決定紹介パート2
COP14では、議題の中の各セクションを分けて議論するという進行がおこなわれました。ほぼほぼ合意が出来上がっているセクションと、交渉が必要なセクションを分け、コンタクトグループで議論することで時間の効率化を図ることができましたが、数多くのコンタクトグループができたり、決定文書の数が非常に多いという結果となりました。交渉を細かく終えなかったものもありますが、注目していたものを紹介します。
保護地域とOECM
今回の決定には、「景観への統合」「効果的な管理」「OECMの管理アプローチと定義」「海洋保護区の推進」という4つのガイダンスが、付属文書(Annex)としてつけられています。それぞれの付属文書は丁寧に背景説明が設けられ、指針となる原則、ステップ、特定手法、定義などがコンパクトまとめられています。OECMは、なかなか、日本語でパットわかる説明が難しですが、保護地域が“自然保護を第1の目的に掲げた”場所であることに対し、OECMは“自然保護が第1目的でなくとも、実態として自然保護に機能”している場所で、定義上、原生地域ではなく、文化的社会的に何らかつながりのある場所が想定されています。COP14の議論やサイドイベントの説明を受けて思いついたのは「暮らしと自然の共生地域」といった表現です。
決定概要
OECMの定義として、「OECMとは、保護地域ではない地理的に定義がなされた場所で、
生態系機能やサービス、適用できる場合は、文化的、精神的、社会経済的またはその他の地域に関係(locally relevant)する価値とともに、生物多様性の生息域内保全に関する積極的で持続的な長期の目標を達成する仕方で統治・管理されている場所」(仮訳)という定義が採択されました。
景観への統合(付属書1)と保護地域の効果的な管理(付属書2に関するガイダンスの適用、OECMの特定と、OECMのデータを世界保護地域データベースに入力するためのUNEP-WCMC(国連環境計画世界自然保護モニタリングセンター)への情報提供を奨励しました。
各国に対して、その事例を共有するとともに、IUCNとUNEP-WCMCに対して、政府の支援、保護地域データベースの拡張、その他の関連機関とも共同した能力養成(CapacityBuilding、トレーニングワークショップなど)の実施も奨励しています。
また、締約国に、OECMと関係して、農林漁業セクターにOECMの主流化を促進することも呼びかけています(訳注:OECMは、生物多様性保全上良く管理された農林水産業の営まれる場(田んぼとか)も含む定義・コンセプトです)。
外来種
決定概要
愛知目標達成のための助言を行う専門家グループの設置を決めました。また、専門家グループの結果についてオンラインディスカッションフォーラムを通じて検討を深める事、さらに、国家および地域レベルでの国境管理、衛生植物検疫措置の実施を強く求めました。
また、侵略的外来種に対する電子商取引の発達と関連するリスクを最小限に抑えるために締約国間の連携の必要性や脆弱な生態系に対する侵略的外来種の不利な影響を認識すること、生きた種の貿易に関連する侵略的外来種の意図しない導入を避けるための補足的な自主的指針(本決定付属文書)を歓迎することなどがありました。
それらに加え、生きた種の貿易に関する侵略的外来種の意図しない侵入を避ける自主的指針を活用すること、国内規制の情報と同様に地域の規制と侵略的外来種のリストも共有すること、愛知目標9達成のための活動を促進する新たな機会を探るために事業部門(business sector)と共同すること、データ動員の促進をすることなどを奨励しました。
事務局に対して、侵略的外来種に関連する生物多様性の危機またはリスクをもたらす生物についての国連経済社会理事会事務局、WCOはじめとする国際協定などと調整し、他の規定と調和のとれた外来種の分類やラベルの仕組みが可能かどうか模索し、その進捗についてCOP15の前に開催されるSBSTTAに報告すること、世界外来生物情報パートナーシップと協力して、外来生物の導入経路やインパクトに関する情報を活用することを求めました。
SBIの勧告に追加する形で、世界分類学イニシアティブフォーラム、IUCNの外来種専門委員会の活動やデータベースについて留意する記述が盛り込まれました。
また、締約国に対して、規制対象となっている外来種のリストや、外来種の出現範囲、関心のある種の新らたな導入や拡大の防止に向けて協力することを求める記述も加わりました。
2050年ビジョン
決定概要
2050年ビジョンに関する結論(付属書としてまとめられました)を歓迎し、IPBES「Assessment Report on Scenarios and Models of Biodiversity and Ecosystem Services」を考慮することとしました。
シナリオ研究に関する科学コミュニティーに対して、ポスト2020にも関係するため、シナリオやアセスメントにおいて検討を奨励する事項をまとめました。(SBSTTA21の検討から、数多く加わっています)
科学コミュニティーに奨励する検討事項は下記の通りです。
a) 生物多様性の損失を起こす根本原因、制度的、構造的要因
b) 様々なシナリオの元で、多様なスケールで採用できる政策組み合わせ
c) 生物多様性に関係する、相乗効果・トレードオフ・限界などについての特定
d) 先住民地域共同体の集合的行動の貢献
e) ポスト2020枠組み実施への資金動員のシナリオ
f) 先住民地域共同体による慣習的利用のシナリオがもたらす結果
g) ABSに関するシナリオ分析
h) ポスト2020の立案、実施、モニタリングにおけるジェンダーの視点
i) 生産セクター、とりわけ農林水産業セクターが及ぼしうる正負の影響
j) 例えば、最新データ分析技術、遺伝資源の電子情報、新しい種類の遺伝子組み換え生物、合成生物学などの技術開発やその技術がもつ、生物多様性や先住民地域共同体のライフスタイルや伝統的知識に与える正負の影響
k) コミュニケーションの強化を通じた生物多様性の多様な価値や、生物多様性の損失の結果についての普及啓発強化の重要性
l) シナリオや関係するアセスメントが、どのように、長期目標達成のための短期・中期のマイルストーンの特定に情報を提供するのか
事務局に対して、シナリオの開発や適用にあらゆる国が参加できるよう能力養成を行うこと、このシナリオをステークホルダーの普及啓発や参画を推進するコミュニケーションツールとしていその利用を加速し、生物多様性への課題への地球規模でのサポートを高めることを求めました。その手法として、セレブを生物多様性大使として参画するという手法も含まれています。
付属文書
「2050年ビジョンは妥当なものであり、生物多様性戦略計画のあらゆるフォローアップにおいて考慮されるべきものです。現状の傾向ないしこれまでと同じ(Business as usual)というシナリオは、生物多様性の損失が続くことを示しています。社会経済の発展に向けたシナリオは、非常に幅広い未来があることを実証しています。2050年ビジョンに影響される生物多様性の目標は、手法の組み合わせによって幅広く社会経済的目標とともに達成可能です。その手法は、各国やステークホルダーにもよるが、様々なポリシーミックスによって開発できます。持続可能な未来に向けた道のりは、可能であるが変革的な変化(Transformative Change)が求められます。生物多様性と気候変動に関して一貫性のとれたアプローチが求められます。2050年ビジョンは、持続可能な開発目標と他の国際ゴールと一貫するものです。シナリオやモデルは、ポスト2020年世界生物多様性枠組みの発展や実施に様々な情報を提供するでしょう。地域や国、地方の状況に合わせたシナリオ分析は、生物多様性の保全や持続可能な利用の戦略的な計画立案に情報を提供するでしょう」
(公財) 日本自然保護協会・IUCN日本委員会事務局 道家哲平