SBSTTA前日:NGO準備会合での論点共有

雨のモントリオール・オールドタウン

雨のモントリオール・オールドタウン

モントリオールは日本の時差が14時間です。ちょうど11月1日の深夜にサマータイムが終了しました。午前2時が2回ある?という状況なのですが寝ていたので、時計がどう表示されていたのか見られませんでした。

さて、SBSTTAを翌日に控えた日曜日は、CBDアライアンスコーディネートによる準備会合が開かれました。この会合では、生物多様性条約に関する各自が持っている情報や関心、懸念などを共有し、今週行なわれる会合の論点・注目点などを共有します。どうしても生物多様性条約は幅広い内容を扱いますので、それぞれの分野から専門的に追っかけているNGOが集まって行なうこういう準備会合はとても重要なプロセスとなっています。

半日かけての議論だったのですが、ごく簡単に議論を紹介します

SBSTTAの進め方について

今回のSBSTTAは通常よりも短い日程で、しかも途中で8(J)に関する作業部会(先住民が有する伝統的知識の保護に関する専門会合)などが開かれることから、扱う議題も、時間、条約事務局がまとめた決議案も2−3段落程度の内容な少ない議題設定になっています。このような進行になった背景共有や、問題点などを話し合いました。
大きな問題としては3点が指摘されました。
1点目は、多くの議論を次の会合等に持ち越すことによって、次の会合でいろんなテーマでの会合が乱立し、NGOとしてフォローしきれなくなる、途上国の政府が交渉に参加できなくなることなどが生じないだろうかということ。2点目として事務局作成の資料が論点や状況を非常に端的にまとめているのですが、それらを「条約事務局ノート情報を参照しよう」という結論だけで終わって、本当に重要な点がハイライトされなくなるという意見が出されました。どうしても、COPでの決議に書かれていることしか注目が集まらず、決議の補助機関会合の資料が重要と明記されていてもなかなか一目につかないという状況が予想されます。3点目に、交渉の時間が少ないということは、環境省以外の省庁が来ても実質的な議論に入れず、生物多様性の観点で農業や林業がどうとらえられるかを知ってもらう機会を失うのではないかということでした。

SBI(実施に関する作業部会)とSBSTTAとIPBESの役割の違いについて疑問や、メキシコ政府が注目している「メインストリーミング(主流化)の議論の一部が紹介されていました。また、ハイレベルセグメントの開催日程の変更などの共有も行ないました。

議題毎の注意してみていくべき論点などが共有されましたのでまとめます。

議題3(戦略計画・愛知ターゲットのフォローアップ)について

おしなべてほとんどの議論をSBI(条約の実施に関する補助機関会合)に先送りしている印象が強い準備資料となっているので、様子を見ていこうといった雰囲気です。メキシコ政府の提唱で、主流化(特に第1次産業)がかなり強調されて書かれているのですが、このSBSTTAへの出席者は環境関連省庁の方が中心で、農業関連の省庁が来ていない会議においてどこまで議決に書かれたとして実現が可能なのか、実施についてどのようにフォローしていくかが大事ということを共有しました。また、愛知ターゲットに関する指標にはまだ不十分な点があること(保護地域面積が拡大しているのに、生物多様性の損失は止まっていないということは、単なる面積拡大だけを目標値にしてはいけないのではないか)なども話し合いました。

議題4(個別テーマ)について

4.1 生物多様性と健康:あまり大きな争点がないというのが大方の印象。生物多様性条約でどこまで取り組むべきものなのかみんな計り兼ねているという状況でした
4.2 地球工学:非常に大きな争点をはらんだ議論となるだろうという予測を共有しました。IPCCや地球工学側の論理で書かれている事例が多く問題が大きいという意見がだされました。地球工学を推進する議論として、「温暖化は生物多様性にとって悪影響を及ぼす事象。なので、温暖化を止める地球工学は、生物多様性にとってよいこと」という主張で、地球工学の実証そのものが及ぼす影響についてほとんどレビューされていないということを懸念する声がありました。地球工学には、海洋施肥/肥沃化(COP9で、暫定停止(モラトリアム)を合意)、炭素貯蔵、太陽光制御などの様々なアイディアが検討されているようです。
4.3 森林:森林については、注意をしないと、モノカルチャー(単一植林、プランテーション)で作られた森林も「森林」としてカウントされてしまう定義の問題、市民や地域共同体が管理する森林(入会)などについてほとんど言及がないこと等が注意するべきという議論となりました。

(公財)日本自然保護協会国際担当主任・IUCN-J事務局長 道家哲平