SBI3からCOP15への勧告案

SBI最終日となる28日10時(日本時間28日17時)から始まったSBIプレナリーは、最終日にも関わらずCRP文書を“初めて!”扱う議題もあり、なかなか集約の気配がありませんでしたが、半ば強引に、COP15にたくさんの宿題を先送りする形で閉会しました。

生物多様性条約本体に加え、カルタヘナ議定書・名古屋議定書を扱い、かつ、先進国途上国共に関心の高い「資源」を扱える会議体なので、やむを得ない形ですが、交渉官も疲労とフラストレーションを貯めている様子が、オンライン越しからも見えました。

以下、その主要なポイントを紹介します。議題のあとのLはLimited CirculationのL文書の番号となっています。筆者によるポイント解説のため、詳しくは本文をご参照ください。

報告枠組み( L15)

この議題は、GBFの合意を前提に、計画・報告・評価・利害関係者の参画・実施手段の項目で、いわゆるGBFのPDCAの効果を高める方法を検討しましたが、まとまっていないことを意味するブラケット[ ]だらけになっています。

合意されていませんが、各フェーズのポイントは下記のような内容を持っています。

計画(Planning):GBFに基づく新しいNBSAPの改定のための指針(Annex A(これから作成予定))とその報告のテンプレートや、タイミング(COP16の前)や、NBSAPを改定できない場合の扱い

報告(Reporting):2030年までに行う予定の第7次および第8次国別報告書を作成するときの指針(Annex C(これから作成予定))や、報告時にヘッドライン指標(SBSTTA24-L10)を採用すること、報告を行うための途上国支援の在り方

評価(Review):各国のNBSAPで設定された国別目標を取りまとめた世界規模の評価の実施(Global Biodiversity Stocktakeという案や、政府間対話というもっと曖昧な案)の仕方(検証項目、検証の場(SBI)、タイイング)と、政府間のピアレビューで国家戦略を検証する仕組み(Annex D(これから作成予定))の在り方

利害関係者や非政府主体の参画:締約国による非政府主体アクターへの行動呼びかけと、その非政府主体によるコミットメントの取りまとめ方などについて

実施手段:報告枠組み実施のための資金や技術支援や、事務局の役割

知識管理と情報共有(クリアリングハウスメカニズム)(L?)

ポスト2020枠組みの実施のためには、実施のためのツールやツール運用のノウハウ、実施の成果、進展を図るためのベースラインと最新の情報把握など、様々な知識を集約したり、生み出したりする必要があります。知識管理と情報共有(クリアリングハウスメカニズム)はポスト2020枠組みでも重要なものですが、各国の意見出しをしたCRP文書を作成しただけで、そのCRPを精査する時間を作ることができずに終わりました。(そのため、全文ブラケット)

内容はかなり重要なことを言っていて、日本の生物多様性施策を進めるための「知識管理」に置き換えたときに相当の示唆を与えてくれる(気がします)。

主流化-自治体行動計画(L16)

この勧告は、生物多様性の主流化という重要なプログラムの一環という扱で、GBFへの自治体の貢献を呼びかけるとともに、自治体行動計画(PLAN OF ACTION ON SUBNATIONAL GOVERNMENTS, CITIES AND OTHER LOCAL AUTHORITIES FOR BIODIVERSITY (2021-2030))を定めようというものです。

自治体の役割強化と中央政府との連動は、愛知県も中心の一つ(GoLS)となり、多くの自治体ネットワークが主張してきたものでした。行動計画(Plan of Action)も英国のエディンバラ市が呼びかけ役になって作り上げてきたものです。そのため、国の関与が少ないから気に入らないという意見もあるのでしょう、行動計画を[採択][留意][承認(Endorse)]すると3案に分かれています。

行動計画は、自治体の参画の増加、地域と世界レベルの活動調整、自治体参画促進のための製作ツールやガイダンスの特定や普及、普及啓発の促進を目的に、7つの行動領域(1戦略策定、2主流化や政府との連携、3資源動員、4能力開発、5コミュニケーション・普及啓発、6意思決定に関する情報評価と改善、7モニタリングと報告)を設定しています。

重要なテーマなのでCOP15で良い形で採択されてほしいと思います。

主流化(L17)

生物多様性の主流化に関する長期戦略の策定や、作業継続のための専門家会合の設置(AHTEG)をメインの議題とした勧告案です。COP14決定に基づいて主流化非公式助言グループが設立され、議論を積み重ね、文書を作り上げてきました。文書は、長期の戦略的アプローチと、長期の戦略アプローチの行動計画の2種類となっています。決定案本体では、主流化のプランの普及・実施・成果把握・改善のためのさらなる行動や関係機関への協力や協調の要請などが含めることになると思います。

主流化戦略は、政府や政策への主流化、ビジネスモデルや企業の実務における主流化、あらゆる社会への主流化という3つの戦略領域を設定し、主要行動(行動計画のほうではさらに詳細なアクションとマイルストーン(いつまでに何をするか)などを定めています。内容は、ポスト2020枠組みの目標14~16と重なる部分も多く、整合性を取る必要がありますが、実施されたら生物多様性への成果への期待値も上がる領域です。

ポスト2020枠組みに関するコミュニケーション(L14)

ポスト2020枠組みの合意に基づいて内容を調整するという前提で、コミュニケーション戦略に入れる内容をまとめました。このコミュニケーション戦略のスコープにコミュニケーション(広報)、情報へのアクセス、普及啓発があり、そこに「行動変容」を入れるかどうかが焦点に上がっています。行動変容を重要とする国に対して、世界レベルで「行動変容」をするとはどういうことで、それに事務局がどのように関わるべきかが不明という点で、意見が分かれたままです。そのため、行動変容に関する言葉、行動変容の重要性を指摘する段落全般に[ ]をかけています。

この戦略は、条約事務局や締約国含めたあらゆる関係者のコミュニケーションの試みを支援するものとして作成され、コミュニケーションの目的や調整の方法、国や地域レベルで広報に関する行動計画を作る際の指針などになることを目指す(予定)で作成されます。作成のタイミング、定期的に評価、更新され、新たなツール、新たなパートナー、必要な資源などを検証するなど、予定表が作成されていて、細かくPDCAを回しながら改善していきます。締約国にも、コミュニケーション戦略を作成するべきという提案には[ ]がかかっています。

コミュニケーション戦略は、4つのゴールを設定しているほか、聴衆(オーディエンスの考え方:締約国、多国間協定や国際機関、IPLC、女性、ユース、一般大衆、メディア)、ブランディングの方向、オープンソースの調整メカニズムや多様な広報チャンネルの活用の在り方(ソーシャルメディア、イベント、メッセンジャー、ウェブサイト)、コミュニケーション戦略で活用するキーメッセージ、考えられる資源などがまとめられています。

この章立てを活用すれば、そのまま、日本のコミュニケーション戦略も作成できそうです。ちなみに、まだ、合意されていませんが、4つのゴールは、

A.持続可能な開発を達成するため、生物多様性の多様な価値について、先住民や地域社会が用いる価値やアプローチを含む、関連する知識体系を含めて理解、認識、認識を深める。

B. ポスト2020生物多様性世界枠組みの目標とターゲットの存在、およびその達成に向けた進捗について、すべてのアクターに認知させる。

C. 生物多様性のための行動の成功、教訓、経験に関する情報を共有するために、メディア、教育者、市民社会を含むプラットフォームとパートナーシップを開発し、促進する。

D. 貧困撲滅、気候変動、土地劣化、人間の健康、人権、公平性、持続可能な開発に対するポスト2020生物多様性世界枠組みの関連性を実証する。

となっています。

道家哲平

国際自然保護連合日本委員会