COP12前日 NGO戦略会合
COP12開幕前日はNGOの戦略会合ということで、議題について深く掘り下げて関心事項の共有や政策提言に向けた取組み方法などを共有です。今日も、韓国CBD市民ネットのチュニさんからの挨拶があり、ようこそピョンチャンへという歓迎の言葉から。ともに活動し、良い成果を得たいこと、会議やロジのことで課題があれば韓国NGOでサポートするよという力強いメッセージがありました。
ブラウリオ生物多様性条約事務局長との対話
また、午前中の会合には、ブラウリオ生物多様性事務局長が参加し、事務局からの視点でのお話などがありました。
NGOとのコラボでどんなことを期待していますか?という質問に対しては、事務局長からは
「一言で言えば、市民との共同で作り上げたい成果として、愛知ターゲットの進捗評価とよりよい後半を迎えるための決定があります。第4版地球規模生物多様性概況(GBO4)は、取組みが進んでいるが、不十分で、もっと多くのことを進めなければ行けないというのがキーメッセージ。政府に強い意志を発揮して欲しいと思うし、それには市民の支えが欠かせません。
海洋についても多くの議題があり、EBSAについて、いくつかの国が前進に慎重でありそこも乗り越えていきたい。資源動員については、ここで最後の資源動員の目標を設定するかという点について、資源動員にあたっての保障措置についても合意して欲しい。また、“国内の資源動員目標設定”についてもぜひまとめて欲しい。合成生物学も非常に難しい交渉であるが、現実の進捗は早く、ぜひ、何らかの合意を行い、何らかの規制的措置についての議論が必要だと考えている。カルタヘナ議定書でカバーできる要素もあるが、全部ではないというふうに自分は理解している。
ILCのよるあらたな呼称(Indigenous People and Local Communities :IPLC)について、変えたいと思うが、いくつかの国がその表現変更について慎重のようで、それについても理解を共に高めていって政府と協働して、良い結論を得たい。
生物多様性と開発アジェンダについても重要でハイレベル会合での良い成果を上げていきたい。ハイレベル会合に、より多くの政府の大臣クラスがあつまり、韓国政府が期待している江原道(カンウォンド)宣言がまとまり、SDGsに提案をしていきたい。韓国政府や各省庁で準備しているCBDの支援策、バイオブリッジ事業という途上国のキャパビルの事業や、森林復元のイニシアティブ、海洋省による持続可能な海洋イニシアティブ(SOI)についての提案や、経済産業省は、バイオセイフティーに関するイニシアティブなどのような動きに期待している」と言った趣旨の発言がありました。
*私の感覚的には、比較的NGOとポジションが近いように思います。合成生物学についても、モラトリアムほどではないにしても、何らかの規制的措置も含めて検討するべきではないかということのようです(もちろん、交渉は政府が行うものなので、事務局の意見が反映される訳ではないのですが)
Q COPとBS-MOP,NP-MOPを同時開催でやることについて懸念を感じている。参加者が沢山出せないNGOはどうすればいいか。どのように市民参加が確保されうるか?
A 「この議題について、カルタヘナ議定書会合でも議論。賛成意見も反対意見もあったが、気候変動枠組条約や化学物質系条約の経験も参考に、検討していきたい。実施に関する補助機関会合のアイディアも歓迎している。カルタヘナ議定書会合が、CBDと離れすぎているという意見がありそれは確かに解決するべきと思います」
NGOだけでも、COP13以降のCOPの開かれ方について議論がありました。2016年の次回から、CBD-COP13とカルタヘナ議定書会合(BS-MOP8)と、名古屋議定書会合(NP-MOP2)を同時に2週間の中で行うこと。条約の実施とレビューに関する作業部会(WGRI)を、条約の実施に関する補助機関(SBI)に変更するということが検討されています。
いくつもの会合が同時に開かれたときにどのようにNGOが対応できるか?毎年開催しているSBSTTAがどうなるか?作業部会から補助機関に変わることで条約の実施を検討する会議の性格がどのように変わるか?と課題の共有を行いました。
フィリピンからは、MOPの政府団はNGOからすると非常に問題のある政府団(政府のポジション)何だけれど、COPの政府団は非常にNGOと協働してくれるポジション。これが一緒に2週間活動するというのが想像できないのでそういう問題も考えた方が良いという話で各国でも相当な準備の仕方の変更が迫られそうです。
<主要決議についての意見出し>
前日も行ったため重複する部分もありますが、韓国以外からの参加者も増えてきたので、重要な点は再び確認を行い、組み入れるべきメッセージなどについて話し合いました。
ピョンチャンロードマップについて
愛知ターゲットの進展について十分な状況ではない。GBO4は、国レベルの非常に大きな視点から評価で、共同体や女性、先住民と言った草の根の視点からの評価が行われていない。強力な実施を進めるためのアイディアとしてマイルストーンを定めた、ピョンチャンロードマップがでてきた。最も重要なアクションをピックアップするという方向で議論が動いているように見えるが、NGOや地域協働体からの視点がかけていると思っている。
持続可能な開発目標について
背景と主張を共有。
2000年にミレニアム開発目標を国連で採択。国連の傘にかかるすべての組織がこの目標達成に取り組むようにという大きな目標で、2015年を目標年にしていた。
RIO+20(2012)において、持続可能な開発目標を作ることが決定し、ミレニアム開発目標の後継に関する議論と合流して、持続可能な開発目標を含む開発アジェンダについて議論がなされ、現状のドラフトには、海に関する目標と生物多様性に関する目標が含まれている。ただし、持続可能な開発目標の達成をはかる指標については、生物多様性条約コミュニティー側からも注視と、技術的な助言が必要だと思う。
しかし、共同体の視点も、生物多様性の視点もまだまだ不十分と考えている。企業についての参画推進はある意味で正しい方向であるが、気をつけないと、生物多様性オフセットなどにも道を開くのでは貧困撲滅のためのアクションプランは、ピョンチャンロードマップに言及されるべき重要な成果物という位置づけにしていきたい。持続可能な開発目標のなかの自然災害のリスク緩和について生態系ベースという視点が入っていないことの懸念をUNDB市民ネットの今井さんが共有しました。
資源動員について
論点を非常にシンプルに解説。どこからお金をもってくるか(革新的資金メカニズム)、どれだけの資金の拡大が必要か(今回でファイナルターゲットの設定をするかどうか、それとも議論を続けるか)、お金の使い方(safe guardの確保)
外来種について
この2年間、水生、陸生観賞用の生き物や生き餌の議論に集中。貿易に関する議論も必要。愛知ターゲット9でも明確な目標が立てられているが、同その目標を実現するかが重要。別の視点からの外来種の関係で問題なのは、合成生物学などの成果が野外に放出されることで、それも外来種の問題とも言えるため、NGOとして注目するべき。また、広い意味でペットによる外来種の問題が多く、予防原則の視点で貿易を考えることが重要。
気候変動と生物多様性について
気候変動の生物多様性への影響について議論してきたが、生物多様性が農業や健全な生態系サービスに果たす役割について十分な注意を引けていない。現状のドラフトでは、REDDに関する課題が出ており、そこにブラケットが掛かっている。気候変動条約は、炭素排出ばかりを集中して議論する傾向にあり、生物多様性も構成要素としての野生生物についても無視しがちにあるので、生物多様性条約から適正なメッセージを出すことが重要。
そういう、CBDと気候変動条約との関係や関心事項の違いを気にする必要がある。REDDを採用したときに、配慮すべき事項(safe guard)についても地域共同体からの視点を入れておく必要が大事。REDDのセーフガードについては、自発的(ボランタリー)の性格が強く、森林破壊に掛かるプレッシャーの方が多い中で、この二つがちゃんとバランスをとるように働きかけるのが重要。
ブラジルやアルゼンチンは、生物多様性条約ではなく、気候変動枠組み条約で、気候変動関連の議論をしたいという考えで、炭素排出ばかり注目しがちな気候変動枠組条約では、それは非常に危険なのではないかというのがNGOの主張。
海洋の議論について
海洋酸性化は、非常に重要な問題で、貝類などの生物の成育障害につながるだろうし、それは、海だけでなく、陸の生態系にとっても大きな影響がある。WWFの意見では、海洋酸性化についての緊急性を認識し、サンゴ礁へのプレッシャーをなくすほか、海洋保護区・海洋空間計画(Marine spatial planning)の推進を求めていきたい。
海洋については、海洋施肥などの地球工学についてモラトリアム(暫定停止)を合意したが、ロンドン条約(海洋投棄に関する条約)において、海野地球工学につながるような研究を行うという方向性を開いているという問題が存在。
WWFのLiving planet repotによると、野生生物の個体数は、この40年で40%以下になってしまったが、保護地域のなかでは80%の減少に抑えられた(残念ながら減少傾向であるけど)。先住民や地域共同体による保護地域も今後進展させる必要性のある取組みといえる。
EBSAの特定作業の重要性とともに、管理手法の模索にCBDとして踏み込んでいくべきという主張。海中騒音については、十分な科学的情報(騒音が及ぼす野生生物への影響)があるので、この問題にどう取り組むかという対策の議論をするべき
合成生物学について
この問題は、新規の緊急課題として扱われるべき。なんらかの規制的措置が必要。CBD事務局のレポートは非常に良くできているが、企業からのプレッシャーは大きいことから、注意が必要。合成生物学に、デファクト・モラトリアム(議論がつきるまで、利活用の停止という方向性)が必要では。いくつかの国は、合成生物学についての決定を先伸ばしにするだろうけど、それはしてはいけないと思う
合成生物学の定義は、まだ固まっていないけれど、それを「対策を遅らす理由」にさせてはいけない。ノルウェーなど、作業部会を設けることに慎重な国がある。公開で議論して、専門家会合を開催すべき。
政府の立場で、NGOの意見に近いところと、ネガティブなところの分析も共有されました。残念ながら日本はネガティブな国という評価。この問題で、日本が強い意見を持っているかどうかよくわかっていないのですが、SBSTTAでは結論先延ばしと聞こえるような発言をしたので、そういう評価なのかも知れません。
伝統的知識の尊重(8(j)項)について
カナダやフランス(とその影響を受けるアフリカのいくつかの国)が、indigenous people and local communityという新しい用語の使用について躊躇している
ジェンダーメインストリーミングについて
ジェンダーアクションプラン改訂版の採択という提案がでており、これが通れば、条約事務局にジェンダー担当者を雇用することにもなる。
ジェンダーメインストリーミングはこれから重要な視点。なぜなら今の課題はジェンダーという言葉自体が、100ページを超す今回の決議案に3回しかその言葉が出てこない。先のSBSTTAから、ジェンダーコーカス(集まり)を開いて、ジェンダーメインストリーミングに関する意見を出していきたい。
ECOについて
最後に詳しい話し合いを行いました。これは、NGOから政府に向けての提言や立場を表明するもの。実際行われている交渉に影響を与えるのが目的のツールなので、具体的なメッセージの方が望ましい。交渉は非常に複雑に変わっていくので、ECOの内容もどんどん変わっていく。週前半はファーストリーディングに合わせて考え方や視点を提供するものが多いけど、後半は交渉に関わっていくので、具体的な文言について集中していく傾向がある。長い文章よりは、短い文章で、読んでもらうことを重要視している。写真とかイラストなども使っていきたい。書きたい記事があるとか、そういうものも早めに教えてもらえると嬉しい。エディットチームへの参加も大歓迎。
ECOについて、文章の多様性も大事。沢山の視点から意見と参加が欲しい。多様な地域、多様な背景を持つ人たちからの記事を載せていきたい。記事の投稿は、ここにいる必要もなく、自国の同僚に記事を依頼してもかまわないです。
その他のキャンペーンとしてドードー賞についての説明がありました。CBDアライアンスのキャンペーンの一つ。CBDで良くない振る舞い(ドードーのように、種の絶滅につながる行為、発言)をする国に与えるもの。候補国のノミネーションの方法等を話し合いました。
ETCグループを中心に何団体かが協働で、キャプテンフック・キャンペーンを行うそうです。
キャプテンフックは、マレーシアクアラルンプールのCOP7から始まったキャンペーンで、バイオパイラシー(遺伝資源の利用に関して、CBDの規定を無視して利用する”海賊行為”)を指摘する取組みで、キャプテンフックが現れて、遺伝資源の海賊行為をした同僚(という設定)の国や企業を誉め称えるというもの。メディア用にコリドーを歩き回り、また、良い取組みをしている国にはティンカーベルもやってきます。ちなみに キャプテンフック2.0 とバージョンアップ予定。
今日は、10月14日の国連生物多様性の日のイベントについて打ち合わせるため何人かの条約事務局の方と話したのですが、日本人の多さにすごい驚いていました。よくやったねと。と声をかけられることも。生物多様性条約も長く会合を重ねていると、「いつもと同じメンツ」だけになりがちで、新しい視点や新たな取組みを入れることの大切さを知っているから、そういう発言になるのだと思います。なお、沢山の日本人がくるよう声をかけたのはIUCN-Jの成果ではなく、国連生物多様性の10年市民ネットワークの成果です。
とはいえ、初めての方にはすぐには取っ付きにくい会議ですので、このブログが少しでも、条約の理解を助けるということに貢献できればと思います。
(公財)日本自然保護協会 道家哲平