第1回アジア国立公園会議レポート①(開会式と3つの基調講演)
11月13日~17日に仙台で開催の第1回アジア国立公園会議(1st Asia Parks Congress)のレポートその1です。
【今回のテーマ:国立公園がつなぐ(parks connect)】
人と自然、人と人、保護地域と保護地域の外部をつなげるという趣旨が込められています。保護地域を代表するものとして「国立公園」という言葉になっていますが、すべての保護地域が対象です。例えば、にじゅうまるプロジェクトのメンバーが保全に取り組んでいる里山やラムサール条約湿地、世界遺産、ユネスコエコパークなども含まれています。
【開会式と基調講演2(武内 和彦 氏)】
~三陸復興国立公園・みちのく潮風トレイル~
会議参加者や仙台市民など約500人が参加し、共同主催者として環境大臣、IUCN会長の挨拶、宮城県知事、仙台市長らの来賓挨拶がありました。その中で、今回の”自然災害と保護地域”の取り組み例の一つとして注目されている、三陸復興国立公園やみちのく潮風トレイルが紹介され、自然とともに復興していく東北の力になり、人と人、人と自然を温かくつないでいく場として取り組むことが強調されました。また、アジアの「自然との共生」文化の考え方を世界に発信し、どんな取り組みが一緒にできるかを考えていくべきとも発言されました。
続く基調講演の2番目では、武内和彦さん(国連大学上級副学長・中央環境審議会会長)より三陸復興国立公園の創設について詳しく紹介されました。三陸復興国立公園は、岩手、宮城両県に広がる陸中海岸国立公園に、青森県の八戸市と階上町にまたがり、ウミネコの繁殖地などがある種差海岸階上岳県立自然公園を編入した もので、「青森県の種差海岸から福島県の松川浦をつなぎ、人と人の交流を促進し地域を活性化して復興に貢献する国立公園としたい。また、震災の遺構を保存し、自然の脅威「登ろう、日本の山へ」を伝える場とし、三陸ジオパークと連携して国際的取り組みとつなげたい」と構想されています。
【基調講演1(田部井 淳子 氏)】
~被災者との登山とエベレストの今昔~
女性として世界で初めて世界最高峰エベレストと七大陸最高峰への登頂に成功した、田部井 淳子さん(登山家)は、「登ろう、日本の山へ」と題して講演されました。たくさんの写真とともに、自身の被災者支援活動としての登山、エベレストと環境問題、そして現在の日本の山々の様子について紹介されました。
まずは、東日本大震災で被災した方とのハイキングや被災高校生との富士山登山の様子について。被災により傷つき、希望を失ったり、やり場のない思いを抱えていた方々が、自然に触れ、山に登ることで元気を取り戻し、もう一度チャレンジしようという気持ちになったというお話。自然や登山には、部屋の中の話し合いではどうしようもない気持ちを癒す、不思議な力があるようです。
エベレストについて
(写真は、初登頂当時(左)と、現在(右)のベースキャンプの様子。氷河の後退の様子が分かります。)
初登頂の頃は、登山隊が入山してからシェルパと一緒に氷河と氷河をつなぎ、道を作ったそうです。でもこれは、1日1団体しか登山しなかった時代のこと。現在では、1日何人でも登れ、行列ができているそうで、予め道を作ってくれたシェルパにお金を払って通るので、頂上まで続く有料道路になっています。他にも、たくさんの登山者による酸素ボンベなどのゴミやし尿の問題、エネルギー源としての木材伐採の問題、氷河の後退、登山口の街カトマンズの大気汚染についてお話しされました。
【基調講演3 (アーネスト・エンカリン氏)】
Ernest Enkerlin-Hoeflich氏(IUCN世界保護地域委員会(WCPA)委員長)からは、保護地域の重要性についてのお話。まずは生物多様性に関する世界の2020年目標である「愛知ターゲット 」と保護地域の関係について。保護地域に関する目標11以外にも、20の目標ほとんどとの深い関わりが紹介されました。また、保護地域のもつ役割として
・気候変動により起こる食料や水の不足問題解決にも保護地域は重要な役割を果たすこと
・保護地域は重要な二酸化炭素吸収源であること
・105の大都市のうち35都市(ニューヨークやジャカルタなど)は保護地域の森から供給される水を生活用水に利用している現実
・メキシコでは保護地域の森林減少は他の地域の10分の1であり、保護地域の効力がみられること(ゼロにする理想の実現は難しい)
といった解説がありました。
(IUCN-J にじゅうまるプロジェクトスタッフ 種田あずさ)