SBSTTA19の個人的総括

次回SBSTTA20は新緑のモントリオールで!

次回SBSTTA20は新緑のモントリオールで!

*本意見は、いかなる団体の意見を代表するものではなく、報告者個人の責任で執筆しています。

2015年11月2日から5日にかけて開催された生物多様性条約第19回科学技術助言補助機関会合は8つの決定を採択して無事に(?)に終了しました。帰国後少したちましたが、今回の会合の成果を振り返りたいと思います。

そんなに重要ではなかった?SBSTTA19

2015年という中間年を迎え、進展はあるが不十分という評価が地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)によって示されたCOP12からCOP13につながる最初の大きな準備会合でした。しかし、率直にいって際立った成果があったとは言いがたい内容です。前の記事で決定事項を簡単にまとめましたが、どれも出遅れている愛知ターゲット達成に向けて大きな前身と予感させるものはありません。閉会のときにも、「(今回はアレですが)次回のSBSTTAは大きな課題を扱うので良く準備する必要がある」などと発言する国もありました。

COP13の最大のテーマは主流化!

グッドニュースは、COP11→COP12(韓国)の時の韓国政府よりも、メキシコ政府のリーダーシップを感じられたことです。そういえばピョンチャンロードマップという言葉は一回も聞かなかったし、サイドイベントはやっていたようだけれど交渉におけるCOP議長国の韓国のプレゼンスがほとんどありませんでした。メキシコは、生物多様性の主流化をキーワードに据えてCOP13を牽引したいという意向で、環境関連大臣以外にも農林水産業や観光に関する大臣等も呼ぶハイレベルセグメントを計画中です。第1次産業は、生物多様性からの恩恵によって維持され、しかしその損失にも大きく関わる分野です。生物多様性の損失に正面から取り組むということへの期待は高かったです。
課題もあります。本当はこのSBSTTAで農業、漁業、林業に取り組むはずだったのですが、議題にはほとんど取り上げられず、期間中NGOからその懸念を生物多様性条約事務局長に伝えたところ、次回で再度扱うつもりだという返事をとりつけたところでした。そして、環境大臣以外も招聘するというハイレベルセグメントは、その開催時期が、通常の「COP2週目の最後の3日間」からCOPが始まる直前へと変更されるという情報です。これについてもNGOとして懸念が共有されました。ハイレベルセグメントはこれまで最後に行うことにより、暗礁に乗り上げた交渉を政治の力で妥結する、COPへの政治的意思を表明するという役割を担ってきました。これをCOPの前に行うことで、難しい交渉が終盤できない→目標達成のための踏み込んだ内容は議論しないということにならないだろうかという意見が聞かれました。もとよりCOP13は、同時にカルタヘナ議定書と名古屋議定書の会合を2週間のなかで収めながら議論しなければならないという初の試みで混乱する気配があるなかで、ハイレベルセグメントまで過去と異なるということへの不安は大きかったです。

実施、重複のない連携 議論なくして社会なし

会議中のNGO会合での意見交換では、政府の監視役としても、当たり前のように言われていることも疑って見つめようという意見交換がありました。私が印象深かった3つのキーワードを紹介します。

実施・・・ブラウリオ事務局長が重視する実施(Implementation)というキーワードは、議論に終始して実現しない、大量の決定事項だけ生み出して実現しないという状況を避けようということで、大勢が賛同するところです。
しかし、過去5日間(=3時間の公式セッションx10回)で開催されていたSBSTTAが、4日間(3時間x8回)になり、そのうち2セッションは8(J)作業部会が使用したため、実質3時間x6の18時間で、協議の時間が半分となりました。議論の時間がない=どう実現するかという真剣な話し合いの時間が取れない=実施のハードルを下げて決定がなされるという方向に動いている雰囲気を感じました。

重複のない連携・・・「重複(Duplication)を避けて」というのは、良く聞かれる発言です。一見妥当な発言のように聞こえます。しかし、よくよく考えれば科学の世界は重複してこそピアレビューの質が高まるので、重複=良くないというのはとても行政的な発想です。実際、WHOで実施しているので重複を避けてCBDでは取り扱わない、IPCCが議論しているから重複を避けてCBDでは行わないというのを積み重ねてしまうと、エコシステムアプローチという大事で、他にない視点を持っているCBDの存在意義がなくなっていきます。
気候変動の課題に、気候変動枠組み条約と生物多様性条約という二つの、思想・アプローチの異なる条約・条約のコミュニティーが取り組み、連携することでバランスの取れた取り組みが進むはずなのに、SBSTTAの議論が「科学者ではなく、行政的な視点で動いているのでは」という場面が多々ありました。

議論なくして社会なし・・・これは欧州のNGOらしい指摘だなと思います。今回は本会議の下に作業部会(Working Group)が設けられることもないため、従来のSBSTTAの半分も議論の時間を作っていません。そして議論のうち、どのように実施するかは新たに創設されたSubsidiary Body on Implementation(SBI)で検討するように議題や論点が振られていたので、半分でも間に合いました。
生物多様性条約事務局・締約国のSBSTTA改革の試行錯誤の結果の一つで、この動きをよいと思っている政府はいないのかもしれませんが、NGOの中では、この傾向を余り良く思っていない意見が多数です。(私も同意見です)。政治的にも難しい課題があることで、真剣に取り組む人が集まり、意見を戦わせ、妥結点を見出す。そのプロセスが、合意への当事者意識を高めることに大いにプラスに働きます。CBDのプロセスに関わる人を増やすことにもなるでしょう。
愛知ターゲットが実現の難しい目標であるなら、その応援団を増やすためにも、政治的に難しい話題に正面からぶつかって、議論を起こして、当事者を増やすということが必要だということを感じました。

今回、多くの課題が、次回SBSTTAやSBIに持ち越されるような形になってしまったように思います。しかし、主流化というとても重要なある意味核心的な課題について扱っていくことがメキシコ政府が提案しているので、にじゅうまるプロジェクトとのネットワークを活用して、日本の民間部門をこの流れにしっかり巻き込んでいくことが課題であると痛感した今回のSBSTTA19でした。

(公財)日本自然保護協会国際担当/IUCN-J事務局長 道家哲平