決定紹介 セクター内・セクター間の生物多様性の主流化と実施強化のための戦略的行動

解説

この議題は、ステートメントの記事でも述べたとおり、COP12に、生物多様性の主流化が重要であるという認識が生まれ、COP13にて農林水産業や観光セクターを中心とした生物多様性の主流化に関する決定が生まれました。同時に、COP14にてエネルギー鉱業・インフラ・製造および加工業、および健康のセクターに関する主流化方策の検討を行うことが決定され、このSBI2で、COP14で決定すべき内容について検討が進んでいます。
生物多様性の主流化とは、生物多様性が損失してしまうことを抑えるために、生物多様性の保全と持続可能な利用を企業の業務(環境配慮の方針や、意思決定プロセスなど)や日常生活の様々な行動に組み込み、人々に生物多様性をより身近に捉え、行動してもらうようにすることを指します。

今回の会合の成果として、COP14で決定すべき内容の方向性だけでなく、主流化を長期的な戦略として検討すること、そのための非公式助言グループ(Informal Advisory Group)を立ち上げること、主流化をポスト2020枠組みにも組み込むことが決定案に盛り込まれたことが挙げられます。

CRP文書の検討の際に、最ももめていたのは「ecosystem value」というフレーズの「value」という単語を消すのか残すのか、という議論でした。ブラジル・アルゼンチン・ベネズエラなどがvalueを消したい主張を行い、メキシコやニュージーランドは残したい意向を示していました。valueという言葉の捉え方が各国によって異なるために生まれた議論のようでした。結局この議論は本会議上では合意がされず、関連する国で別途話し合いを行い、その結果を報告するという手続きがとられ、「ecosystem value」という単語は削除され、「value of biodiversity and ecosystems」というCOP10で合意した表現を用いることとなりました。

その他には、複数のパラグラフにてメキシコが健康セクターへの言及を行うよう提言していました。

また、EUが締約国及び民間セクターへの奨励事項を列記する段落で、(e)bisと(e)ter (交渉の途中で新たな段落を入ったことを示す記号・清書の際に、それぞれeの次である(f)(g)という段落になる)に関するパラグラフを追加する旨を提言するとアルゼンチンやメキシコにより提言文章に対する修正が行われ長時間を費やしていました。

具体的には、EUの提案ではbest practiceの促進という記述を、アルゼンチンやメキシコはgood practiceとしたいなどで、関連する国同士で話し合いが行われ、最終的に「best practice」が採用されていました。また、business sectorとの記述がある部分に関しては、ベネズエラなどによる「social sector」も追加した方が良いとの提言も多く見られました。さらに、通常CRP文書に対する提言は締約国のみであるものの、そうではない企業(business)から鉱業・オイル・ガスセクターの主流化への含み方が提言されていました。

L文書の検討の際には、ベネズエラが翻訳の問題から、スペイン語の文書の「business sector」を「private sector」に変更するよう求めましたが、意味が異なってしまうとしてメキシコがこれを反対しました。英語文書では問題ないとされたため、ベネズエラが柔軟に対応する意向を示し、オリジナル文書の通り、「business sector」が採用されました。その他には、EUが生態系アプローチの評価に関する文章にインフラのみが明記されていることを指摘し、すべてのセクターと表記を変更するよう求め、採用されました。

■関連する愛知ターゲット:戦略目標A 目標1~4

戦略目標A
「各政府と各社会において生物多様性を主流化することにより、生物多様性の損失の根本原因に対処する。」
目標1
「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値及びそれを保全し持続可能に利用するために取り得る行動を、人々が認識する。」
目標2
「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発及び貧困削減のための戦略や計画プロセスに統合され、適切な場合には国家勘定や報告制度に組み込まれている。」
目標3
「遅くとも2020年までに、条約その他の国際的義務に整合し調和するかたちで、国内の社会経済状況を考慮しつつ、負の影響を最小化又は回避するために、補助金を含む生物多様性に有害な奨励措置が廃止され、あるいは段階的に廃止され、又は改革され、また、生物多様性の保全及び持続可能な利用のための正の奨励措置が策定され、適用される。」
目標4
「遅くとも2020年までに、政府、ビジネス及びあらゆるレベルの関係者が、持続可能な生産及び消費のための計画を達成するための行動を行い、又はそのための計画を実施しており、また自然資源の利用の影響を生態学的限界の十分安全な範囲内に抑える。」

決定について

SBI決定

SBI決定では、エネルギー・鉱業、インフラ、製造および加工セクターにおける主流化の促進と実施において先住民地域共同体、女性、ユース、地方政府、その他の関連するステークホルダーの重要な役割を強調し、これらのセクターとの関わりや協力を含む主流化の措置に関する情報を第6回国別報告書に含めることを奨励しました。

また、すべてのセクターのあらゆるレベルでの行動や意思決定の変化を含む生物多様性の保全と持続可能な利用を達成することおよび主流化を含む条約実施のために国の能力や状況を考慮して国レベルでの行動の有効性を見直しその課題を特定することの重要性を認識しました。

それらに加え、主流化に対応するための政策やツールの利用を大幅に拡大し優先順位をつける必要があること、生物多様性および関連するガイダンスに関する報告のための行動のタイプ分類に留意することとしました。さらにメキシコやカイロで開催された国際専門家ワークショップの報告を歓迎しました。

COP決定

COP14で、主流化のための長期的な戦略的アプローチを確立すること(パラ14)、主流化に関する専門家グループを設立し、長期的な取り組み提案のさらなる進展について主流化をポスト2020の枠組に適切に統合しSBI3で検討すること(パラ15)を決定する案をまとめました。

また、生物多様性戦略計画、持続可能な開発のための2030アジェンダおよびSDGsを含む様々な多国間協定と国際プロセスの達成に、エネルギー・鉱業、インフラ、製造および加工セクターでの生物多様性の主流化が不可欠であることや、主流化を促進し実施する上で、SBI決定の先住民地域共同体、女性、ユース、地方政府、その他の関連するステークホルダーに加え、企業や金融セクターの重要な役割を強調しました。

また、締約国や関連するステークホルダーに対し、生物多様性の主流化に関する締約国会議の過去の決定の実施などを促し、企業には生物多様性に関連する事業活動を報告するための行動のタイプ分類、および事務局が用意した関連指針を利用するよう要請しました。

それらに加え、主流化は生物多様性条約・生物多様性戦略計画、愛知目標、2050年ビジョンの達成に不可欠であり、将来の生物多様性枠組みの重要な要素の1つであることや、生物多様性の保全・持続可能な利用に対する政策やツールについて生物多様性を主流化する機会があること、包括的な生物多様性影響評価の広範な適用、国家および地域レベルでの空間計画の活用、生物多様性配慮の統合の機会などを認識することとしました。

さらに事務局が作成した生物多様性および関連するガイダンスに関する報告のための行動のタイプや、主要セクターへの生物多様性の主流化による汚染緩和に関する国連環境計画総会(UNEA)決議3/2た、国際連合食糧農業機関(FAO)2017総会の決定を歓迎し、能力開発、技術移転、資源動員の必要性を含む主流化の有効性を討し、課題を特定することの重要性を留意することとしました。

生物多様性と健康

健康セクターでの主流化は生物多様性の損失を止め、生物多様性戦略計画と愛知目標の達成、持続可能な開発のための2030アジェンダとSDGsを含む様々な他国協定と国際的プロセスの目標を達成することを強調しました。

また、健康分野で実施される持続可能な消費と生産に関する優良事例を促進し強化することとし、CBDと世界保健機関(WHO)の共同作業プログラムに基づく活動の進展に関する定期的な報告メカニズムの確立を検討することとしました。それらに加え、生物多様性の保全・持続可能な利用に対する政策やツールについて生物多様性を主流化する機会があることを認識し、第71回世界保健機関総会による人の健康と生物多様性の相互関係の考察を歓迎しました。

締約国に対して、SDGsに沿う形で、生物多様性の主流化と、生物多様性を組み込んだワンヘルス政策、計画、プログラムの開発を視野に、生物多様性の保全や持続可能な利用の公衆衛生上の価値についてのコミュニケーション・普及・啓発ツールの開発を奨励すること、健康セクターへの主流化を促進する効果的なインセンティブの提供や優良事例の促進を奨励すること、などの案をまとめました。WHOに対しても引続きCBDと協力した共同事業の推進を呼びかけました。

事務局への要請事項

・これまで締約国会議の決定において要求された生物多様性の主流化に関連する取り組みを引き続き支援すること
・ポスト2020生物多様性枠組みの開発において主流化に関する議論やインプットが適切に統合されるようにすること
・非公式助言グループと作業を進め、生物多様性の主流化への長期戦略的アプローチをさらに発展させる
・生物多様性へのビジネスへの影響および依存の開示および報告を促進するための追加作業の実施
・主流化における先住民地域共同体の役割を検討するための追加分析の実施
・COP15での検討のためにSBI3にて上記の行動に関する進捗状況の報告
・主要セクターにおける生物多様性の主流化に関する討議や経験の交換に関するフォーラムを継続して開催する
・主流化に関連する多国間協定および国際機関の事務局との協力およびパートナーシップを発展させること
〈健康〉
・生物多様性と健康に関する統合された科学ベースの指標および進捗度測定ツールの開発
・健康セクターの生物多様性の主流化に関するメッセージング・アプローチの開発
・生物多様性と健康の主流化において締約国をさらに支援するために国家政策、戦略、プログラム、One Healthアプローチへの配慮を向上する

公式ニュースサイトIISD にユースが紹介されました。 Photo by IISD/ENB | Francis Dejon

公式ニュースサイトIISD にユースが紹介されました。 Photo by IISD/ENB | Francis Dejon

生物多様性わかものネットワーク 矢動丸琴子
(千葉大学大学院/園芸学研究科/環境健康学領域/博士後期1年)