生物多様性条約COPとは何か(解説)

*COP11(2012年)の際に書いた文章を、COP13に合わせて作成しています。

締約国会議(COP)と一体なんなのかということについて、大変長い文章になりますがまとめたいと思います。日本の皆さんというよりは、どちらかというと、このCOPの会場に来られている方への情報になります。国際条約の会議について、実務面含めて、丁寧に解説している資料がほとんどないので、一読の価値があるかと思います。

CBD-COPは、決議(Decision)と呼ばれる政策に関する文書をまとめ合意する動きと、世界各地から多様な人々が集まり、意見や情報を交流したりするなかで場合によっては決議にも影響を与えるフォーラム的な動きとに大別されます。

 

フォーラムとしてのCBD-COP

決議の合意プロセスは長くなるので、フォーラム機能の紹介からします。

 

フォーラムとはここでは、サイドイベント、プレスカンファレス、展示、RIOコンベンションパビリオン、CEPAフェア(COP9から始まった)など条約事務局がマネジメントする=国際会議場(セキュリティチェック内)で行われるものをさしています。そのほか、企業フォーラムや、交流フェアや自治体サミットなどホスト国などがマネジメントするイベントがあります。

 

フォーラム的動きの中に、優劣があるか(=決議への影響力の大きさの差異)というと、形式上はありません。イベントの中身やそこで提起される提案が「国や条約事務局含め、多くの人々を巻き込み、取り組むべき重要な課題である」と思わせるものかどうかが影響力を持つかがポイントと思います。もちろん、展示とサイドイベントはコミュニケーションの質が全く異なるため(情報量、一方向と双方向のやりとりかなど)、目的にあわせたイベントを選ぶ必要があります。

 

フォーラムは、最新の現状報告や、新しいユニークな取り組みの紹介、COP決議に答える形で条約事務局が行うもの、市民や先住民地域共同体(IPLC:Indigenous People and Local Communites)が本会議でおこなった提案の背景にある具体事例を伝えるもの、海外の方と知り合う機会を作るネットワーク形成につながるものなどさまざまなです。後述するCOPの合意形成は195カ国の合意なので、なかなか前に進まない部分もありますが、フォーラムはその分野に影響力を持つグループ間の共同がどんどん進みますので、「決議」という形でなはない国際社会の合意形成がなされていくこともあります。

意思決定機関としてのCBD-COP

大まかなフォーラム的動きの説明を終えたところで、決議の合意プロセスについて解説します。

 

決議を考える際の大前提は「195の国と地域の合意である」ということです。経済も社会も文化も違う国が集まって1回でものを決めるのはとても困難なことです。そのため、COPの前から多くの合意形成に向けた取り組みがあります。

 

その一つがSBSTTAとかWGRI(COP12以降はSBIに改組)などと呼ばれる準備会合になります。このCOPで決議されようとしている物事は、準備会合で「COPで決定すべき事項案」という形で一度議論されたテーマである(ことが多い)のです。さて決議実物を見たことがない方もいると思いますが、実体は文字だらけの文章です。 http://bit.ly/Tiw0IM

 

195の国と地域のそれぞれの思いを言葉にして、共通の認識を一言一言、文章に直していく作業が、COPの合意形成プロセスです。準備会合で一度検証した文書は、CBD事務局の追加もあり得ますが、決議案(Draft Decision)として会議の前にまとめられ、このDraftに対して、色々意見を言っていくのがCOP第1週目で行われていることです。general remarkとか呼ばれたりしますが、Draftに対して皆で意見を出します。国だけでなく、NGOもILCも提案できます。全意見を出し合ったところで、それを一つの文書にまとめ会議用文書(CRP:Conference Room Paper)が事務局によって作られます。

 

CRP文書は、また、in-session document(会議期間中文書)に分類されることもあります。in-session documentの中には、意見が多岐にわたり過ぎまとめきれていないもの、作業部会であつかうには意見が割れすぎている文書は、non-paperとかchair’s textという名前で会議で使われます。インセッション文書は、ウェブサイトの特別な場所にアップされ、時に応じて、会場内のネットアクセスから出ないと読み込めないという仕様がとられることもあります。

 

CRP文章は、作業部会で1段落ずつ修正を繰り返し、合意点を模索しながら、言葉を確認していきます。全部段落を合意したところで、L文書というのが事務局の方でまとめられます。L文書は、最後の文書(LastのL)という意見と、配布注意(Limited CircurationのL)という意見があります。配布注意というのは、会議後、正式に翻訳や文法の確認等を行う必要がある文書というニュアンスです。私の理解は後者です。

 

L文書だからもう修正が入らないかいうととそうでもなく、わずかな修正を本会議の場でやることもあります。それが意味合いを大きくかえる可能性があると、議論を蒸し返すなと怒る政府団のかたもいて、本会議での交渉再開のバトルが場合もあります。

 

そんな決議をきめる合意形成は、本会議(plenary)>作業部会(Working Group。個別課題を扱う第1作業部会、全体課題を扱う第2作業部会に分かれる。逆の時もある)>コンタクトグループ、フレンズオブチェアー、インフォーマルグループという、大きく3種類の性質のことなる会議で進みます。

 

本会議が最終意思決定機関(日本の国会でいえば、衆参本会議にあたる)です。

 

作業部会(国会でいえば、環境委員会などの本会議の下に置かれる会議)は、本会議から付託された議題を取り扱い、決議案を議論してCRP文書を作り、CRP文書を検討してL文書にして、本会議(Plernary)に送る役割を本会議から付託されています。COPでは、必ず二つ設置されます。

 

作業部会の下に設置されるコンタクトグループは、特定課題を集中的に議論する必要がある場合に、必要に応じて、設置されるグループです。本会議、作業部会、コンタクトグループまではオブザーバーも参加可能となっており、フレンズオブチェアーやインフォーマルグループは、NGOが入れない場合もあります。確かメディアは、本会議・作業部会まで入れて、コンタクトグループは傍聴できなかった(気がするのですが、)その時の議長采配次第というのが経験です。

 

本会議の議長はホスト国の代表が担い、作業部会の議長は各地域から選出されるCOPビューロ(運営委員)が指名されます。コンタクトグループ等の議長は、ビューロであったり、そうでなかったりとルールがあるのかはわかっていません。

決議の読み方

さて、ドラフトにしろCRPにしろ、文書を手にしてこれをどう読めば良いかということが次の課題になります。文字面だけだと何が重要かは分かりにくいからです。これから、私の場合の読み方を紹介します。人によって違うと思いますので、一参考情報と受け止めてください。

ステップ1「文書の構成を理解する」

文書の構成は大きく3つに分かれます。welcomingとかnotingといった段落最初の動詞が進行形になっている段落で構成される「前文preamble」、welcomeとかnoteと動詞になっている「本文operative paragraph」、そして「付属文書Annex」です。

 

なお、前文には、本文の結論を導く経緯や、配慮事項や、大きな貢献をした国や団体への謝意などが書かれます。そして、付属書は経験上重要な文書であることが多いです。名古屋議定書の条文や戦略計画(愛知ターゲット)も各種ガイドラインも、決議本文ではなく、付属書としてCOP10決議に入っています。

 

では、付属書が一番重要かというとそうではありません。文書の構成という観点で、重み付けすると 本文>付属書>前文 となります。なぜならその付属書を公式文書として「採択adopt」するか、参考するものとして「考慮take note」するのかは、その本文で決まるからです。

 

ステップ2 本文の読み方を知る

さて、本文をどのように読んでいくかというと、ここでもちょっとしたコツ(自分ルール)があります。私の場合は冒頭にくる動詞の種類で段落の重み付けをしています。本文の冒頭に斜体で書かれている動詞を眺め、注目すべき段落を絞り込む方法です。

本文の読み方1「強い動詞」を探す。

強い動詞とはこの場合「採択adopt」「合意agree」「承認endorse」「決定decide」などの言葉です。決議とは193カ国の合意ですが、「決めごと」に近い意味をもつ動詞は重要な意味を持つことが多いです。

本文の読み方2「事務局への要請」を探す。

大抵本文の後半には「request exective secretary」というフレーズからなる段落があります。国に何かを要請することはありますが、実現しないことも多いのが実情です。それに対して、事務局は、この事務局への要請を実施する責務の元、実施のためにスタッフを割り当て各国から供出された資金を活用しながら実行し、COPに報告しなければならないので、具体的に物事が進む中身があるパートとして私は注目します。

本文の読み方3「国や機関の責任を読む」。

次に注目するのは「求めるcall on」とか、「奨励するencourage」など、誰かに対して何かを求める文章です。締約国や他の機関などに求められている事項が何かというの分かる動詞です。目的語に「人や組織」が入る動詞とでも言いましょうか。

本文の読み方をまとめると、決めごとに近い動詞>事務局への要請>目的語に人・機関をとる動詞という順で重要さを判断するというところです。

動詞の強弱については、まとめたものがありますので、こちらをご参照ください

生物多様性条約決議に頻出する動詞の解説(PDFファイル)

 

くどくど書くのは一番簡単と思われる「詳しい人に聞く」という方法が意外と難しいという現状があります。こういう会議はみんなそれぞれの目的をもって参加しているので、その人が大事と思われる事が全体の中で大事と説明されることが多いので、ちょっと注意が必要です。もちろん、どんな思いで会議に参加しているのを聞くこともすごい大事なことなんですが。

 

なお、上級編で過去の決議文と比較して重要なものを探すという手法があります。これまで何にも言及されていなかったものが「新規で加わる」という動きに注目する方法です。文章の読み込みが重要で難しいですが。

 

英語ですが、環境条約の交渉全般に関する政府参加者(初心者)のためのガイドブックがここにあります。

http://www.unep.org/environmentalgovernance/Portals/8/documents/NegotiatorsHandbook.pdf

UNEPのハンドブックです。英語ですが基本的な条約会議用語がわかります。

 

(公財)日本自然保護協会 道家哲平