金融と生物多様性保全
ジュネーブ会合では昼休みの時間帯にほぼ毎日4件程度のサイドイベントが開催されました。今回は、データプロバイダーのPlanet Trackerが主催・共催した金融に関連したサイドイベント3件をご紹介します。
●金融を梃子に使う―投資家と貸し手は気候変動と生物多様性損失に対し、一つの森での対処により一度に取組み得るe
2022年3月22日に開催された表記のサイドイベントでは、南米のグランチャコの自然生態系における農地転換がテーマでした。まず、現地の研究者を中心としたマルチステークホルダーのイニシアチブにより、衛星画像や生物調査の結果を用いた30mメッシュのデータマップによる森林変化の可視化について紹介されました。
Planet Trackerは、この農地転換に関して、どの金融機関がどのくらい投資したかをデータ化しました。その結果、大手金融機関が多く関わっており、それらの金融機関が掲げる生物多様性保全が、現場レベルではまだ十分に反映できていないことを明らかにしました。また、それに対処するためのツールキットが紹介されました。
●自然に基づく金融―投資家と貸し手が興味を持つ自然保全
2022年3月25日に開催された表記のサイドイベントでは、主催者のPlanet Trackerが新たに提唱した金融手法「森林破壊リンクソブリンボンド(DLSB(Deforestation-Linked Sovereign Bond))」が紹介されました。これは、サステナビティに関する成果目標(SPT(Sustainability Performance Target))を設定し、ローン返済時の金利が、SPTを達成すると下がり達成できないと上がる「サステナビティリンク」に類似した金融手法です。
DLSBを発行する国は、「2030年に森林破壊ゼロ」というSPTを設定し、その進捗を毎年計測・検証・報告し、SPTの達成度合いにより金利が変化します。
具体的な例を作ってみます。基準年(2020年)の森林破壊面積を10万ha、SPT「2030年に森林破壊ゼロ」の達成基準を「毎年森林破壊面積を1万haずつ減らす」と決めたとします。2021年の森林破壊面積の実績が8.9万haであればSPT達成で金利が下がり、9.1万haだとSPT未達成で金利が上がります。このような金利の上下は累積して返済総額に影響するため、ボンドの返済期間の初期にSPTを達成する動機が強く働くことになります。すなわち、いち早く森林破壊を食い止めることが可能な手法、と言えます。
●成果に基づく金融手法による海洋保護区の効果的保全への意欲向上
2022年3月28日に開催された表記のサイドイベントでも、海洋保護区にサステナビリティリンクボンドに類似する手法を当てはめ、IUCNの保護区管理に関するグリーンリスト基準を満たすことをSPTとして設定することが提案されました。
理論的な説明として、マレーシアでの海洋保護区10か所の設立の事例が紹介されています。海洋保護区の設立のため、1,000万$を5年間金利5%のボンド発行により調達し、保護区の全てがIUCNグリーンリスト基準を満たした場合には金利を2%引き下げ、利息は3%だけ払えば良い、という設定がなされています。これにより、海洋保護区は効率的な管理が進み、運用にかかる費用を下げることができます。また、投資家はより効率的な生物多様性保全に投資ができるという訳です。
金融から生物多様性保全を変えていこうとする動きは、どんどん拡大しています。今後も様々な金融手法が出てくると思いますので、引き続き情報を収集していきたいと考えています。
宮本育昌
(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)