メイン決議:主流化

今回のCOP13で最も注目しようと取り組まれたのが、生物多様性の主流化(Mainstreaming Biodiversity)というテーマで、とりわけ、農業・林業・漁業・観光業という、生物多様性が保全されていることが、その産業を営む上で直接的に関わる分野での取り組みでした。

「無事に会議がまとまった。私の手が長ければこの場でみんなを抱きしめたい」と話すWG2議長

「無事に会議がまとまった。私の手が長ければこの場でみんなを抱きしめたい」と話すWG2議長

準備会合で作成された決議案を元に議論されたのですが、何分、文量が多いので、重複箇所もありますが、改めて、内容を紹介します。

最後の方になりますが、COP14(2018年、エジプト)において、エネルギーと鉱工業、インフラ、製造業、健康への生物多様性の主流化のテーマを検討することを決定しました。

*L文書を元に作成しましたので、言葉の強弱について細かく表現を分けておりませんのでご注意ください。

主流化を含む愛知ターゲット達成のための戦略的行動(L31)
Agenda item 10 Strategic actions to enhance the implementation of the Strategic Plan for Biodiversity 2011-2020 and the achievement of the Aichi Biodiversity Targets, including with respect to mainstreaming and the integration of biodiversity within and across sectors

前文では、

国連生物多様性の10年の決議も想起し、主流化の重要性を強調。
生物多様性という視点を農林漁業を始め、他のセクターの主要議題として組み込んでいくこと、それが持続可能な開発目標の達成にも欠かせないこと、農林水産業・その他のセクターは生物多様性に依存することから双方に価値があるということ、セクターごとだけでなく、セクター横断型の主流化が必要なこと、SDGsを達成するためには消費や生産パターンを持続可能な仕方に根本的に変えることやそのための法政策的・技術的・財政的手法が必要なこと、等の認識が共有されました。

そして、生物多様性や生態系サービスの保全・持続可能な利用・管理・復元のためのアクションを、分野毎かつ分野横断の政策・計画・事業や法的・行政および予算の主流化についてのカンクン宣言を歓迎し、
締約国に、あらゆるレベルでの農業、林業、漁業、養殖業、観光業といったセクターへの生物多様性主流化の取り組みの強化や、多様なセクターからなるプラットフォームを通じて関連する関係者を巻き込むことなどを求めました。

<国際プロセスと主流化の強化として>


パリ協定、SDGsの採択、FAOの取り組み、CBDとITTOとの連携などを認識・歓迎し、SDGsの実施が愛知ターゲットの主流化の機会になるという認識を共有する文書をまとめました。また、愛知ターゲット達成とSDGs達成、その他の国際的な動きとの相乗効果をはかることなどを求めました。

<分野を超えた主流化>


締約国に対し、
-主流化を通じた景観レベルでの生物多様性の損失を減少させること
-包括的な政策枠組みを作ること
-主流化を進める分野を超えたセクター調整メカニズムの構築と強化
-自然資源利用に関するモニタリングの強化、情報収集や管理、モニタリングデータへのアクセスの改善
-自発的持続可能性基準・認証制度を活用と、そのような基準・認証制度の推進と、生物多様性の配慮を調達政策に入れることの奨励
−生態系の価値評価や、対象に合わせたコミュニケーションツール等を活用し生物多様性の多様な価値に関する普及啓発の手法をとること
−環境経済報告、自然資本会計の利用を進め、スケールアップすること
−環境影響評価や戦略的環境影響評価などを改善すること
−生物多様性への正負の影響を持つ取り組みの評価を行うこと
−持続可能な消費と生産に関する政策等を強化すること
−上記の分野を超えた主流化手法を検証し、強化すること、
−SDGsの実施に向けた活動を統合するアプローチを活用すること、
-生物多様性の保全や持続可能な利用を強化するための土地利用に関する法的枠組みや行政的手法を開発すること
を求める文書をまとめました。

<農業分野において>

現在非持続可能な農業慣行が多く存在すること、国際社会の多くの決定が持続可能な農業の推進を求めていることを認識し、締約国に対していくつもの奨励事項を列挙しています。例えば、悪影響を及ぼす補助金の撤廃等も含む規制や奨励措置を活用した生物多様性損失の抑制、あらゆるレベルでの廃棄物発生の抑制、優良事例の共有、多様な農業の推進、持続可能な生産を増やして行くための研究開発の推進などが列挙されています。
農業産物生産による森林伐採の減少させるための民間部門および財政機関の多様な取り組みを歓迎し、と更なる企業の参画の推進についても奨励されています。
また、この分野ではFAO(国連食糧農業機関)との連携の重要性も指摘されています。

<森林分野において>

農業分野と
同様に、多くの国際会議・条約等での持続可能な林業の推進の重要性にふれ、同じく数多くの締約国への奨励事項をまとめています。例えば、パリ協定第5条の考慮、持続可能な森林製品の消費や生産を含む持続可能な森林管理の奨励、持続可能な森林管理推進のための普及啓発、先住民地域共同体の参加の促進、持続可能な林業のための条件整備、森林活動の生物多様性への影響をモニタリングすることなどです。
また、合法で持続可能な森林資源からの製品の促進と違法伐採やその貿易に対処するためのガバナンス・政策・実践の活用や立案、強化が、COP13の交渉で加わりました。

<漁業・養殖業において>

締約国に対しては、海洋・沿岸の保護区や生物多様性の効果的な保全ツールが持続可能な漁業を可能とすることを認識すること、報告のない違法な規制のない漁業の(IUU)取り締まりに関するFAO協定等の実施、漁業や養殖業への生態系アプローチの適用に関するガイダンスの活用などを求めました。さらなる今後の取り組みとして、事務局に対して、FAO等との機関との連携、関連するガイダンスのウェブでの共有、主流化に向けたメッセージアプローチの開発等を求めています。

<観光業への主流化>


持続可能な観光を進める国連決議の重要性、かつ、地域社会を基盤とした観光含む持続可能な観光が、生物多様性の保全や持続可能な利用、地域社会の状況改善・雇用や収益の提供を生み出す可能性があるということ、一方で、多くの非持続可能な観光が生物多様性に重大な影響をもたらしうることを共通認識するという文章をまとめました。

締約国等に対し、
−COP7で採択し(さらにCOP12で更新し)た生物多様性と観光業に関するガイドラインの活用
−持続可能な観光に関連する政策や事業の開発
−政策決定を進めるために観光が持つ生物多様性への正負の影響に関する情報の創出や活用、
−民間部門も巻き込み能力養成をすること
−一般市民や観光客への様々なCEPAツールの開発や利用を行なうこと
−World Tourism Organizaionと活動すること
を求める文章をまとめました。

<企業の参画>

事務局による企業活動の類型化(typology)作業を歓迎し、
締約国が企業に奨励する事項として
−サプライチェーンを含む企業活動の影響についての情報を評価すること、
ー持続可能な開発や貧困撲滅に貢献するよう、企業が生物多様性の保全や持続可能な利用を支援するよう奨励すること
−生物多様性への依存度や影響などをはかるアプローチや多様なツール(例えば、自然資本プロトコル、IPBESガイド)の考慮を求めまとめました。

締約国に対しては、
−持続な可能な消費や、生産に関する政策や計画における生物多様性への配慮の強化、持続可能な消費に向けた多様な消費者ベースのアプローチの推進、持続可能な消費や態度変容などを促進するために公的部門・民間部門との連携、ビジネス関係の意思決定やビジネスに関する普及啓発に生物多様性の主流化を推進する政策の実施を求めています。
−企業に対しては、企業活動の類型化を報告などに活用しつつ、生物多様性と企業に関する活動へ参加することや、類型化の活用や改善強化のための提案を提供することなどを求めています。

<自治体(Sub national and local government)>


−締約国に対して、自治体を巻き込む取り組みの強化や、生物多様性の重要性の普及を行なうこと、自治体の貢献を強化することに向けた戦略の確立を考慮することを求めました。

<先住民地域共同体>COP13で新設の項目

生物多様性の保全や持続可能な利用に対する先住民地域共同体の中心的な役割を認識し、彼らの知識や技術や実践の強化が重要であることを認識し、また、彼らの共同行動(collective actions)の役割を認識しました。

<科学コミュニティー>COP13で新設の項目

生物多様性に関する第三回科学フォーラム(COP13の前に開催)での成果と公約を歓迎し、広く科学コミュニティーに対して、その科学・研究・調査、ツール、情報のコミュ二ケーションの取り組みの強化を奨励しました。

<ジェンダー>


−生物多様性の主流化における女性の果たす重要な役割を認識し、また、女性の役割や権利や需要や発想を考慮し、SDGs目標5のジェンダーに関する世界目標の合意を受け、ジェンダーに関する行動計画の実施継続することを求めています。

<更なる作業>


COP14において、エネルギーと鉱工業、インフラ、製造業、健康への生物多様性の主流化のテーマを検討することを決定しました。

事務局に対して、
−多様なステークホルダーとのパートナーシップを強化すること
−優良事例や成功モデルの特定や企業による生物多様性活動の類型化の精査し、SBI2で検討すること
−第6次国別報告書の観光に関する情報を分析すること、持続可能な観光の開発を支援するための情報をSBSTTA14の前に締約国に提供すること、
-
−GEFに対して主流化に関する活動への支援を求める文章をまとめました。

(公財)日本自然保護協会経営企画部副部長
国際自然保護連合日本委員会副会長・事務局長
道家哲平