生物多様性条約・8条j項及び関連する条項に関する第7回作業部会のまとめ

今回の作業部会では、

①8条j項 と関連する条項のプログラムに関する進捗報告、

②先住民族及び地域共同体の効果的な参加を促進する仕組み、

③10条(特にc項に着目) に関する新しい主要な要素、

④改定された複数年計画のタスク7、10、12、

⑤改定された複数年計画のタスク15、

⑥伝統的知識の保護(protection)のための特別な(sui generis)制度の開発、

⑦分野別議題とその他の横断的な課題に関する掘り下げた対話:生態系管理、生態系サービスと保護地域、

⑧伝統的知識と慣習的利用に関わる指標の開発

の計8つの議題が扱われ、2012年10月にインドで開催されるCOP11に向けた議論が行なわれました(議題の概要に関しては、”第7回8条j項に関する作業部会メモ”を参照)。基本的には、プレナリーと呼ばれる全体会合にて、COP11に向けた提案書に対して各国及び関係するセクター、特にこの作業部会においては、先住民族及び地域共同体からコメントがされます。ただ、10条に関する議題やタスク7、10、12に関する議題などでは、コメントが多い関係で、コンタクトグループが立てられ、そこで、実質的な言葉の交渉を実施することになりました。

 

今回のまとめ報告では、特に、③10条(特にc項に着目) に関する新しい主要な要素、④改定された複数年計画のタスク7、10、12に焦点を充てたいと思います。

タスク7、10、12に関しては、COP10で採択された名古屋議定書の運用にもかかわる要素ということもあり、また、各国で関心の高い特別な(sui generis)制度にも関わるテーマのため、どうその作業を進めていくのか、交渉が行なわれました。EUやノルウェー、及び一部の南米の途上国は、伝統的知識、遺伝資源の保護に関する議論は世界知的財産権機関(WIPO)でも実施されていることを考慮する必要があることを強調していました。他方、アフリカやアジアの途上国及び先住民族及び地域共同体は、WIPOの作業を考慮することはできないとし、懸命にWIPOという言葉を文書の中から、削除しようとしていました。WIPOでの作業を懸念する理由については、先住民族及び地域共同体の方に話を伺った所、WIPOで実施されている作業、特に実質的な言葉の交渉において、自分達がそもそも参加することが許されていないことを理由に挙げていました。また、より効果的に作業を進めていくために、どのような手順でドラフトを作成していくのか、議論が紛糾していました。特に、専門家グループによる作業を組み込むかどうか、という点においても異なる見解が目立ちました。結果的には、専門家グループは、今後の作業をみて検討することになり、また、WIPOの作業に対しては、本文からはほぼ削除され、1点だけブラケット(未合意)という形でCOP11に送られることになりました。

 
続いて、10条cに関しては、ドラフトの段階で、このガイドラインを作成すは、法律を作ることを支援するために、作ろうとしているものとしており、特に、タスク3、4がその法律に言及をしているタスクだったため、多くの国から懸念が表明されました。また、ガイドラインで扱う問題・課題に関しても議論になりました。カナダは、持続可能な健康(Health)、土地利用、水などに関する扱うべきと提案をしている一方で、先住民族及び地域共同体からガバナンス(Governance)、気候変動の影響、ジェンダーを扱うことが提案されました。先住民族及び地域共同体による提案は、作業部会ルールに則って、1つ以上の締約国が賛成を表明しないと、その文言が挿入されないのですが、アフリカグループを代表して、エチオピアが賛成して、挿入されました(ただし、多くの国が懸念を表明していました)。議論の結果、タスク3、4における法律に対する言及も削除され、また、新たに今後の検討も含めて、扱う領域を拡大することになりました。これで、2012年のCOP11で合意がされると、本格的なガイドラインの交渉などが開始されていくことが望まれます。

 

参考資料
1.国際持続可能な開発研究所(IISD)による5日間の報告書(英語)
2.会議が開催される前に配布された資料(英語)
3.会期中に配布された資料(英語)

報告 小林邦彦(IUCN日本委員会 アルバイト)