昆明-モントリオール生物多様性世界枠組みの採択!

2022年12月18日のxx時(モントリオール時間)、4年かかって協議したポスト2020生物多様性世界枠組みが、昆明-モントリオール生物多様性世界枠組みという愛称と共に採択されました。コンゴが否定的な発言をしたのに対し、メキシコが採択を支持するステートメントを読み上げ、満場の拍手に包まれました。議事進行が一度止まったものの、満場の拍手を味方に、黄議長は関連6決議の採択を表明、正式に採択されました。強引な採決に、プロセスへの異議や抗議が寄せられ、やや残念な終わりの迎え方です。

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4年間の交渉の中で、加盟国は2030年こうあってほしい、行動を起こすべきだとの思いを積み重ねてきました。それは「飾りつけの多いクリスマスツリー」と揶揄されましたが、それが共通の目標になった意義は大きいと思います。外された飾りもあります。決して100点の答えではない枠組みですが、愛知目標の教訓を生かした工夫が確かに盛り込まれました。次のステップは、この目標達成のための世界・国・地域レベルでの行動、国やNGO、自治体、企業、研究者・第1次産業従事者などあらゆるセクターの協働が一層求められることになります。

枠組み解説

この世界枠組みは、セクションA背景、セクションB目的、セクションC枠組み実施への配慮、セクションD SDGsとの関係、セクションE変化の理論、セクションF2050ビジョン、2030ミッション、セクションG昆明モントリオールゴール(A~D)、セクションH昆明―モントリオール目標(全23の目標)、セクションI実施、支援メカニズム、条件整備、セクションJ責任と透明性、セクションKコミュニケーション、教育、普及、理解向上の11章からなります。

セクションのA~Eまでは、生物多様性の危機と人々の暮らしの危機を認識し、その克服のためのこの行動枠組みの重要性やSDGs達成における重要性、実施のなかで配慮すべき原則などをまとめています。

セクションFでは、2050年の人と自然の共生のために、2030年までに、生物多様性の損失を止め、自然を回復の道筋にといういわばネイチャーポジティブという方向性を明示した章です。

セクションGは、2050年の人と自然の共生社会を、保全・持続可能な利用・ABS(という条約の3つの目的の達成状況)・ツールや手段(資金含む)という4つの観点でより具体的な言葉で描く章です。

ゴールAを仮訳すると、下記のような表現ですが、2050年の自然保護の到達点といった記述です。

―すべての生態系の完全性、連結性、回復力が維持、強化、または復元され、2050 年までに自然生態系の面積が大幅に増加する。
―既知の絶滅危惧種の人為的な絶滅を阻止し、2050年までにすべての種の絶滅率とリスクを10倍削減し、在来野生種の生息数を健康で回復力のあるレベルまで増加させる。
―野生種と家畜化された種の集団内の遺伝的多様性を維持し、その適応能力を保護する。

続く、行動目標は、一つ一つが非常に長文となっていて、分かりにくいので、あえて意訳をして紹介したいと思います。目標にするということは、現在は、まだその段階に至っていない、あるいは、真逆の状況にあるとも言えます。ぜひ、頭の中で文の意味を反対にして「現在がどんな状況か」を考えながら、行動目標を読んでいただけるとありがたいです。

<自然の危機に応えるため、、、>

行動目標1:地球上のすべての地域に生物多様性の配慮を拡げ、重要な自然の損失をゼロに近づける

行動目標2:損なわれた自然の30%を回復させる

行動目標3:陸・水・海の30%を人と自然の共生する地域として守り、管理する

行動目標4:絶滅危惧種を守るための緊急の行動と、人と野生動物の衝突回避を進める

行動目標5:生物の捕獲や取引を持続可能にし、違法・過剰な利用をなくす

行動目標6:外来種の侵入を突き止め、侵入と定着を半減させる

行動目標7:プラスチック汚染減らし、過剰施肥と農薬のリスクを半減させる

行動目標8:自然に根差した解決策で気候変動の緩和と適応を推進し、気候変動対策による自然破壊を最小化する

<自然に根差した解決により、人々に恩恵をもたらすため、、、>

行動目標9;自然資源を持続可能に管理し、特に脆弱な人々への自然の恵みを確保する

行動目標10:農業、養殖業、水産業、林業地域の長期的な持続可能性と生産性を確保する

行動目標11:あらゆる人々に必要な、水・空気・土や自然の調整機能を守る

行動目標12:都市の緑地や親水地域を増やし、都市住民の健康と幸福を高める

行動目標13:遺伝資源から得られる利益の公正公平な配分のためのあらゆるレベルの施策を展開する

<ツールや解決策の充実させるため、、、>

行動目標14:開発、貧困撲滅、環境アセスなどあらゆる法律・指針に生物多様性の視点を組み込む

行動目標15:企業や金融機関の行動や情報開示を支援し、企業リスクを減らし、企業による行動を増やす

行動目標16:市民の持続可能な選択を増やし、食料廃棄の半減や廃棄減少を進める法規制、情報提供を進める

行動目標17:遺伝子組み換えの適正な管理・利用の能力をすべての国が持つ

行動目標18:25年までに調査し、30年までに5000億円ドル以上の負の補助金をなくす

行動目標19:あらゆる資源を集めて、毎年2000億ドル以上の実施資金を生み出す

行動目標20:実施のための能力向上、技術提供、科学技術の推進と活用をはかる

行動目標21:効果的な管理や運営と参加のための最新の知識・情報を届ける

行動目標22:情報、政策決定の参加、司法へのアクセスの機会を、先住民、女性、ユースに確保する

行動目標23:行動目標達成のための意思決定や行動が、ジェンダー平等の中で実現する

*仮の意訳案なので、それぞれの視点で改良していただいてかまいません。

セクションI、J、Kでは、GBF実施のための取組みが書かれています。セクションKコミュニケーションのところには、J-GBFのようなプラットフォームが重要との指摘があり、

愛知からの進化

色々な解説記事は、新聞が出すと思いますので、愛知目標との比較で考えたいと思います。

特徴1 具体化された「自然共生社会」の姿

2010年愛知目標の画期的だった点の一つが「人と自然の共生」という概念を2050年の将来像として合意したことです。このキーワードは10年たっても色あせることなく、引き続き、生物多様性保全に関わる人の北極星(いつでも、方向を指し示す)です。

昆明―モントリオール枠組みではこの具体化のための2050年ゴールを文章化し、合意しました。

特徴2 目標数値と、PDCAサイクルの同時採択

愛知目標では20ある目標の内、数え方によりますが数値が明記されたのは、3つでした。新枠組みでは23ある目標の内7と広がった他、進捗を測る指標(ヘッドラインインディケーター)も同時に採択されました。このヘッドラインインディケーターは、各国の国家戦略の目標値としても採用することが奨励されており、各国の国家戦略を足し合わせて、世界とのギャップを測ることも計画されています。

特徴3 新たな基金

愛知目標では、資源は顕著に増加させるとの目標が定められ、COP11,12と経て「国際的なフローを2倍」という数的目標値が後から決定しました。その時と比べると、資金については、2030年までに、毎年2000億ドルという規模が目標値に設定され、それを加速するための世界基金も作られることになりました。

特徴4 人権や環境正義の充実

愛知目標では、先住民地域共同体に関係する目標は18番ただ一つだけですが、上記の意訳版では反映しきれていないものの、先住民地域共同体への配慮の記述が行動目標の至るところに散りばめられています。また、ジェンダーについて単独の目標を合意したのも大きな変化です。環境正義や権利ベースアプローチへの意識が、この10年で急速に変化、浸透してきたことが分かります(日本でのスピードをはるかに上回る浸透度ではないでしょうか)

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平(日本自然保護協会)