花粉媒介者の存在なくして今日の生活はなし!

SBSTTA20もようやく折り返し地点に近づいて参りました。今日全体会合で取り上げられた議題は、以下の通りです。

7. 花粉媒介者・授粉・食糧安全保証に関するIPBESのアセスメントのレビュー
8. 生物多様性と気候変動
9. 持続可能な野生生物管理
10.  保護地域と生態系復元

この中から、コンタクトグループ(コメントが多くついた際に小規模で話し合うグループ)が出来た議題はありません。また、4.1 生物多様性の観点から重要度の高い海域(EBSAs)と6.合成生物学に関しては、昨晩からコンタクトグループが作られ、昨夜・今晩共に議論が重ねられています。

 

今日私は主に、7.花粉媒介者・授粉・食糧安全保証に関するIPBESのアセスメントのレビューと、10.保護地域と生態系復元に関する内容を中心に交渉を聞きました。

花粉媒介者・授粉・食糧安全保証に関するIPBESのアセスメントのレビュー

花粉媒介者・授粉・食糧安全保証に関するIPBESのアセスメントのレビュー

 

花粉媒介・授粉に関する話は、愛知ターゲットの14番(生態系サービス)、7番(農業・林業・養殖業)と特に関係が深いです。急に「花粉媒介者」と言われても、一見普段の生活では(全くと言っていいほど)存在を意識することがない話かもしれませんが、私達の生活にとって花粉媒介者の役割は欠かせない存在であり、これは非常に重要な生態系サービスです。世界の食糧のうち3/4の農作物が花粉媒介者の存在に支えられているとされており、花粉媒介者なくして今日のごはんなし!という状態です。今日のごはんに関わるだけではなく、綿花や麻などを通じた服飾、木材など、衣食住に関わる生活のあらゆる面で関係があります。

 

その他、この問題には、愛知ターゲットの5番(生息地の破壊)・8番(化学汚染)・9番(外来種)・12番(種の保存)が該当すると言われており、巣作りや餌をとるための場所の減少、農薬の使用による種そのものの減少などが問題となっています。

 

世界には、2万種以上の花粉を媒介しているハチ類・ハエ類・チョウ類・鳥やコウモリの仲間などが存在すると言われており、そのうちのわずか数種類が養蜂などの形で管理されています。IUCNのレッドリストによれば、16.5%の脊椎動物である花粉媒介者が危機に瀕している上に、昆虫の花粉媒介者に焦点を当てた調査は未だに実施が出来ていない状態です。

 

■レビューが発表された背景

IPBESとは、Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Serviceの略で、生物多様性や生態系サービスの現状や変化を科学的に評価し、それを的確に政策に反映させていくための政府間組織です。日本語では、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム」と呼ばれており、生物多様性版IPCCと言って間違いないでしょう。CBD COP10の際にその設立を奨励する決定がなされ、2012年4月に設立されました。

 

2013年12月に、IPBESの第二回総会が開催された際に、2014年から2018年にかけてIPBESが実施すべき18の作業計画が決定されました。その際に「花粉媒介と食糧生産」のアセスメントを2014年から早期実施することが決められ、CBD COP12でも進捗レポートが提出され、今回のSBSTTAでもその結果が報告されました。

 

■今回の交渉で目立った発言は下記の内容です。

大きく意見が割れた箇所もなかったため、この議論はそのままCRP文書(会議文書のリバイス版)が作成されています。このCRP文書を基に、再度全体会合での議論にかけられる予定です。

 

1.レポートの内容を歓迎(Welcome)するか、承認(endorse)するか

Welcome、Endorseという言葉の語感はある種独特ですが、Welcomeが「評価する」に近く、Endorseは元は小切手の裏書き(所有者は自分だとする行為)という意味があるとおり自らのものとして「承認する、認める」という意味合いになります。そのため、endorseという表現は滅多に使われません。花粉媒介者に関する問題は、IPBESで早急に評価をすることが決定する程、各国が気になっている問題なので、受け止め方も少し違います。

 

スウェーデンの代表団は、この問題は非常に大切なので、カンクンで行われるCOP13のハイレベルセグメントでもこの内容を扱い、カンクンデクラレーションの中にもこれを盛り込んでほしいとの要求がありました。

 

2.今後も詳細な研究を進めてほしい

今回のレポートの調査結果には、鳥やコウモリなどのレビューが足りないこと、地域性に偏りがあること(熱帯やアフリカでのレビューが含まれていないこと)などが政府代表団より指摘されました。また、近年話題となっているネオニコチノイド農薬に関しても、若干の言及があり、今後も詳細な研究を進める必要があると発言されることが目立ちました。一方、このレポートのアップデートに関しては必要という意見と、IPBESが(予算的にも)既に手いっぱいであることから、すぐの更新は必要でないという意見の違いが見られました。

 

3.研究に伴うキャパシティビルディングへの支援要請

中国・ウルグアイ・アフリカ諸国・インドネシアなどの国々からは、上記2.の研究を進めるための資金的・技術的支援を求める声が多く上がりました。

 

ほかには民間企業を巻き込む重要性について意見がありました。 少し意見が分かれそうなのが、遺伝子組み換え生物と花粉媒介生物の課題で、これはSBSTTAでやるのか、カルタヘナ議定書で議論するべきかは意見が分かれているようです。

(公財)日本自然保護協会・IUCN日本委員会 佐藤真耶・道家哲平