今がチャンス! 生物多様性の「主流化」

SBSTTA20も2日目を終え、海洋と生物多様性、合成生物学などの議題が一旦プレナリー(全体会合)で取り上げられました。コメントがたくさんついた箇所に関しては、これから、コンタクトグループと呼ばれる小さな会議で取り扱いを行い、更に議論が重ねられ、新たな文案が作られていく予定です。

 

今日は、2015年11月にメキシコで行われた「生物多様性の主流化」に関する専門家ワークショップの報告に関するサイドイベントに参加しました。

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「生物多様性の主流化」の重要性は、今までのCOPで様々な形で取り上げられてきました。例えば、COP6(2002年)のハイレベル閣僚宣言では、「この10年間で学んだもっとも重要なことは、生物多様性を大切にすることを、関係する全てのセクターで本当にしっかりと行わなければ、条約の目的を達成することは不可能である。生物資源の保全と持続可能な利用が、各国の経済・すべてのセクター・社会・政治の意思決定の枠組みの中全てで主流化される(=大切にされる)ようにすることは、条約の核となる課題である」とされています。

 

メキシコ政府は、今年12月に行われるCOP13のホスト国として、COP13の閣僚級会合(ハイレベルセグメント)を、「愛知ターゲット達成・SGDs達成に貢献するための、生物多様性の主流化の大切さ」を強調する場として使うことを決めました。今回報告のあったワークショップも、その準備の一環として、スイス政府の資金援助のもと実施されました。このワークショップの内容報告は、会議の公式文書の中にしっかりと位置付けられています。(https://www.cbd.int/doc/meetings/sbstta/sbstta-20/information/sbstta-20-inf-52-en.pdf)また、日本での「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」の活動も、10ページ目のパラグラフ45に記載されています!

 

今日のサイドイベントの開会にあたり、ブラウリオ生物多様性条約事務局長は、「今は生物多様性を主流化する良いタイミングだと思う。持続可能な開発目標(SDGs)の採択・パリ協定の採択・仙台防災枠組みの採択など、世界全体の動きが、生物多様性を主流化しやすい状況にある」と述べました。

 

簡単に言ってしまえば、「自然は大切だから守る」という内容から更に一歩踏み込んで「人類が生き残るために、私達の生活のために、自然が必要だから守る」という考え方が打ち出されることで、今までなかなか大切にされてこなかった「生物多様性の大切さ」を訴える良い機会が巡ってきているのだろうと思います。ワークショップの概要は、下記の通りです。(詳細は、こちらの13ページ以降、Annex1をご覧下さい。)

 

1.第一次産業(農林漁業)・観光業での主流化
農業・林業・漁業・観光業での、生物多様性主流化の要素・課題・機会の洗い出しをテーマとして実施し、必要な要素は
・法制度や強い法的枠組み
・科学的裏付けのある知識がしっかり提供されること
・法的枠組みに位置づけるための、政治的な意思
・資金的な持続性があること などとされました。

 

2.分野横断的な主流化
生物多様性主流化のために必要となる、機会・政策とツール・組織や仕組みの洗い出しを実施し、要素・課題・機会の洗い出しを実施しました。主要な課題としては、
・ビジネスセクターの更なる協力が必要
・生物多様性と競合する形で、主流化しなければならない多様な問題があること などとされました。

 

3.生物多様性主流化の機会:SDGsを通して
生物多様性の主流化が、SDGsと愛知ターゲット達成のためにどう貢献するのか、COP13でそれを高めるためにどのような機会があるのか洗い出しを実施し、要素・課題が抽出されました。課題として挙げられていた点としては、
・SDGsと愛知ターゲット双方を達成するためには、マーケット/ノンマーケットの仕組みを通じて、消費と生産のパターンを変えなければならない などどされました。

 

こうして改めて 国際交渉の現場を見つめてみると、

・この問題は取り組みを行うに値する大切な問題だ!と定義すること

・定義された大切なことを解決するのに必要となる、問題を解決する仕組み・ツールを作る/実施する条件を整える/実施するために必要な支援を国際的にし合うこと

・問題の定義や解決のために必要な頭脳を集結させ、必要な情報を揃え、再度また意思決定をすること

 

の大変さを実感します。(上記の例ならば、今回のメキシコのワークショップは、必要な頭脳を集結させ、必要な情報をそろえるために行ったこととなります。)特に、少しの人数の、育ってきた文化も背景も似ていて、背景にある利害関係も同じ人たちが話をするわけではなく、沢山の育ってきた文化も背景も違って、利害関係もばらばらの195の国の代表が話し合い、何らかの形で「全会一致」を目指すことはとても大変で、非常に根気のいる作業です。

 

一方で、会議場で立ち話をしていると、何年も前に重要だと決められた事項の取り組みが徐々に世界で進められ、形になってきたねという話を聞くこともあり、少しずつしか進まない議論も、決して、全く、無駄ではないのだなと実感します。

(公財)日本自然保護協会・IUCN日本委員会事務局 佐藤真耶