COP12の初心者向けガイダンスの内容

NGOキャパシティービルディングの様子

10月3日の夜中に韓国江原道ピョンチャンに到着し、4日から早速行動開始です。

今日は、CBDアライアンスによる初めてCOPに参加する人向けのガイダンスに参加しました。私は今回がCOP9から数えて4回目なので、参加者というよりはむしろCBDアライアンスの解説を適宜フォローするベテラン側?での参加です。どんなことが「初めての方向け」にはなされたか下記にまとめます。このレポートでも様々な略語や、会議名がでてくるので、ぜひご覧ください。

 

<CBDアライアンス>

CBD Alliance(CBDアライアンス)の紹介です。CBDアライアンスは、NGOのグループで、2002年のCOP6(オランダ、ハーグ)で設立に向けた議論がなされ、正式には2004年に設立されました。生物多様性条約にたいするNGOの参加を促進するために作られたオープンで、透明性の高いネットワークで、生物多様性条約事務局とのNGOのカウンターパートになっています。運営委員は地域毎にいるものの、互いに学び合いながら取組みを進めている組織です。

COP準備としては、1.COPの準備会合や、COPの前に、初めての方向けのキャパビルセッションの開催、2.NGOとして注目すべき議題は何か、どのように政策提言を協力し合うかを話し合う戦略会合の開催をしています。COP期間中には、3.毎朝の戦略会合と呼ばれる政策提言の調整をするための会合の実施。4.ECOとよばれるニュースレターの発行等を通じて、市民の声を政府に届ける活動を実施しています。

関連リンク

CBDアライアンスのサイト

http://www.cbdalliance.org/en/index.php/en/

ECOへのリンク

http://www.cbdalliance.org/en/index.php/en/our-work/ecos

NGOが重視する論点(COP12のブリーフィングノート)

http://www.cbdalliance.org/en/index.php/en/our-work/breifing-notes-and-reports/briefing-notes-cop-12

 

<生物多様性条約とNGOの関わりについて>

次は生物多様性条約(Convention on Biological Diversity : CBD)についてです。1992年に採択、署名が開始され、1993年12月に発効。現在、条約加盟国数は、194カ国となるも、未だアメリカとバチカン市国が入っていない。参加者によって、生物多様性条約の何に関心をもつか、どのように生物多様性条約において行動するのが良いのかは変わってくる条約です。

生物多様性条約の領域は幅広く、関係する行政機関も多彩です。条約の3つの目的の一つである、生物多様性保全に関する議論は、おもに、環境省が関係し、2つ目の目的である持続可能な利用などは、農業、経済に関する省庁が関係します。そして3つ目は、環境正義の領域ともいえる遺伝資源から得られる利益の公正衡平な配分=名古屋議定書に関するもので、これは研究や、経済産業や特許・知的財産権を扱う省庁が関係してきます。

NGOの関わりについて、特に政策提言について一言で言うと、政府に市民の声を伝える事が大事で、そのために、その声を受け取ってくれる人を探すことが大事で、そのために、政府にもそれぞれの役割と使命があることを理解し、政府の立場への敬意を示しつつ、その中でより良い解決策を見つける方向に持っていくことが重要になります。

多くの文書がでているが、議題の解説やタイムテーブル、それから議決案(ドラフト)は必読文書で、いつ、どこで、何が話されるのかをしっかり把握して望むことが重要となります。

生物多様性条約においては、締約国会議(COP)が最高決定機関となりますが、COPとCOPの間に各地域から2名選出される運営組織(ビューロ)や、条約事務局もその実施に深く関わる組織です。また、常設機関として科学委員会(SBSTTAサブスタ)が、通常COPと次のCOPの間で2回開催されています。COPの決定・成果を踏まえて、実施とレビューに関する作業部会や、伝統的知識に関する作業部会などができることもあり、上記二つの作業部会はほぼ常設といっても良いほど必ず作られる作業部会です。

関連リンク

生物多様性条約のウェブサイト

http://www.cbd.int/

COP12のサイト

http://www.cbd.int/cop2014/

COP12ホスト国のサイト

http://cbdcop12.kr/eng/

 

<COPの運営について>

締約国会議は本会議(Plenary)が意思決定の会合ですが、その下に、テーマ別課題と横断的課題に分けて議論するための作業部会(Working Group)が設立されます。本会議は、議題の決定や議長の交代(COP初日のセレモニーの一つ)、議事記録(ラポーター)の選出、ビューロの選出、作業部会の設置と作業部会の議長(共同議長と呼ばれる)などの運営面についてを決定するほか、最後に議決(決議の採択)を行う機能があります。作業部会は、議題について194カ国の合意文書をまとめあげ、本会議に報告するのが役割です。

作業部会では、各議題について、まず意見表明(first reading)が行われます。各国から様々な意見が提出されますが、意見表明なので特に対立もなく話しているように聞こえるのに注意が必要です。また大事な点ですが、この機会にNGOも意見を言えます。ただし、極力提案に対して、政府の支持を得ておくことが重要です。

会議では話す順番が決まっており、加盟国、非加盟国、国際機関(IGO、政府間機関)、オブザーバーという順番となっています。

政府の発言だけが反映されることになっており、オブザーバーの発言は、政府による「その意見を支持する」という支持表明がなければ反映されないことに注意。協力してくれる政府を探すことが本当に大事になってきます。

作業部会おける発言は議長がまとめるテキスト(CRP: Conference Room Paper)に集約されますが、合意できない箇所は、[ ]スクウェアブラケットで囲まれるようになっており、この部分に注目すると何が政府間で対立点となっているかが分かるようになっています。最終文書(L Limited circulationの頭文字。交渉でまとめた文書であっても、法的観点からの確認や、文法や翻訳のチェック等があるので回覧制限という性格を示す)では、このスクウェアブラケットを外したクリーンテキストが準備されます。

作業部会においても、交渉すべき箇所が多く、まとめ上げるのが難しく時間がかかりそうな場合、作業部会の共同議長は、COPビューロ(運営委員会)と協議の上、コンタクトグループというのを作る権限を持っています。コンタクトグループは、10時から13時、15時から18時の作業部会の時間外である、お昼や、夜に行われる会合です。コンタクトグループには通訳がつきません。これらの諸会議は、生物多様性条約においては基本公開で行われ、必要なときだけクローズ(政府のみ)の会合となります。

コンタクトグループよりも、小さいグループとして、フレンズオブチェアーという会合があり、少数の国による意見の対立があった場合に設けられ、これも基本的には公開で行われます。コンタクトグループやフレンズオブチェアーの成果はnon-paperという文書として扱われ、作業部会をへて、CRP文書→L文書→本会議に送られ採択されるという流れです。

NGOにとっては、コンタクトグループは同時進行で動くことがあるので、分担して、関心のあることについての優先度を付けて会合に望むことが重要です。

関連リンク

にじゅうまるの国際会議レポート以前解説した記事があるのでご参照ください。

http://bd20.jp/?p=2058

会議に使用される文書の置き場

http://www.cbd.int/cop12/doc/ 

議題の解説

http://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-12/official/cop-12-01-add1-rev1-en.pdf

決議案

http://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-12/official/cop-12-01-add2-rev1-en.pdf

 

<生物多様性条約と他の環境条約との関係について>

生物多様性条約と多国間環境条約やポスト2015開発アジェンダとの関係についても紹介がありました。

他国環境条約(Multilateral Environmental Agreement: MEA)は500近くあると言われ、実行されているものも、そうでないものも、資金不足で動いていないものも、忘れ去られているものもあります。

海洋沿岸と生物多様性を例にして言うと、生物多様性条約でも扱っていますが、国連海洋法条約もあるし、廃棄に関するロンドン条約や、国連での国境を越えた海域についての特別部会など沢山あります。

気候変動であれば、気候変動枠組条約UNFCCCがあり、そのため他の条約でも関心を持っていることが重要です。生物多様性条約(CBD)で良い方向で進んでいても、他の条約で誤った方向に進んでいれば、意味がありませんので。

他の例をあげると、農業と生物多様性に関しては、FAOという機関や、植物遺伝資源保護条約や、委員会など環境条約と呼ばれない仕組みも生物多様性に関係している。生物多様性と健康に関する取組みでは、WHOとワン・ヘルスアプローチという取組みがあったりします。

生物多様性は、国連レベルの開発アジェンダ(貧困撲滅や識字率の向上、きれいな水へのアクセスなど)とも深く関わっています。ポスト2015開発アジェンダでは、ミレニアム開発目標の次のフェーズとして「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)等」を議論しており、そこにも、海洋沿岸と生物多様性に関する二つの目標が入っているところです。

主要環境条約の情報を集約したINFORMEA

http://www.informea.org/ 

 

<CBDの現状について>

色々な決定を行う生物多様性条約ですが、実施を重視したいという事務局の意向と反して、なかなか交渉が進まないという事が往々にあります。バイオ燃料については、まだ「バイオ燃料とは何かという定義」を議論していますし、外来種は侵入ルートについてやっとまとまってきたところです。

愛知ターゲットについてどこまで進展し、どんな取組みを今後進めていくかを議論していく必要があり、ピョンチャンロードマップと呼ばれる、マイルストーンをどうまとめるかは、韓国のリーダーシップとしても重要なテーマです。

資源動員については、多くの国が実施のための資源を様々なところに求めており、生物多様性オフセットや生態系支払いを国際的なレベルで進めるという動きがあります。ただし、これについては、「こちらで壊しても、向こうで直すのでチャラ」という議論に陥る可能性がありNGOとして注視が必要という指摘がありました。

合成生物学、生物多様性と気候変動、資源動員などがNGOとしても関心の高い領域です。

また、企業は最近目立つ存在になっており、企業がどんな立場で取り組んでいるかを見ることが重要で、生物多様性保全への参加も期待されるところです。他方で、資源動員への協力のなかで、生物多様性オフセットを強く推進しようというグループもあり、生物多様性の回復事業を言い訳に、生物多様性の損失につながるような取組みが進むことのないように、そういう点には注目しなければならないという問題提起がありました。ビジネスの動きはCOPや名古屋議定書会合と同時並行に行われるので、手分けして注目する必要があり、韓国の企業もこの分野でネットワークが作られたので、韓国のNGOも自分たちの社会の企業の動きに注目をして欲しいという説明です。

 

<どのように政策提言をするか>

一番は意見表明(first reading)に参加することが大事です。議題に関する各国の意見・立場をじっくり聞くと、どの政府がどの課題にどのような立場を取っているかというのが分かり、何か意見を反映させたいNGOとして次にどういう行動をとるかが分かるようになります。

「どの国が、どういう発言をしたかというのを細かく記録をすることが大事」。これが政策提言の基本です。

良い発言、良いアプローチを採る国が見つければ、そういう自分たちの立場に近い政府に声をかけることができるようになります。(会議期間中に話すのはあまり良くなく、会議の合間に近づくのが良い)。誰が話しているかを知り、面と向かって対話するのが大事。そして、自分たちの関心や政府の発言について会話し、建設的な関係を作り上げるのが肝要です。

決議文書に集中することがとても大事で、一般的なコメントよりもより具体的な文言のレベルで取り組むことが望まれます。本来は、SBSTTAという科学委員会・準備会に近い会合にも参加することも重要です。

意見表明(ファーストリーディング)で、良い発言も「悪い発言」も条約事務局で集約される。また大事なことはこの機会でも、3分以内と言われるが、NGOが発言できること。ただし、発言は賢く考えて行う必要がある。そして再度強調するが、発言に対して、支援してくれる政府を探すこと、政府からの支援を受けることが重要。そうしないと発言が反映されないことも多い。第1週目の各議題への意見表明を注意深く聞くことが大事。

交渉官の立場になって考えると、NGOからのコンタクトを歓迎するときは、NGOが議題について詳しく知っていることが大事。議題についての主要な論点、確認しておくべき事項、良い解決策についてNGOが提案できることが大事(政府機関の人は、十分な準備をしていると思われがちだが、初めて参加する人も多いので、NGOがアドバンテージをとることは十分に可能)。

文書の段階でNGOの果たす役割も異なります。意見表明や、non-paper段階で色々意見を言えても、CRP文書の交渉や、対立事項[ ]で囲まれた部分をどう扱うかなどの段階はNGOの関与が難しいです。

交渉官の現実の状況を抑えていく必要があります。特に途上国の交渉官は、忙しくて十分な資料の読み込みができていないこともあるし、いくつもの議題を一人でフォローしなければならないときにはNGOが様々な視点を与えると、意見の支持への効果が高いという具体的なヒントもでました。

市民社会の役割と政府の役割との違いを認識している必要がある。政府代表団には企業から派遣された人が入っていたり、政府が委託して政府団に入れている人がいるので、政府でもどういう立場の人か気にした方が良いという助言もありました。

 

<主要議題の共有>

もちろん人によって大事な議題は異なるのですが、一般的なCOP12の主要議題は下記の通りです。

 

愛知ターゲットの現状について解説している様子(撮影:食農市民ネット/BIB 原野好正)

愛知ターゲットについてはGBO4でまとめられた成果を踏まえ、次にどういう行動を採ることが大事か、そのための支援措置は何が必要か、GBO4で評価しきれていない部分(愛知ターゲットの指標が一部まとまっていないなど)をどう改善していくかなどが検討事項です。

資源動員については、現在2015年までに途上国への資金の流れを2倍にするという目標があるが、2020年までにどこまで増加させるかというファイナルターゲットについてなどが合意できていない([ ]書きされている)ことなどが紹介されました。私の方から、補助金に関するマイルストーン・手続がannexに具体的に定まっており、それを採択するという文書になっているが、弱めようという動きも予想されるからNGOとしては注意が必要ということを補足しました。

合成生物学(Sythethic Biology)は、遺伝子組み換えの問題に加え、既存の生き物の”組み替え”にとどまらない、新たに自然界にないものを作る技術であること、地球工学のような使い方もあって、封じ込め環境だけでない利用も検討されており、CBDが作ってきた基準や指針で想定しないものがあるかもしれないという点。それに加え、合成生物学については、生物多様性条約の新規の緊急課題として扱うべきかどうかという「手続き」的な問題もあり難しい問題です。合成生物学については、研究にとどまらず商業化も進んでおり、対処を始めるべき重要な課題というのがNGOの認識でした。もう一つの論点としては、合成生物学の取組みに、同予防原則を適用させるかという議論。遺伝子組み替え技術の事例から学び、リリース外部環境に放出される(意図的、非意図的問わず)などの問題があり、NGOとしては議論がまとまるまではモラトリアム(暫定停止)を求めていきたいということです。

海については、EBSAと海中騒音、海洋酸性化とサンゴ礁に関するアクションプラン、海上漂流物などが議論予定。フィリンピンでは海洋への富栄養化などの問題についても提起したいという意見がでました。

最後(名古屋議定書は来週日曜日にセッションを予定)は、生物多様性条約の運営の新しい枠組みが最後の議題。決定機関のCOPと、議定書会合(MOP)を全部一緒に2週間で議論する形にする案となっています。気候変動枠組条約が、今回の案のような複数の会議を同時並行で行っているのですが、2年に1度しか集まらない生物多様性条約は扱う議題が多く、途上国やNGOなど参加者が限りがある中で複数の部屋に分かれて交渉が行われるとフォローアップがいっそう難しくなるのではないかという懸念があり、みんなで議論する必要がある大事な話題です。

(公財)日本自然保護協会 道家哲平