5月17日 SBIプレナリー2日目

5月17日20時(日本時間)から始まった、SBI3のプレナリー(2日目)は、資源動員(Resource Mobilization)と資金メカニズムに関する議論を扱いました。

この議題は、戦略計画(ポスト2020枠組み)実施のための資源を増やすという議題(メイン文書はCBD/SBI/3/5)と、先進国が資金を供出し、途上国に配分する仕組みである地球環境ファシリティー(Global Environment Facility)を合わせた議論(メイン文書はCBD/SBI/3/6)になります。お金を巡る議論でもあり、読み応えのある関連文書が16種類も用意されています。生物多様性条約では、COP10で資源動員戦略を設定し、資源動員を進めていくための基本的事項(用語や定義の整理、どのような資源を増やすか、統計のとりかたなど)を検討し、先進国、途上国間の理解も深めてきました。

COP14から、専門家パネルを設けて、過去の資源動員戦略のレビュー、検討中のポスト2020枠組み実施のために必要な資源の見通し(合意はされていないものの、検討されている目標を実行するためにどれだけの資源が必要かという分析)、ポスト2020枠組み実施のための資源動員戦略に組み込むべき要素(生物多様性に悪影響を及ぼす補助金の撤廃や使途変更(redirect)、追加的な資金源の増加、資源資料の効率性や効果の向上)について専門家会合やインフォーマルセッションでの議論(2021年3月)を深めてきました。

それらの検討を踏まえて、ポスト2020枠組み実施や、生物多様性条約の実施に必要な資源動員をどのように進めるかというのが議題の趣旨となっています。資金メカニズムについては、地球環境ファシリティーの運営や今後の資金配分に対する検討が議題の内容となっています。

この議論は、先進国と途上国の間でかなり明確に立場や論点が分かれる議題です。途上国の代表的な主張はブラジルやアルゼンチンがわかりやすいかなと思いました。

実施のために資源動員が必要という点は加盟国のほとんどが合意しつつも、先進国から途上国に対する、新規の(名前を付け替えたものではない)、追加的で、時宜にかなった(資金提供に複雑な手続きがない)、資金提供が条約上の義務であり最優先事項である(そのため、「民間資金増や、資源の効果的な活用は論点が違う」という言い方まである)との主張が強い途上国の主張に対して

あらゆる資源(政府、民間、他の環境協定(例えばグローバル気候基金))からの資源動員と同時に、生物多様性に負の影響がある補助金の撤廃や変更(redirect)、資源の活用の効率性や効果の改善など多様なアプローチで資源動員の効果を高めようという先進国の主張があります。

生物多様性への配慮や保全再生・持続可能な利用への寄与を多様なセクターで進めようという「生物多様性の主流化」は、他の省庁や民間企業等に、生物多様性への貢献を高める議論ですが、これも、何らかの資源動員として捉えていこうという議論も先進国からあります。

この文脈の中では、先住民地域共同体による非資金的な(つまり、日々の自然との関わりを通じて)生物多様性保全への貢献を認める先進国と、先進国から途上国への資金供与の論点からズレるものとして疑問視する途上国の主張など対立軸になってしまうのが残念です。

その他の論点としては、新型コロナによる経済ダメージからの復興費や経済刺激策が生物多様性の損失につながらないようにする(または、生物多様性にもプラスに働くような)政策、グリーンリカバリーやGreen DealとかGreen Stimulusなどと呼ばれる政策、を推奨するべきという意見も聞かれました。

また、途上国の一部では、共通だが差異ある責任(Common but DIfferenciated Responsibility:CBDR)の原則をもとに、資源動員の議論を進めるべきという意見と、生物多様性条約本文にCBDRの規定はないとする先進国の意見なども、古くから駆け引きのある議論となっていますが、今回の声明でも違いが明確に出ていました。

NGOなども意見を言う機会がSBSTTAと比較して多くありました。IUCNは、フロー(途上国から先進国に、xxドル)だけでなく、資源動員で、保全がどこまで進んだかというインパクトを同時に測る必要があることを強調しました。

チャット上では、十分なネット速度でアクセスできないパレスチナがGEFの資金を得られないと問題を指摘していました。原因は明確ではないですが、アメリカ・ニューヨークに本部を置くGEFが、アメリカの経済制裁に引っ張られたことで、GEFからの資金提供ができないのではという意見もあり、資金の流れや取得(アクセス)の透明性も大きな課題と言えます。

上記は分かりやすくするための整理ですが、この議論は、先進国と途上国という対立で捉えたり、先進国がもっと途上国に資金を出せば良いといった単純化することにリスクがある議論です。

意見提出の終了後、コンタクトグループの設立が宣言され、CRP作成を指示しました。また、3回OEWGで議論するべき内容なども整理することもありますが、COp15で扱うべき勧告内容に集中して合意を見出してほしいとの期待が述べられました。コンタクトグループの共同議長は、ベルギーとジョージアの方が選ばれました。資源動員コンタクトグループは、19日20時から開かれます。

また、能力養成(Capacity-building), 科学技術協力(technical and scientific cooperation), 技術移転(technology transfer), 知識管理(knowledge management), およびコミュニケーション(communication)(議題7)についても、15分程度ですが、意見が出されました。多くの要素が含まれるので、関連資料も17と非常に多くあります。ただ、時間の制限から、EU、太平洋島嶼国グループ、カリビア小島嶼国グループ、アフリカ諸国などの地域代表の声明だけで終わりました。

道家哲平(IUCN-J事務局長/日本自然保護協会)