生物多様性の主流化、気候変動の決定紹介(ユースレポート)

生物多様性の主流化―エネルギーと鉱業、インフラ、製造・加工業

本議題はCOP12にて議論されることが決まり、COP13では第一次産業への生物多様性の主流化について議論され、今回のCOP14ではエネルギーと鉱業、インフラ、製造・加工業、健康セクターへの主流化について議論がなされました。
健康セクターについては第1週目に採択された「生物多様性と健康」に記述があり、既に決定紹介があるのでここでは省きます。(生物多様性と健康の決定紹介記事はこちら)

 

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本会議を進行するエジプトの環境大臣

SBIの議論時とは大きく異なるCOP14で追加された新たな決定

・生物多様性の主流化を支援するための状況整備を進めるビジネスイニシアチブの重要性に留意する(パラ4)
・生物多様性や生態学的インフラストラクチャーへの回復不能な損害を避けるために、環境・社会保障措置や優良事例の主流化において、多国間開発銀行、保険会社、事業部門、金融機関およびその他の資金源が果たす重要な役割を認識する。(パラ7)
・リスク評価とリスクコミュニケーション、戦略的環境評価の政策、計画、プログラム、および、国家レベルおよび地域レベルでの空間計画の適用ならびに投資家や企業に関連する生物多様性の損失による金融リスクの評価と開示を促進するための規制枠組みの調整において、生物多様性を含む影響評価や生物多様性の考慮の統合を進める幅広い適用の機会が存在することを認識する。下線部がCOP14にて追記。(パラ8)
・保障措置、モニタリング、監督措置を含む、エネルギー・鉱業、インフラストラクチャー、製造・加工部門における生物多様性の主流化を促進するための法的枠組み、政策、実践を見直し、必要に応じて更新し、先住民地域共同体との協議を通して国際協定と国家政策、規制、状況の一貫性がある自由意志を発揮できる状態での事前の情報提供に基づく同意を得る目的で関連する分野、学界、女性、ユースおよびその他の関係者、先住民地域共同体の参加を促進する。(パラ13(e))
・エネルギー・鉱業、インフラ、製造および加工分野の省庁と生物多様性を担う他の機関の政策、作業計画、具体的な行動の策定を促進し、生物多様性戦略計画2011-2020および2030年持続可能な開発アジェンダの枠組みの範囲内で、適切な場合には、そのような政策、作業計画、および具体的行動を各国の生物多様性戦略および行動計画に含めるこれらの分野における生物多様性の主流化を促進する。 (パラ13(s))

 

以下の決定はSBI決定とあまり変更がありません

主流化のための長期的な戦略的アプローチを確立すること(パラ17)、主流化に関する専門家グループを設立し、長期的な取り組み提案のさらなる進展について主流化をポスト2020の枠組に適切に統合しSBI3で検討すること(パラ18)を決定しました。

また、生物多様性戦略計画、持続可能な開発のための2030アジェンダおよびSDGs、パリ協定(下線部が、COP14で追加)を含む様々な多国間協定と国際プロセスの達成に、エネルギー・鉱業、インフラ、製造および加工セクターでの生物多様性の主流化が不可欠であることや、主流化を促進し実施する上で、SBI決定の先住民地域共同体、女性、ユース、地方政府、その他の関連するステークホルダーに加え、企業や金融セクターの重要な役割を強調しました。

また、締約国や関連するステークホルダーに対し、生物多様性の主流化に関する締約国会議の過去の決定の実施などを促し、企業には生物多様性に関連する事業活動を報告するための行動のタイプ分類、および事務局が用意した投資家および市民社会を含むすべてのステークホルダーの企業の生物多様性パフォーマンスに関する同等の情報の入手可能性を改善する目的を含む関連指針を利用するよう要請しました。

それらに加え、主流化は生物多様性条約・生物多様性戦略計画、愛知目標、2050年ビジョンの達成に不可欠であり、将来の生物多様性枠組みの重要な要素の1つであることや、生物多様性の保全・持続可能な利用に対する政策やツールについて生物多様性を主流化する機会があること、包括的な生物多様性影響評価の広範な適用、国家および地域レベルでの空間計画の活用、生物多様性配慮の統合の機会などを認識することとしました。

さらに主流化に関する国際専門家ワークショップの報告や、事務局が作成した生物多様性および関連するガイダンスに関する報告のための行動のタイプや、主要セクターへの生物多様性の主流化による汚染緩和に関する国連環境計画総会(UNEA)決議、国際連合食糧農業機関(FAO)2017総会の決定を歓迎し、能力開発、技術移転、資源動員の必要性を含む主流化の有効性を見直し、課題を特定することの重要性を留意することとしました。

また付属書として、「生物多様性の主流化への長期的戦略アプローチの提案」と「生物多様性の主流化に関する非公式諮問グループのための指針」が追加されました。

 

生物多様性と気候変動

本議題はCOP13にて「気候変動への適応および防災・減災のための生態系に基づくアプローチの設計および効果的な実施のための任意ガイドライン」の作成を要請しており、今年7月に開催されたSBSTTA22にてガイドライン案についての検討が行われ、そのガイドラインの採択が今回のCOPにて行われました。SBSTTA議論時にいくつか合意されていないことを意味するカギカッコ(ブラケット)になっていた文章の交渉については、本会議およびコンタクトグループでもかなりの時間を要していました。SBSTTA22の時と比較すると大きく変更した部分が多いため、今回の決定について紹介します。また、今回採択された文書の冒頭には「パリ協定の第2条を想起し」という文章が追加され、他の条約との関連性をより意識させるものとなりました。

SBIの議論時と比較して以下のパラグラフが追加されました(大きな変更点)

・生態系の破壊、劣化、断片化が激化すると、炭素貯蔵能力が低下し、温室効果ガスの排出量が増加し、生態系の回復力と安定性が低下し、気候変動の危機がますます激しくなることを深く考慮する(前文4段落目)
・気候変動は生物多様性の損失の主要かつ増加する要因であり、生物多様性と生態系の機能とサービスが気候変動への適応、緩和、災害リスク削減に大きく貢献していることを認識する(前文5段落目)
・1.5度の地球温暖化と題するIPCCの報告に懸念をもって留意し、気候変動の緩和適応、災害リスク緩和に対する生態系を基盤とするアプローチを支持した同報告書の主な知見(Key Findings)を考慮に入れるよう奨励する(パラ7)

パラグラフ内での文章の修正をふまえた今回の決定

まず、大きな決定として、現在の決定の附属書に含まれる、気候変動適応および災害リスク削減への生態系ベースのアプローチの設計と効果的な実施のための自主的ガイドラインを採択することとしました。

締約国は、人間の幸福に対する生物多様性と生態系システムの機能とサービスの重要な役割や、産業革命前と比較して2℃高いことに対し、地球平均気温の上昇を1.5℃に制限することは、生物多様性や生態系の機能やサービスに依存する人々や最も脆弱な生態系における人々への悪影響を軽減することを認識することとし、世界の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃低い水準に抑えることができない場合、適応能力が限られている多くの種や生態系だけでなく、その機能やサービスに依存する人々、特に先住民地域共同体や農村女性は、非常に高いリスクの下での生活になることを深く考慮することとしました。

また、気候変動適応と災害リスク削減への生態系ベースのアプローチを設計し、実施する際に、これらが共同で気候変動緩和に貢献することを認識したとき、国内の優先順位、状況、能力を考慮して、締約国、他の政府および関係機関に、生態系アプローチに沿った自主的ガイドラインの使用をすることや、湿地の保全、修復、賢明かつ持続可能な利用について協力し、気候変動や災害リスク削減の重要性を認識し、多国間環境条約の共同宣言を作成するプロセスを支援することなどを締約国に奨励しました。

生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)の土地劣化と復元、そして生物多様性と生態系サービスに関する地域評価を歓迎し、生態系に基づく持続可能な開発目標の達成を支援する重要なメッセージを強く支持しました。

さらに締約国に対し、「気候変動への適応と災害リスク削減への生態系ベースのアプローチの設計と効果的な実施のための自主的ガイドライン」とその結果を提供するために実施された活動に関するクリアリングハウスメカニズムおよびその他の関連するプラットフォームを通した情報の提供や気候変動適応および災害リスク削減への生態系ベースの取り組みに関連する活動を支援するために、締約国、他の政府、資金調達機関および関係機関をその立場に招待することを求めました。

最後に、資源の利用可能性を条件に必要に応じてキャパシティビルディングを提供し、技術へのアクセスを提供することや、意識向上を促進すること、先住民地域共同体の地域に基づいたモニタリングや情報システムを含むツールの使用を支援することなどを事務局長に要請しました。また、気候変動への適応と災害リスク削減への生態系ベースのアプローチの実施について、国レベル、地域レベル、国際レベルでのケーススタディを作成することや生物多様性と生態系の完全性、機能、サービスが気候変動の課題にどのように取り組むかについてのメッセージを作成することについても合わせて事務局長に要請しました。

 

生物多様性わかものネットワーク/IUCN-J 矢動丸琴子
(千葉大学大学院/園芸学研究科/環境健康学領域/博士後期1年)