たくさん見えてきた日本の宿題(SBI-SBSTTAまとめ)

SBSTTA-SBIが終わりました。今回私が注目する決定などについてご紹介します。

1. 保護地域の各種ガイダンス(SBSTTA決定)

SBSTTAの決定で大きいと言えるのは、保護地域に関する決定です。 愛知ターゲット11は、保護地域(自然公園、鳥獣保護区など、主として国が法律で自然保護の目的に指定する場所:精密な定義をIUCNが策定している)の面積に注目されてきました。 しかし、そのほかにも重要な視点が入っています。しかし、保護地域の効果的な管理とは何か、陸域景観・海域景観に組み込むとはどういうことなのか、そして、保護地域と同様17%目標達成のためにCOP10で意味内容が精査されないまま合意された“その他の地域を基盤とした効果的な保全手法(OECM)”とは何なのかこれまで決まっていませんでした。 それらの課題(OECM定義や特定・管理のための指針)は、全てIUCNが定義や指針などを作ってきましたが、生物多様性条約としての定義や指針がまとまったのは今回初めてになります(正式には、COP14の決定が必要ですが)。 効果的な管理がなされる保護地域を増やすために、保護地域の管理効果の評価が必要です。アジアの国でも管理効果の評価がなされ、その数が報告されています。日本は効果的な管理の定義がないため作業が進んでいなかったか(ただ、国連当局に報告していないだけなのか)、管理効果を評価している保護地域の数はゼロとされています(2018年6月時点)。 アジアの国で、日本と同様に管理効果を評価していないのは、東ティモール・ブルネイダルサラーム・朝鮮民主主義人民共和国となっています。管理効果の評価を行うことは、2004年のCOP7で(日本も)合意した保護地域作業計画から各国の期待される作業となっています。日本におけるこれらの動きにも今後前進がみられると思います。 さらに注目すべきは、OECMです。OECMは、生物多様性の保全を管理目的の第1に掲げていないが、生物多様性保全に貢献している場所をさすという定義が採択されました。これにより、ふゆみず田んぼ、里山など、生物多様性に配慮した農地や持続可能な利用を行う場所がOECMとして「保護地域の一環、生物多様性保全の世界目標に寄与する場所」として認められる道筋ができました。具体化するためには、日本における定義・特定・報告・それの仕組みを動かす団体/メカニズムの構築が欠かせません。しかし、民間保護区などの議論も含め、日本の生物多様性保全を進めるためのツールになる可能性があります。

2. ポスト2020枠組みのプロセス(SBI)

SBIでは、ポスト2020枠組みの策定プロセスについて決定された内容が注目です。 策定プロセスは、参加型・透明性など重要な原則が確認されました。また、決定案には、CBD-COP15に注目してもらうための手法として、政府に限らずあらゆるセクターに対して、COP15の前に、生物多様性のコミットメント(約束)をしてもらい、それを事務局長に届けるというプロセスが(COP14決定を待つ必要がありますが)できることも決まりました。日本の政府や企業やNGOから、どんなコミットメントを集めていくかという動きが、愛知ターゲット達成のための取組加速と同時にこれから必要となります。 策定プロセスの検討にあたって、変革的変化(Transformative Change)というキーワードも注目されました。単純に目標設定(保護地域をXX%に延ばす)をしても実現しないというのがこの10年間(あるいは、CBDができてから25年間)の反省です。これまでと違う変化を生み出すために、プロセスとしても大きな変化が今後予想されます。

3. ポスト2020枠組みの内容(NGOの意見交換から)

ポスト2020枠組み(正式には、post2020 global biodiversity framework)について、IUCNのコミュニケーション教育委員会(CEC)が愛知ターゲット1を、種の保存委員会(SSC)が愛知ターゲット12を、世界保護地域委員会(WCPA)が愛知ターゲット11の検証を始めたほか、WWFとドイツ政府がNGO向け意見交換の場作りを、スイス政府がCBD事務局と協働して会合を開催するなど既に動き始めていることが分かりました。 私が参加する範囲ですが、愛知目標の構造やそれぞれの目標を大幅に変えるという意見は少なく、改良・改善をするという意見が大きかったように思います。むしろ意見は、実施のメカニズム・ガバナンスの仕組みに対してのものが多かった印象です。 ちなみに、COP10の議長国として日本は、COP10で決まった愛知ターゲット達成のための能力養成に50億円の支援=生物多様性日本基金を生物多様性条約事務局に提供しました。この実施の支援メカニズムとなった基金の予算額は、生物多様性条約事務局の5年間分の運営資金と同額です。(今のところ、再びこの支援をするという話しを聞いていないため)「2020年以降、このようなお金ありませんよ」と伝えるとNGOの皆さんは結構真剣に「それは厳しいな」という顔をされました。 本質的な課題として認識されたのは、「実現可能だがより意欲的な世界目標がCOPの場で決定しても、国家戦略の策定など各国の現場に帰ったときに実現性の確実な国家目標が設定されることが殆どであること。すなわち、グローバルターゲットと、国ごとのターゲットの総和には、大きなギャップが生まれること」です。NGOの議論では、このギャップを2020-2030の間に埋めていく仕掛けを仕込む必要があると大多数の方が主張していました。そのアイディアは2で紹介した「生物多様性のコミットメント」にもつながっていきます。 ポスト2020は、目標そのものに加え、目標達成の仕組みも含めて、これから日本と世界の生物多様性保全の加速を考える上で注目すべきものと思われます。 最後に、前回SBSTTA21でも紹介しましたが。ポスト2020は、COP10のときに日本が提案した「人と自然が共生する社会(2050年ビジョン)」にいたる道のりの一つと、CBD関係者誰もが考えていることを紹介します。 日本は2050年のあるべきビジョンを提案して、最初の10年のイニシアティブをとって、役割を終えたとするのか、人と自然が共生する社会の次の道筋を提案できるのか、これからの2年間の日本の振る舞いにかかってくると思います。

Photo by IISD/ENB | Francis Dejon

Photo by IISD/ENB | Francis Dejon

 

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長) *今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します