2020に向けたラストスパートへ:UNDB-DAYレポート

2018年11月19日、生物多様性条約(CBD)第14回締約国会議(COP14)CEPAフェアにて、国連生物多様性の10年(UNDB)の8年間の成果と、残り2年間の行動を呼びかけるUNDB-DAYという1日がかりのイベントを開催しました。

開会の辞は、主催者を代表して、環境省中澤地球戦略室長より行われました。主催者を代表して、共催の生物多様性条約事務局、多忙の中依頼を受けてくれたスピーカーに謝意を述べました。また、日本が提案して実現したUNDBについて1日かけて、これまでの成果、残り2年間の取り組み、そして2020年から先の目標について意見を出し合うことの重要性について強調されました。

 

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会場の様子

セッション1 「主流化に関する優良事例共有」

セッション1は、主流化を進めるメカニズムや仕組みについて共有するパート1と、主流化の担い手である企業、NGO、ユース等の役割について話し合うパート2に分かれてイベントが行われました。

 セッション1 パート1 主流化を進めるメカニズムについて

CBD事務局デイビット・アインズワース氏からは、CBD事務局の進める活動について発表がありました。現状のコミュニケーションについてCBDにどんな強みがあり、課題があり、発展の機会があるかを包括的に検討するSWOT分析の結果を披露しました。今後のポイントとして、CBDに関係のない人に届くメッセージを作ること、そのメッセージをSDGSと結び付ける(=人々の健康や福祉など、生きものそのもの価値だけでない価値)こと、人々と自然を結び付けることの重要性を指摘しました。

日本自然保護協会の道家哲平からは、UNDB-Jのメンバーとして、UNDB-Jの活動紹介を行いました。UNDB-Jが、多様な主体からなる組織であること、コミュニケーションの戦略(CEPA-TOOLkit)をもって取り組んでいることを説明し、その戦略の中で、「生物多様性の本箱」「生物多様性MY行動宣言」「にじゅうまるプロジェクト」「生物多様性アクション大賞」「認定連携事業」などがどう機能し、UNDB-Jのメンバーによって発展しているかを紹介しました。また、2020年に向けた発展として、「生物多様性せいかリレー」という企画をしていることを伝えました。

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UNDB-Jの活動紹介の様子

ドイツのUNDBユースアンバサダーのゲリット氏からは、ドイツの取り組みを紹介しました。ドイツでは、UNDBにふさわしい事業の認定(550事業がこれまで認定)、地域や全国セミナーの実施、著名人の親善大使に加えて、ユースの親善大使の任命や、集中的におこなうテーマを2年に1度定めて行動しているなど、日本のUNDB-Jと近い取り組みをしていました。なかでも、ユース親善大使は非常に活発に活動を行っているらしく、日本でも取り入れるべき仕組みだと思います。

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 ゲリット氏

カメルーン環境・持続可能な開発省のプリシラ氏は、生物多様性条約25周年も記念して行われた普及啓発の活動の紹介がありました。1か月近い取り組みの中で、大学生の生物多様性研究コンテスト、生物多様性のパレード、女性グループを巻き込んだ地元食材をつかったガストロノミーイベントの様子を紹介しました。ガストロノミーイベントの参加者は、生物多様性保全のイベントと異なる参加者が期待できることから非常によいアイディアと思いました。

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 プリシラ氏

イオン環境財団星田氏からは、イオン環境財団による、人と自然を結び付け持続可能な社会を実現するための取り組みが紹介されました。イオンによる植林の取り組み、MIDORIプライズや受賞者との連携、生物多様性日本アワードの受賞事例のなかから特徴的なものとして、WWFジャパンが支援して日本初のASC獲得した宮城漁協カキ養殖の事例が紹介されました。また、宮崎綾超では植林によって、ポリネーターの保全と日向夏の収穫量増につながった事例があり、その製品をイオンで販売するという、保全と地域経済と地域社会の活性化を、消費者を巻き込んで行っている事例の紹介がありました。

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 星田氏

パネルディスカッションですは、MY行動宣言が、様々な主体で活用されるようになった理由や、2020年に向けた今後のアイディアなどについて議論が行われました。

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 パネルディスカッションの様子

 

セッション1 パート2 変化の担い手 企業・NGO・ユース・IPLCs

パート2では、主流化をになう様々な立場の団体から、最新の活動事例について共有がありました。

電機電子4団体生物多様性ワーキンググループの土田氏(エスペック)から、電機電子4団体による包括的な生物多様性の取り組みついて、特に、新しく発表した、「Let’s Try Biodiversity」という中小企業を想定したガイドラインについて紹介がありました。

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 土田氏

国際NGOのコンサベーションインターナショナルのロワン氏からは、Exchangeという世界各地に展開するCIの力を活用し、各国の現場を視察し、学びあうプログラムの紹介がありました。目的を明確にすること、フォローアップの資源を用意しておくことなど、交流を一過性のものにしない、効果的な交流のためのノウハウの共有も行っていただきました。

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 ロワン氏

ユースからは、生物多様性グローバルユースネットワーク(GYBN)のクリスティアン・シュヴァイツァー氏とメリーナ・サキヤマ氏から、ユースグループが2010年に生まれ、Aichi世代が8年間の活動をけん引しているという発言がありました。そのうえで、ユースが次世代という扱われているので、「次」と言わず今すぐユースに資源投資をして活動を活発にすることが重要だと指摘しました。グローバルユースネットワークでは、CBDNutshellというユースの参加を促進するための国際会議へのガイダンスや現場でのトレーニングワークショップを行ったり、愛知ターゲットの進捗状況をインフォグラフィックで紹介するなどの活動報告がありました。また、各地域で、能力養成のワークショップを実施したり、生物多様性チャプターと呼ばれるユースの活動計画作りなどの事例紹介が行われました。

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 クリスティアン氏とメリーナ氏

先住民地域共同体からは、多くの先住民の管理する地域で、先住民地域共同体がもつ管理手法の継承や、地域の植生についての深い知識を掘り起こすとともに、近代科学(分類学や分子生物学など)の領域での把握・応用の推進の可能性があること、そのためこれまで以上に先住民地域共同体の取り組みや権利への尊重や、先住民を巻き込んだ取り組みの重要性を強調しました。

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 先住民地域共同体に関する発表

パネルディスカッションでは、電機電子4団体として次の活動発展のステップとして何を検討しているか、ユースの中でどのように世代を引き継いでいくかという質問が出されました。電機電子4団体の宮本氏からは、Let’s Try Biodiversityなどを今後英訳し、アジアにも広がるグループ・サプライチェーンの企業に活用してもらうことで大きな生物多様性保全への大きなインパクトを生み出す可能性があるといアイディアが披露されました。ユースも、ユースワークショップの中で、比較的若い世代、ユース、オーバーユースの参加者を交える工夫をすることで経験が引き継がれるようにしたいという提案がありました。

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パネルディスカッションの様子

 

セッション2 国連生物多様性10年のファイナルスプリント

ランチ後に再開されたセッション2は、これからの2年間更なる愛知ターゲット達成の取り組みを加速させるファイナルスプリントと位置付けて、2020年に向けた取り組みを紹介しました。

インドネシア環境林業省のタメン氏からは、保護地域の管理に地域住民を巻き込み、さらに、保護地域周辺(バッファーゾーン)での持続可能な利用・エコツーリズムを推進している事例が紹介されました。とくにバッファーゾーンで企業とも連携しながら循環型の経済活動を推進しようとしている点などは日本と近い印象を受けます。この事業はJICAの支援も入っていることから、日本の国立公園で展開しようとしている協働型管理のアイディアが活かされているのかもしれません。

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 タメン氏

WWFのクリスティーナ氏からは、アースアワーという3月24日の夜8時に世界一斉にソーシャルアクションを行う取り組みの紹介と、各国に参加してほしいという提案が行われました。これまでアースアワーは気候変動のキャンペーンの一環として実施されていたのですが、2018年から生物多様性も組み込んだ事業へと衣替えをしており、多くの国で、ツイッターのトップキーワードになるようなアクションが行われています。また、この活動の特徴は、いろいろなビジュアルマテリアルがオープンソースであるというところで、WIFIマークのような共通キービジュアルを様々な形に自由に加工できることでより多くの方に多様なアプローチで参加を促すことができていることも紹介されました。

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 クリスティーナ氏

国際NGOで、行動科学・心理学などを用いて自然保護のための普及啓発・地域住民の能力養成を行っているRareのリサ氏からは、2020年に向けて活動をしていく上で考慮すべきこととして、行動科学の活用や、社会規範を変えるという視点を持つことの重要性を指摘しました。特に、従来の自然保護が、どのようなルールや規制を作るか、経済的なインセンティブを作るか、どう情報発信するかというところに力を入れているが、より多くの人を巻き込む場合、社会的なインセンティブや感情に訴えかけるアプローチが重要で、それに加えて最も重要なのは「選択の構造(Choice Architecture)」であると強調しました。選択の構造というのは、人の行動を変えるときに、情報提供を受けたり、経済・社会的インセンティブがあったとしても、行動の手前で「従来の行動をとるか」「別の行動をとるか」という選択があり、どう選択肢を提供するかが行動を変える鍵であるという説明です。例えば、寄付を募ったときに、郵便振込用紙を手渡す(記入してもらって、近くの郵便局に行ってもらう)のと、スマホに入っているアプリを使って簡単に寄付できる選択肢を提供するのでどちらが寄付という行動に移りやすいかということを想像してもらえると分かりやすいかもしれません。

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 リサ氏

4番目の話者は、経団連自然保護協機会の石原氏で、経団連自然保護協会の活動、とりわけ、25周年記念事業として東南アジアの生物多様性保全に関わるグループの能力養成を行う「SATOYAMAUMIプロジェクト」の紹介に加え、2018年10月に改訂を発表した経団連生物多様性宣言について紹介を行いました。新宣言では、企業のトップによるコミットメントの重要性を訴えた点、日本国内だけでなくサプライチェーンや支社など視野を広げて地球規模で日本の企業が生物多様性にコミットすること訴えた点を紹介。参加者からも驚きと歓迎の声を伴って受け入れられました。

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 石原氏

質疑応答では、2020年に向けた能力構築、資金調達、NGOとの連携など様々な点で質問が集まりました。経団連石原氏からは、企業そのものが変わるのと同時に、企業がどういうソリューションを提示するかで、ステークホルダーや消費者による、生物多様性への態度変容を促す可能性の大きさを強調しました。企業との連携についてはインドネシアのタメン氏やJICAの阪口氏からも重要性について指摘され、今後、愛知ターゲット達成のための残り2年間の行動加速のキーツールであると回答しました。このほか議論の中で、経済の視点をもって共同体の中で貧困層に価値ある取り組み、互恵的な利益を意識することがより行動を加速するという提案がありました。

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パネルディスカッションの様子

セッション3 愛知からポスト2020へ、2050年ビジョン自然との共生に向けた次の10年に我々は何をするべきか

長い1日がかりのUNDB-DAYの最終セッションは、愛知からポスト2020へ、2050年ビジョン自然との共生に向けた次の10年に我々は何をするべきか(From Aichi to Post-2020 – What We Should Do Next Decade 2021-2030 toward Biodiversity 2050 Vision “Living in Harmony with Nature”)と銘打ってプログラムが開かれました。

最終セッションの報告は公式レポートのIISD/ENBでも紹介されました。リンクはこちらから

国連大学高等研究所武内氏からは、SDGsとポスト2020を強くリンクさせることの重要性が指揮されました。同時に、目標だけでなく、目標達成のためのガバナンスとして、自然資本を世界・国・地域などの多様なレベルでガバナンスを構築する取り組みや、SATOYAMAイニシアティブやIPBESの成果の活用を提案しました。

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 武内氏

WWFのギュンターミットラッハー氏からは、ドイツ政府からの支援で行われている事業で、世界の人口と自然の半分をカバーする10カ国を対象とした自然に対する人々の価値認識に関するアンケートの結果を紹介し、国ごとによって差異はあるものの、多くの人々が生物多様性を自分事として責任を持った行動をとることに肯定的な意見を持っていることを明らかにしました。そして、人々の暮らしやその資源としての自然とを結びつける(自分事化する)メッセージを発信することと、人々が通常持っている環境配慮行動(無駄なごみを出さない、清掃する)をフックに生物多様性にとって望ましい行動を提案するというアプローチを提案しました。

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 ギュンター氏

生物多様性ユースネットワークのメリーナ氏、クリスティアン氏は、世界各地のユースとつながりながら、次世代という特別な位置ではなく、意思決定を行う一人としてポスト2020の検討プロセスに加えるべきであるということ、ポスト2020は、今の目標を引き継いで展開されるべきもので、愛知ターゲットと別物ととらえるべきでないということを指摘しました。そのうえで、愛知目標が達成できなかったのはなぜなのか真剣に取り組まないと、10年ごとに同じように目標が達成できなかったという話を繰り返すことになるということ、世界には、反民主主義、ポストトゥルース、ポピュリズムなどが広まりリーダーへの信頼を失いつつあることに懸念を表明しました。だからこそ、ポスト2020はボトムアップで作り上げるべきと強調しました。

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 メリーナ氏とクリスティアン氏

IUN-CECを代表して、CECの特別アドバイザーも務めるCBD事務局のデイビット・アインズワース氏からは、CECの#Nature for Allの取り組み、中でも、環境教育と態度変容に関する世界中の論文をメタ評価したレポートを紹介しました。その報告書では、知識は重要であるが人の行動を変えるほどの力はないこと、自然とのつながっている感覚(Connectedness)、子供時代の積極的な自然体験や自然を守るロールモデルの存在が行動を決定する重要な要因であること、自然にかかわる活動があらゆる世代で幸福や健康につながっていること、自然の中での社会的な経験が自然とのつながりを高めるなど明らかになった成果を紹介。ポスト2020の議論で検討されるべき成果であると強調しました。

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 デイビット氏

 

シュジン中国環境科学研究所は、COP15での成功に向けて中国は多くの方と協働をしていきたいとと宣言されました。中国生態環境省のジョウ・ユーユ氏からは、変革(Transformative)がキーワードであると指摘し、COP15のホスト国としてどんな役割を演じるべきかなどを検討していることを披露しました。COP15の開催に向けて、ドイツや日本などかつてCOPを開催した国も訪問して、ノウハウの共有を受けたいという要望も述べ、COP15への強い期待を述べました。

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ジョウ・ユーユ氏

閉会にあたって、マルコ・ランベルティーニWWF事務局長が閉会のコメントを寄せてくださりました。そこでは、生態系の損失は続くという残念なことはあるけれど、一方で、守るためになにができるかというHowについて多くの学びがあったこと、生物多様性の損失の根本原因(Driver)に取り組むこと、なにより今日共有したような10年の教訓をスケールアップする必要があると述べました。

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マルコ氏

最後に、全体司会の道家哲平から、UNDB-DAYへの参加者・スピーカーに謝意を述べると同時に、今日の発表から多くのインスピレーションと学びがあったこと、10年の成果をまとめ、COP15に持っていくこと、COP15でもこのようなイベントが開かれることを期待すると挨拶を行いました。

共催者のデイビット・アインズワース氏からは、COPに先立って行われたアフリカサミットでも、閣僚級会合でも愛知目標の達成まで遠いことへの懸念が示されたが、同時に、非常に数多くの取り組みが生まれていることが指摘されました。そのような成果を歓迎することを忘れてはならないし、残り2年間今日の参加者が受けた多くの刺激をもとにさらなる活動を実施し、COP15でまたこのようなUNDB-DAYというイベントを実施できることを期待するというメッセージが述べられました。

UNDB-DAYは、国連生物多様性の10年日本委員会・生物多様性条約事務局主催、環境省共催、日本自然保護協会・国際自然保護連合日本委員会協力で開催されました。

 

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)