生物多様性 世界の流行語大賞ノミネート作品

SBI2の2日目、こちらに滞在して10日以上が過ぎました。ほぼ休みなく会議やセミナーやサイドイベントに出ていると、何度も出てくるキーワードというのがあります。(*なお、生物多様性条約にタイトルにあるような流行語を決める仕組みは特にありません)誰かが流行らせようとしているのかもしれないし、誰かが造語として作ったのかもしれないし、ある時誰かが使い勝手が良くて使ってみたらみんなも使い始めたということかもしれません。こういう流行しているキーワードから、世界の動きを想像するのも参考になるかもしれません。

唯一の休みの日にも関わらず、150人近くがセミナーに参加

唯一の休みの日にも関わらず、150人近くがセミナーに参加

1. Paris Momentum of Biodiversity 生物多様性のパリモメンタム

モメンタムとは「盛り上がり」というような意味です。中国で開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議に向けて作り上げたい雰囲気、といった文脈でこの言葉が出てきます。パリで開かれた気候変動枠組み条約締約国会議で生まれた意欲的なルールである「パリ協定」のような注目され、サポートされるものを、COP15でも作り上げたい・合意したいという思いがあります。

この言葉はこちらに来てから初めて聞きました。この言葉は、自然というよりは、意識的に広めたい言葉として作られた気がします。

ちなみにこの逆の言葉(警告の言葉)は、コペンハーゲンの失敗(Failure of Copenhagen)という同じく気候変動で全くの成果が出せなかった会議になります。愛知県名古屋市で開かれたCOP10では、交渉が進捗を見せない雰囲気が生まれたときに、NGOが「Biodiversity Copenhagen(生物多様性のコペンハーゲン)」と警告して、交渉を前進させました。

2. Narrative 物語

物語といえば日本人なら“Story”という英単語が思いつきます。生物多様性の課題や、生物多様性に関する人間のかかわり方を一般の人に知ってもらうといった普及啓発の文脈で使われることが多いように思います。「人類があらゆるところで自然を破壊し、自らの破滅を引き起こす」という人類に起きている歴史を変えて、「自然の恩恵に依存していきる私たちが自然を守る」という新しい物語(New Narrative)をこれから始めなければいけない。といった使い方をします。

ネットで調べると、精神科療法の一つにも使われる言葉のようです。レジリエンスと同じように、精神医学でも使う言葉が生物多様性の世界でも使われるのは大変興味深いです。「桃太郎」はストーリーで、「私の中学生時代」はNarrative(ストーリよりも概念の狭いもので、自分もその物語の一部である)という感覚でとらえました。

3. Transformative Change 変革的変化

SBSTTA21の議論、「我々の世界を変革する(Transforming)-持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択を受けて、CBDも大きな変化を起こさなければならないという文脈で使われます。CBDを変革するのではなく、CBDの中で変革的な変化(仮訳している個人としては中途半端な用語と思えます)を起こすという意味合いでしょうか。

日本に限らず、行政はもちろん普通の人々も、変革的(Transformative)なマインドを持つというのは難しいと思うのですが、それくらい大胆な行動の変化、仕組みの変化を考えないと、生物多様性の劣化は止められないというのが、IPBESの地域評価からも見えてきたことです。

SBSTTAとSBIの間の日曜日には、この、変革的変化についてのセミナーが開かれ、TEDトーク風の発表も行われていました。

世界経済フォーラムの発表。人工肉の話などもでて、NGOは少し警戒感を持っています。

世界経済フォーラムの発表。人工肉の話などもでて、NGOは少し警戒感を持っています。

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)
*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します