漁業管理地域と海のOECM(保護地域的地域)の関係性

COP14の議題の一つに、地域をもとにした保全(Area-Based Conservation)という議題があります。

従来、保護地域という“生物多様性保全を第1の管理目的に持つ地域”に関するガバナンスや管理手法や設定などについて議論を行ってきたのですが、このCOP14では、“生物多様性保全が第1の管理目的でないけれど、生物多様性保全に貢献している地域”という場所の考え方についての議論が注目されているからです。

 

OECM-phot1サイドイベント会場の様子

 

保護地域ではなくて、この保護地域のような地域(保護地域的地域)は、英語でOther Area based Effective Conservation Measuresとよばれその頭文字をとってOECMという略語が使われています。日本語の言いかえはまだなく、暫定的に保護地域的地域とか、その趣旨をとらえるなら「暮らしと自然の共生圏」がイメージしやすいかもしれません。日本でいうなら、ふみゆず田んぼとか、社寺林、漁業管理地域などが近いかもしれません。

OECMの概念上の整理はCOP14で行われますが、具体化・実務レベルにするには数多くの課題を抱えています。とりわけ、海のOECMについてサイドイベントが行われましたので、ここではその報告をしたいと思います。

私が注目したのは「漁業管理地域など、すでに資源管理をしているので、すでにOECMに該当する」という従来のことの踏襲にならないか、漁業管理と保護地域的地域はどう違うのか?という点です。

サイドイベントでは、CBD事務局から、OECMと愛知ターゲットや持続可能な開発目標(SDGs)の関係について整理が行われました。現在CBDでは、テクニカルシリーズの準備、FAOの「責任ある漁業のための行動規範 (Code of Conduct for Responsible Fisheries)」との調整などを準備していることが報告されました。

 

OECMと漁業管理の違いは?

特に分かりやすかったIUCN生態系管理委員会(CEM)漁業タスクフォースのジェイク・ライス博士のプレゼンが分かりやすかったので紹介します。

博士によると(SBSTTAでの議論によると)、漁業管理地域など、ある一定の海域で特定の魚種だけを対象とした漁業管理はOECMの意図とはそぐわない。一定の海域を指定して漁業管理をおこなう手法としては(保存地域設定(No Take Zone)、ゾーニング(収獲場所を特定する)、禁漁、一時禁漁(モラトリアム)、季節指定(Seasonal)、リアルタイム禁漁区などがあります。

 

OECM-photo2 漁業管理手法の概念図

 

こういった場所と、OECMを峻別する基準としてSBSTTA22で議論されたOECMの考え方は、生物多様性上価値がある(Significant biodiversity value)、保全に貢献(Conservation role)、長期の保全に貢献(Long-term in-situ conservation)、海洋保護区と補完的な役割を果たす(Complementary role (to MPAs))、科学的な役割を果たす(Scientific role)、代表性や連続性を担保している(Representativeness and connectivity)、文化的精神的価値を持っている(Cultural and spiritual values)、協議プロセスを持つ(Consultation)、能力養成の仕組みを持つ(Capacity-building)、(地域共同体などの)支援を行う(Empowerment)、ガバナンスタイプが多様(Diversity of governance types)、利用される知識が多様(Diversity of knowledges used)、透明性があり、評価が行われている(Transparency and evaluation)、などの13の考え方が大事にされていることです。

 

OECM-photo3漁業管理地域をOECMにするための原則

 

これだけだと分かりにくいかもしれないので、OECMと言えるかどうかのキークエスチョンは、
-実施されている漁業管理手法はエコシステムアプローチにのっとっているか?
-社会科学や先住民地域共同体の知識なども活用されて、最新の科学にのっとっているか?
-管理手法の実施は漁業管理や生物多様性保全を組み込んでいるか?
-予防原則にのっとっているか(失敗が起きたときに警告がでる仕組みがあるか)?
-管理手法が、完全または一定程度、自然保護の意図を持っているか?
-利害関係のある全てのグループを巻き込めているか?
-漁業管理手法が他の地域と整合性のとれたものとなっているか?
という整理もできるそうです(このすべてに完璧な回答を持たなければならないということではありません)。

また、ジェイク博士は、設定後のアセスメント・パフォーマンス評価も重要と指摘しました。

 

OECM-photo4キークエスチョン

 

このようにハードルは高そうですが、漁業関係者からすれば、特定種のみを対象とした漁場管理よりも、資源崩壊リスクを減らせる、漁業にプラスのイメージを与える、エコラベルの取得が容易になる、管理の支援者が増やせるなどのメリットが考えられるのではないかと指摘しました。

 

他にも、OECMの保護地域や保護措置に関するデータを世界全体でどう管理するのか、先住民地域共同体が完全な形で管理がガバナンスに関わることが重要で、海洋のOECMを考えるときも、IPLCの視点が重要だし、事前の十分な情報提供に基づく同意が設定には必要ではないかといった意見もでました。OECMの管理の在り方についても、IUCNグリーンリストが有効だというアイディアもでました。

 

IUCNからは、漁業に特化したOECMに関するガイダンスを作った方が良いのではないかという提案もありました。

 

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)

*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。