており、それぞれ10~15程度の必要な行動が特定されています。

外来種(L8)

外来種は、COP13や14以降、外来種の侵入経路(一般的なものから、特定の侵入経路)、管理、コミュニケーションに関して、専門家会合を開催し、下記4つの付属書を作成しました。

(a) 侵略的外来種の管理に最も適した費用便益と費用対効果の分析方法、および侵略的外来種の導入が社会的、経済的、文化的価値に与えうる影響に関するリスク分析

(b) 生きた生物の国境を越えた電子商取引に関連する追加的なリスク及びその影響を特定し最小化するための方法、ツール及び手段

(c) 気候変動とそれに伴う自然災害及び土地利用の変化から生じる潜在的なリスクの防止に関連する、侵略的外来種の管理のための方法、ツール及び戦略

(d) リスクコミュニケーションを支援するための、侵略的外来種とその影響に関する既存のデータベースの使用。
(e) 侵略的外来種の管理に関する追加の助言と指針

を考慮し、さらなる改良を加えるとともに、関連機関(貿易や動植物衛生に関する部局や国際機関)へのメッセージや共同作業などの整理を行いました。事務局に対する要請もかなり事務的な要請が多いものの、いずれも、国際取引(自由貿易を原則とする)に影響を与えるため、良い決定案がまとまったと思います。

生物多様性と健康(L9)

新型コロナのような新興感染症と森林破壊などの生物多様性損失との関係、野生動物と人との接点の多様化、そして、生物多様性損失の根本要因となる社会の動きに課題から「生物多様性と健康」は非常に大きな課題として、ジュネーブ会合でも複数回会合を開催して、決定案の検討を行ってきました。勿論、生物多様性と健康は、感染症などの疾病に限らず、精神的な健康にも大きく関わります。SBSTTAでもほぼまる一日を検討に要しました。グローバルアクションプランのドラフトもあった(文書案)のですが、COP15での採択をあきらめる形となり、そのことに失望の声を上げる国もありました

COP15決定案としては、ワンヘルスアプローチの定義などを留意しつつ、
締約国に対して、

新型コロナからの持続可能で包摂的な復興を目指し、生物多様性の保全や利用に寄与することで、さらなる感染症の発生リスクを抑制すること、ワンヘルスアプローチの生物多様性国家戦略への組み込み、生物多様性と健康の課題の主流化、

を奨励し、

ワンヘルス4者協議会、ワンヘルスハイレベル専門家パネルなどに対し

ポスト2020枠組みにおけるワンヘルス適用ガイダンスや、ポスト2020枠組みの指標開発、事務局とも協力して締約国に対して能力養成や技術移転資源動員機械の提供を検討すること

を奨励し、

条約事務局に対して、

生物多様性と健康に関する地球規模行動計画案の更新版の作成と、締約国に呼びかけ更新版の評価を行うこと、その結果をCOP16前に開催されるSBSTTAに提出すること

を要請する案を作成しました。

合意に至っていない要素は、前文において、IPBES生物多様性とパンデミックワークショップ報告書の扱い(総会での合意を経てないので一部の国が言及に否定的)、地球環境ファシリティーへの資金支援要請(SBSTTAは、技術的助言機関であって資金関係の提言案を作成できない)、DSIの言及(「遺伝子情報を一か所に自由に利用できる形で保持されることでワクチン開発等が容易になるとし、そこに、生物多様性条約が定める利益配分が発生すると、薬事開発が阻害される」という主張と、何らかの利益配分の対象であるとの主張の対立)などがあります。

なお、ワンヘルス(アプローチ)の定義は、

ワンヘルスとは、人、動物、生態系の健康を持続可能で、バランスよく最適化することを目的とした、統合的、統一的なアプローチである。これは、人間、家畜、野生動物、植物、そしてより広い環境(生態系を含む)の健全性が密接に関連し、相互依存していることを認識するものである。このアプローチは、社会のさまざまなレベルの複数のセクター、分野、コミュニティを動員して、人の福利を育み、健康と生態系への脅威に対処するために協力し、清潔な水、エネルギー、空気、安全で栄養のある食品、気候変動への対策、持続可能な開発への貢献という共通のニーズに取り組むものである。

というものになっています。(ワンヘルスハイレベル専門家パネルによる定義)

海洋生物多様性の保全と持続可能な利用、重要海域(EBSA) (L11,12)

この議題は、同時に、国境を越えた海域の生物多様性に関する国際交渉(正式名称:4th Session of the Intergovernmental Conference (IGC) on the conservation and sustainable use of marine biological diversity of areas beyond national jurisdiction (BBNJ).がニューヨークの国連本部で、開かれていたために、その会合の成果を待ったこともあり、SBSTTA24の会期中にほとんど議論し、課題を前に進めるための時間を取れなかった議題です。そのことに、マレーシアやセーシェルなどが遺憾の意を表明し、交渉ができていない状態などを正確に紹介する文言を新たに入れ込むことがプレナリーで行われました。

道家哲平

国際自然保護連合日本委員会