ポスト愛知の行方

COP14の主要議題の一つが「ポスト愛知」すなわち、生物多様性条約戦略計画2011-2020および愛知生物多様性ターゲットの次をどういう枠組み(目標改定や、ミッションの改定、計画期間の検討など様々なものを含む。以降、ポスト2020枠組みと呼びます)にするべきかという議論です。

COP14の本会議(交渉パート)では、ポスト2020枠組みの検討プロセスを合意するのが責務となっています。ただ、フォーラムの機能を持つCOPとしては、ポスト2020の中身を考えるうえで重要なことは何かということについて、サイドイベントや日常の意見交換の中で、ディスカッションが行われています。

ポスト2020交渉について

SBIという準備会合では案として決まったことを紹介しました。

SBI合意事項に新たな要素として出てきたのは、ポスト2020を議論するためにの、既存の仕組み(SBIやSBSTTAはほかの議題も議論があるため)とは別の、特別な作業部会を設ける案で交渉が進んでいます。ほかにも、プロセスを進める上での基本原則についても、いくつか新しい原則が組み込まれたりしています。

誰が共同議長となり、回数・日数・どんな手順で検討を進めるかということについては、残り数日で決めなければなりません。そのため、連日、夜にコンタクトグループが開催されています。

ポスト2020枠組み - 取り入れるべき要素

現在は、具体的な表現というよりは、必要な要素・キーワード・効果的なアプローチなどが話しあわれています。既存の愛知ターゲットの反省からポスト2020へのアイディアを発展させる提案もあれば、自然の需要側から=バックキャストの発想で必要なことなど、が話し合われています。次節で紹介するガバナンスに近い議論もあります。

アイディアが多岐にわたるので、一旦、キーワードを紹介すると、
「SDGs(持続可能な開発目標)との連携」「Bending Curve(生物多様性の劣化速度を回復へと上昇させる」「頂点にゴールを掲げ(Apex Goals)、Objectives>Actions>Enabling Conditionsの三層構造」「企業を含む、あらゆるアクターの参加を促す目標」「コミュニケーションしやすい表現」「具体的で、実施可能な目標」「データの集約、リンクと活用」「科学に基づく目標」「プロセスのビジビリティ(視認性-多くの人の目に留まる)」「ランドスケープレベルの目標」「社会科学の活用」「ハイレベルの参画」「生態系復元」「統合的なアプローチ(KBAの保護地域化や保全による絶滅危惧種と保護地域を両方達成)」「国(地域)毎に貢献領域を明らかにする(共通だが、差異ある責任)」「種を特定した保全手法ではなく、種の危機要因に着目した絶滅危惧種保全手法」「態度変容につながるコミュニケーション」「ジェンダーの主流化」「生態文明(社会規律Social Normレベルの変化)」などが出てきています。

ポスト2020枠組み - 実施の仕組み

実施の仕組みで注目されているのは、生物多様性自発的コミットメント、「気候変動枠組み条約の国別貢献(Nationally Determined Contribution)的仕組み」といった、仕組みです。

このアイディアが出てきた背景をご紹介します。

CBD-COPで定める世界目標(例えば、陸上の17%を保護地域にする)は、決定後各国が持ち帰り、生物多様性国家戦略を通じて各国の目標づくりが行われます(例えば、日本は、陸上の17%を保護地域にすることを目指しました)。日本のように、世界各国が同じ面積目標を設定すれば機能するのですが、国の事情で10%と設定した国があれば、17%より大きな数字を約束した国がない限り、世界目標は成功しないことになります。生物多様性国家戦略は、通常計画期間が設定され、あるいは、閣議決定が必要な国もあり、そう簡単に書き換えられるものではありません。

そこで、ある特定の領域だけ、追加的な貢献を受け入れることで、世界目標と、国ごとの目標の累積の間で生まれるギャップを埋めていく仕組みができないだろうかというアイディアが生まれました。もちろん、気候変動枠組み条約―パリ協定で、この仕組みができたことも影響が大きいです。

WWFがサイドイベントで明らかにしたのですが、気候変動のNDCの中には、気候変動対策としての生物多様性関連施策(森林保全(REDD+)がすでに入っている国もあり、気候変動枠組み条約と生物多様性条約の双方でNDC的な仕組みを持つことで、気候変動枠組み条約と生物多様性条約間の連携を作れるのではないかというアイディアもあります。また、各国で貢献をアピールすることで、目標への強い当事者意識や、条約全体にポジティブな雰囲気を作ると同時に、世間の注目も集められるのではないかという意見もあります。また、現在の案では、COP15の前に貢献を出し合うことで、COP15の決定によりポジティブな影響を与えようというものとなっています。

つまり、この提案のメリットは、①世界目標と国別目標の累積の間に発生するギャップを埋める仕組み、②CBDと気候変動枠組み条約を橋渡しする仕組み、③ポスト愛知へのオーナーシップ(当事者意識)、ポジティブな雰囲気づくり、CBDコミュニティー外からの注目、④COP15合意内容への好影響、などとなります。

一方で、各国の貢献についてある程度方向性をつけないと、バラバラの提案でがなされて累積を計算できないのではないか、どう各国の貢献を呼び起こすか?誰がどのように受け入れ(あるいは、内容のチェックをするのか)、約束の履行(実施)状況を誰がどうフォローアップするのか、国家戦略の違いは何か、COPの検討の場とどういう関係性をもたせるのか、など、様々なステップで未確定のことが多いという状況です。

“NDCのような”仕組みと並んで、似たものとして話し合われているのが、自発的生物多様性コミットメントです。これは、今のところ(11月25日段階)、国以外の主体、「企業やNGOや国際機関等が行う生物多様性に関する公約」という整理がなされています。メリットは、NDCのような仕組みとほぼ同じです。

そして、自発的生物多様性コミットメントについては、エジプト・中国・CBD事務局で、オンラインでコミットメントを受け入れる「Sharm El-Sheikh to Beijing Action Agenda for Nature and People(PDFが開きます)」という取り組みが提案されています。

IUCNでは、締約国が意味ある貢献をするためにどうIUCNがサポートをできるのか、そして、自発的生物多様性コミットメントが行われるのであれば、2020年6月にフランスのマルセーユで開かれる世界自然保護会議を、生物多様性コミットメントを行う場として貢献できるのではないかといったことを話し合っています。

 

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ポスト2020のコンタクトグループの様子

 

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)

*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。