農業における生物多様性の主流化とは。

12月4日に始まったCOP13は、あっという間に折り返し地点を迎えました。今回は、9日に行われた、ラムサールネットワーク日本(RNJ)のイベントについて報告します。タイトルは、「農業における生物多様性の主流化:生物多様性を上げるために、水田に関わる様々な分野を行動に巻き込もう」です。主流化とは、生物多様性に関わるさまざまな分野で生物多様性が意識されるようになることを指します。

 

このイベントでは、水田における生物多様性の主流化、すなわち水田に関わる方々に生物多様性を意識してもらう活動の紹介が中心に据えられていました。事例紹介には、国内だけでなく、ウガンダやネパールといった海外の発表もありました。

 

最初の発表は、RNJの呉地(くれち)さん。水田は食糧生産の場だけでなく、野生生物の生息地でもあること、湿地としての機能も有していることを紹介し、事例として水田を中心とする場所として初めてラムサール条約に登録された宮城県の蕪栗(かぶくり)沼を挙げていました。また、国連生物多様性の10年プロジェクトの一環としてのRiceBEDプロジェクト(田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト リンクhttp://bd20.jp/tanbo/)を紹介。水田の生物多様性を上げることは、まずは農家や関係者に生きもの豊かな場所としての田んぼに気がつく機会を提供することが水田における生物多様性の主流化につながると発表していました。

最初の発表は、RNJの呉地(くれち)さん。

最初の発表は、RNJの呉地(くれち)さん。

 

2番目は、ウガンダのPaulさん。JICAプロジェクトにもなっている2つの湿地管理プロジェクトを紹介されていました。これらのプロジェクトは、日本のJICA (Japan International Cooperation Agency: 国際協力機構)から、技術的・財政的支援を受けているとのことでした。これらのプロジェクトにより、ウガンダ国内の湿地に関する科学的情報が手に入るようになったり、湿地の管理計画が整えられたりしたなどの5つの成果について報告がありました。

ウガンダのPaulさん。JICAプロジェクトにもなっている2つの湿地管理プロジェクトを紹介していました。

ウガンダのPaulさん。JICAプロジェクトにもなっている2つの湿地管理プロジェクトを紹介していました。

 

続いて、ネパールのKamalさん。ネパールの農地の50%は水田で、520種類もの稲が育っているとのことでした。また、日本と同じように田植えの歌が存在するものの、現在はそのような精神的伝統文化を維持するのが難しくなっていると危惧していました。

ネパールのKamalさんは水田と水田に関する文化の発表をしていました。

ネパールのKamalさんは水田と水田に関する文化の発表をしていました。

 

そして、日本の民間企業アレフ(レストラン「びっくりドンキー」を運営している会社) の橋部(はしべ)さんは、より野生生物にやさしいお米づくりと、レストランを訪れるお客様へそれらのお米の提供を目指していると報告していました。 その取り組みのひとつが、ふゆみず田んぼ(冬季湛水)です。ふゆみず田んぼを普及させるため、たんぼとタンゴをかけて作った歌・踊り「ふゆみずタンゴ」は、2013年に生物多様性アクション大賞を受賞しています。
ふゆみずタンゴの動画はYou Tubeで見られます。
https://youtu.be/aheudES2Y4o
なんと、英語版と韓国語版もあるそうです。

株式会社アレフ(レストラン「びっくりドンキー」を運営している会社) の橋部(はしべ)さんは、野生生物にやさしいお米づくりと、それをお客様に食べてもらう取り組みの報告です。

レストラン「びっくりドンキー」を運営している株式会社アレフ の橋部さんからは、野生生物にやさしいお米づくりと、それをお客様に食べてもらう取り組みの報告がありました。

 

最後のプレゼンの前に、韓国の交渉官のHangさんからひとこと。生物多様性は重要だが、生物の保全だけにとらわれず、視野を拡げ、持続可能性にも目を向けることが大切だと述べていました。加えて、生物文化多様性という概念を紹介し、自然の利用に伴う文化・歴史の保全の大切さを訴えていたのが印象的でした。

韓国の交渉官のHangさん

韓国の交渉官のHangさんからも一言。

 

そして、FAO (Food and Agriculture Organization of the United Nations: 国際連合食糧農業機関)のMatthiasさんの発表では少し違った視点から、農業、特に水田における生物多様性の重要性が発表され、フードセキュリティ(食糧安全保障)と環境保全は互いの働きを補い合うだけでなく、互いの働きを強めあうあるべきだと力強く述べていました。

国際連合食糧農業機関のMatthiasさんからは、食糧安全保障と環境保全についてコメントがありました。

国際連合食糧農業機関のMatthiasさんからは、食糧安全保障と環境保全についてコメントがありました。

 

IUCN-J インターン(筑波大学)
牧野悠