IUCN70 周年記念シンポジウムの報告
2018年10月2日(火)に国際連合大学にて国際自然保護連合(IUCN)70周年記念シンポジウム「自然を基盤としたSDGsの達成 ~日本から世界に発信する新しい協働~」
を開催しました。非常に内容が濃く、実りあるシンポジウムとなりました。
主催:国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)
共催:野生生物保全論研究会、日本野鳥の会、ラムサール・ネットワーク日本、国立環境研究所、日本自然保護協会、コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、地球環境パートナーシッププラザ
協力:環境省、中越パルプ工業株式会社
後援:ESD活動支援センター
119名の方がシンポジウムに参加、シンポジウム後の若手を対象としたインガー事務局長との懇談会には約30名程度の参加がありました。
シンポジウムの様子
【第一部 IUCNのレガシー】
IUCNのこれまでを振り返る動画とともにスタートし、竹本氏(UNU-IAS)、渡邉氏(IUCN-J)による開会挨拶を経て、第一部がはじまりました。
第一部は、吉田氏(IUCN-J2020準備会共同代表)による基調講演の後、ファシリテーター井田氏(共同通信)のもと、吉田氏、鳥居氏(環境省大臣官房審議官)、石原氏(三井住友信託銀行)による鼎談が行われました。
吉田氏による基調講演では、IUCNのこれまでの歴史の振り返りや、種の保存・地域を保護するためのIUCNの取り組み、世界保全計画などについて講演が進み、生物多様性条約に関する内容、2020年の後どのように取り組みを進めていく必要があるのか、などについてSDGsに絡めた内容へと続きました。
IUCN(International Union for the Conservation of Nature and Natural Resources)はもともとIU“P”N(International Union for the “Protection” of Nature)であったが1956年に改名したという組織の名前に関わる話。Sustainable development(持続可能な開発)の定義が、IUCNが1980年に定義したconservation(保全)の定義から生まれたものであること、現在2020年に向けて取り組まれている「にじゅうまるプロジェクト」の次は「さんじゅうまるプロジェクト」ができるかも?など、歴史を振り返らないと出てこない興味深い事実あふれる基調講演でした。
続く鼎談では、3名のスピーカーのIUCNとの関りやどのような組織として見ているのか、などの質問を中心に進み、最終的にはIUCNの抱える課題や将来伸ばすべき点などについて聞くことができました。
個人的に印象的だった部分は、吉田氏による2020に向けて自然保護が主目的でない団体(農林水産業や企業など)を巻き込むこと、そのためににじゅうまるプロジェクトを広めることが必要という点と、IUCNの事務局や専門委員会に日本人が少ないため、IUCN勤務する特に若手を増やし、IUCNでの日本人の立場を今より確立していくべきという提案でした。
鼎談の様子
【第二部 自然を基盤としたSDGsの達成に向けて】
第二部は、インガー氏(IUCN事務局長)の特別講演からはじまり、NGOなどの事例発表へと続き、最後に事例発表者をパネラーに迎え、「日本から世界に発信する新しい協働」というテーマでのパネルディスカッションが行われました。
インガー氏の特別講演では、自然が人間にとってどのくらい有益なものなのか(食料・水・居住地、健康、災害リスク軽減など)という内容に加え、自然を基盤とした解決策はコスト効率が高く、近い将来に利用可能であり、複数の利点を提供するということを述べられ、その例としてSDGsの一部(6、11、13、15など)に貢献することができるということを話されていました。何よりも、約20分間の講演を力強く情熱的にされていたことがとても印象的でした。
特別講演を行うインガー事務局長
続く事例発表では、名取氏(コンサベーション・インターナショナル・ジャパン)による自然資本・自然資本プロトコルに関する内容や、岩橋氏(日本自然保護協会)による企業などの他セクターとの連携事例、安藤氏(ラムサール・ネットワーク日本)によるポスト2020を見据えた田んぼの生物多様性10年プロジェクト、増田氏(国連大学サステイナビリティ高等研究所)による持続可能な開発のためのガバナンスなどについて、SDGsや生物多様性の主流化などの観点から、4団体の発表がありました。
最後のパネルディスカッションでは、モデレーターに星野氏(地球環境パートナーシッププラザ)を迎え、フロアも巻き込むディスカッションが展開されました。主な論点は主流化をどのように進めていくか、という内容になっていましたが、フロアからの活発な質問、多様な参加者による意見などがあり、有意義なものとなっていました。
パネルディスカッション後は、渡邉氏による総括・閉会挨拶にてシンポジウムの幕を閉じました。
懇談会の様子
シンポジウム後に交流会と懇談会が行われました。懇談会はインガー氏と若手を中心としたもので、IUCNのビジョン・目的や仕事内容、それらに関する内容についてインガー氏から説明を受けたのち、質疑応答を行う、という形式で実施されました。また、外務省からJPO派遣制度(*1)に関する説明もなされ、多くの若手がIUCNで勤務することを推奨する内容となっていました。
*1:JPO派遣制度=自国の若手職員を国際機関に送り込むために多くの国が実施する制度であり、日本では外務省が費用を負担して実施。IUCNも対象機関のうちのひとつ。
懇談会の様子
ポスター展示ブース
主会場であるエリザベスホールの裏に位置するラウンジにて、IUCN-J加盟団体や協賛企業によるポスター展示を行いました。IUCN-J加盟団体からは、コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、日本野鳥の会、野生生物保全論研究会、国立環境研究所、日本自然保護協会、国際自然保護連合日本委員会による6団体の展示がなされました。また、協賛企業からは、中越パルプ工業株式会社、株式会社良品計画、株式会社シール堂印刷、リゾートトラスト株式会社による4企業からの展示がなされました。主に第一部と第二部の合間の休憩時間にて、ポスター展示ブースも非常ににぎわっていました。
ポスター展示ブースの様子
プログラムと発表資料
第一部 タイトル 「IUCNのレガシー」 13:00~14:30
■基調講演 吉田正人氏(IUCN-J2020 準備会共同代表)PDF
■鼎談 吉田正人・鳥居敏男(環境省審議官)・石原博(経団連自然保護協議会)・ファシリテーター 井田徹治(共同通信)
第二部 タイトル 「自然を基盤としたSDGsソリューション」 15:00~17:30
■IUCNのSDGsに向けた取り組み インガ―・アンダーセン氏(IUCN事務局長)
■IUCN加盟団体・UNU-IASによる取り組み事例の紹介
1.名取洋司(CIジャパン) 「自然資本・自然資本プロトコル」PDF
2.岩橋大悟(日本自然保護協会) 「企業連携による絶滅危惧種保全・地域づくり貢献型調達」PDF
3.安藤よしの(ラムサール・ネットワーク日本) 「田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト これまでの成果とポスト2020行動計画作り」PDF
4.増田大美(国連大学サステイナビリティ高等研究所) 「持続可能な開発のためのガバナンス」PDF
■パネルディスカッション 「日本から世界に発信する新しい協働」
・モデレーター 星野智子(地球環境パートナーシッププラザ)
③交流会(交流会の最中に若手を中心としたインガー事務局長との懇談会)
このシンポジウムは(独)環境再生保全機構地球環境基金と経団連自然保護基金の助成を受けて開催いたしました。
IUCN-J 矢動丸琴子