昆明-モントリオールパッケージ 交渉の構図と交渉結果

COP14から始まった交渉が、モントリオールにて決着を見ました。自然保護に関わる人が注目するのは、30by30などのフレーズが入ったポスト2020生物多様性世界枠組み(GBF)ですが、モントリオールの交渉では、何をするかのGBFとともに、実施するための資金(資源動員戦略、電子化された遺伝子塩基配列情報の扱い)がパッケージ(どれか一つ欠いても合意は成立しない)となっていました。

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資源動員(資金)の構図と結論

資源動員は、資金。人、技術能力を含めて、CBDの3つの目的を実施するために必要な資源を、増やそう(Mobilize)というテーマです。GBF実施のために多くの資金が必要という点は全参加国が共通するものの、途上国は、もっと多くを速やかに出して、GBFの実施を支援するべきとし、そのためにも新たな基金が必要といい、先進国は、先進国が途上国を支援するということには限界があり、民間や金融などあらゆる資源からの資源動員が必要と、対立はしていないけれど、ずれている、という交渉をしていました。先進国の「新たな資金の提案」への反論としては、既に地球環境ファシリティ―という組織があるにも関わらず、組織や資金の配分方針、方法を決める一連の流れをゼロから作るとすごい時間がかかるということも指摘しました。途上国は、地球環境ファシリティ―は、生物多様性のためだけの資金ではないし、資金供出できるのは国だけとの反論を加えています。

この折り合い点として、画期的な決定として、地球環境ファシリティ―の中に「GBF基金(Global Biodiversity Framework Fund)」を2023年までに作るよう要請しつつ、GBF基金が、多様なソース(この中には、後述のDSIの利用から生じる利益の共有に関わる資金”も”入れられるよう検討することをGEFに要請しました。

DSIの構図と結論

電子化された遺伝子塩基配列情報(DSI:Degital Sequenced Information on Genetic Resources)は、新型コロナのDNA情報が世界各地から一つのデータベースに入り、ワクチン開発を促進した事例を想像すると分かりやすいですので、その比喩から説明に入ります。

生物多様性条約は、遺伝資源の取得の際に、原産国の事前の情報提供に基づく同意(PIC)を求め、相互に合意される契約(MAT)でその配分方法を決めます。2016年のCOP13頃から、途上国は、デジタル化された遺伝子塩基配列(DSI)も遺伝資源であり、利益配分の対象と主張しはじめました。しかし、これを認めてしまうと、新型コロナ(ウイルスだし、いろいろ事情が変わるのですが比喩なのでご容赦を)のDNA情報をPICの手続き取っていたり、世界中から寄せられたDNAを基に開発されたときのMATとは何か、そもそも開発の際に、調査範囲の国とMAT契約を結ぶのか?と非現実的かつ非常事態への対処の視点からも、研究の発展からも阻害することが多く出てくることから、先進国は、そんなのあり得ないと主張を展開しました。

この問題は、2016年以降ずーっと大きな焦点となり、今回、DSIに関するPICやMATなどは適用しないが、利益を配分する多国間メカニズム(Multilateral Mechanism)の構築を決定しました。ただ、法的拘束力のある条約の条文の根拠なしに、DSIから生じた利益に対して、何らかの徴収し、保全や持続可能な利用の推進に資するお財布に入れる法的根拠が弱いのはそのままで、特に立法に厳格な国はかなり苦労しそうです。

いずれにせよ、世界メカニズムを具体化するための作業部会(DSI-WG)の設立も決め、COP16までに設立することを決めました(2年でこの課題が解決できるかは、疑問の余地あり)。途上国の主張に、先進国が譲歩した形ですが、そうは言っても実際の資金が回るようになるのは、いつのことだろうと個人的には思います。

痛み分けとなったパッケージ

途上国の主張をかなり受け入れる形で、GBFのパッケージとされた決定が出来上がりましたが、実現までには多くの時間がかかりそうな予感を感じます。こう考えてみると、気づいたのですが、COP15は、「仕組みを作るかどうか」に注力してしまって、各国どれだけの資金増に誠実に取り組むのか(資金コミットメント)を持ち寄ろうというメッセージを欠いたまま始まった気がします。「仏作って魂入れず」という言葉がありますが、生物多様性への危機感と魂を持った参加が、兄弟の条約である気候変動枠組み条約と比べて、はるかに低いことこそ、これから8年で変えなければならないのかもしれません

他3つのパッケージ

GBFは、その実施を意識したことから、非常に複雑なパッケージとなりましたが、上のDSIや資源動員の他に、モニタリング枠組み(GBFの達成を図る指標)、立案・報告・レビュー、能力養成の3つ、GBF事態を入れて計6つの決定がパッケージとなって議長提案文書を基にした閣僚級協議で決定しています。

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平(日本自然保護協会)