エリザベス・マルマ・ムレマ生物多様性条約事務局長のもう一つの顔

CBDアライアンスは見た!

国連生物多様性の10年市民ネットワークを含めていくつもの日本のNGOが参加しているCBDアライアンスでは、国際会議の度に現地参加者のメーリングリストを作成し、提言作成や締約国の発言に関する意見交換などを行っています。3/15にCBDアライアンスのコーディネーターが転送したメールが元で、メーリングリストメンバー(の一部)に衝撃が走りました。それは、メールに添付されたレターの発信者であるムレマ氏の肩書が、生物多様性条約事務局長ではなく、「TNFD共同議長」だったからです。

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosure:自然関連財務情報開示タスクフォース)は、TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)を参考に、金融・企業の自然に関連する情報開示を促すことで、自然の保全を進めようとする取組みです。ムレマ氏は2021年6月の発足当初から共同議長を務めています。私は当時からそのことを知っていましたが、CBDアライアンスのメーリングリストでは話題になっていなかったように思います。CBDアライアンスのメンバーには、企業は自然破壊の先鋒であるという意識が強い方も少なからずいることから、企業が生物多様性に関連して自然破壊以外に行ってる活動にはあまり関心が持たれていないからではないかと想像しています。

TNFD共同議長

TNFD共同議長

レターは2/28付けで、「CBDアライアンスにTNFDのミッション・活動計画・枠組案等について説明したい」というものでした。ジュネーブ会合にはCBDアライアンスのメンバーもムレマ氏も参加することから、対面での打合せが設定されることになりました。

TNFDとの打合せ

打合せは、3/17の9:15から、ムレマ事務局長がCBDジュネーブ会合中に使っているジュネーブ国際会議場の部屋で、TNFDの技術ディレクターのエミリー・マッケンジー氏@ロンドンとウェブ会議でつないで行われました。CBDアライアンスからの参加者は、コーディネーターのガディール氏、グリーンピースベルギーのランブレヒト氏、そして私、の3名でした。案外少ないと感じたのですが、CBDアライアンスはこの時間帯に毎日会合を持っていることと、上記の認識があることが理由かと思います。

左から、ガディール氏・ムレマ氏・ランブレヒト氏

左から、ガディール氏・ムレマ氏・ランブレヒト氏

マッケンジー氏

マッケンジー氏

自己紹介の後、まずムレマ氏からTNFDの設立や目的などの説明があり、次いでマッケンジー氏から3/15にリリースしたばかりのTNFD枠組β0.1版について簡単に紹介されました(詳細はリンク先をご覧ください)。

TNFD枠組β0.1版

TNFD枠組β0.1版

このβ版は今年の6月と10月に更新され、その後パイロットテストを経て2023年9月に正式発行される予定です。今回の打合せは、CBDアライアンス、そしてそのネットワークの先にいる人々に、この18か月の更新プロセスへの意見募集を求めるためのものでした。

CBDアライアンスからの質問とTNFDの回答

短い時間でしたが、質疑応答もできましたので、簡単にご紹介します。
Q:企業自身ではなく、その原材料調達先が自然破壊に加担しているような場合に、TNFDはどのようにその開示を促していくのか?
A:まずは自主的な取組として始めるが、将来的にはTCFDのように規制に組み込まれると考えている。自社の直接操業以外の取引先の取組みの評価については、今後5年間かけて評価範囲を広げていくことも働きかけていく予定にしている。
Q:企業の自然への影響の緩和については、どのように行っていくのか?
A:緩和階層を活用することになるが、具体的には中期的な課題と捉えて検討を進めている。
Q:地域コミュニティや先住民の権利についてはどのように取り込んでいくのか?
A:地域に基づく開示を求めているため、主要な点は枠組に含まれている。枠組での評価プロセスにおいては、ステークホルダーとのエンゲージメントに配慮している。
Q:意見は地域コミュニティからもできるのか?また、何語でも良いのか?
A:ぜひ意見をいただきたい。枠組β版はグーグル翻訳で各国語に翻訳できるようにしている。意見については各国語でいただいたものはグーグル翻訳で読むことになると思うが、確認する。
今後も継続的な意見交換を約束し、打合せを終えました。

宮本育昌
(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)