SBSTTA2日目(4.1生物多様性と健康、4.2地球工学)

小学生?も含めたユースの発言に驚き振り返る大人

小学生?も含めたユースの発言に驚き振り返る大人

SBSTTA19の二日目に議論されたテーマを紹介します。他に森林とIPBESについて話されていたのですが、ブラウリオ事務局長との会合などがあり、十分に聞くことができませんでしたので、成果文書をベースに後ほど紹介したいと思います。

議題4.1 生物多様性と健康(Health)

このテーマは、COP10から議論が始まり、その成果として、生物多様性条約と世界健康機関(WHO: World Health Organization)とで「生物多様性と健康に関する知見(Biodiversity and Human Health State of Knowledge)」が発表されました。(本会議の資料はこちらから

かなりしっかり書かれたこの報告書は読むのが大変で、主要成果(サマリー)ですら、77段落からなる文章となっています。しかし、非常に分かりやすく生物多様性と健康について整理されまとめられています。この場合の健康は、病気がないというだけでなく、肉体的な健康、精神的な健康、そして、社会的に良く生きるということも含めた概念です(WHOで定義されている考え方)。
時間のない方は、サマリーのさらに太字部分を読むだけでもその関係の深さが十分理解できます。さらに、サマリーにでてくるタイトルを列記することで、生物多様性と健康の関わりの深さを知ってもらえるのではないかと思って仮訳しますと、

「水と空気の健康」「生物多様性、食料生産、栄養」「微生物多様性と非感性性疾患」「医薬品:医薬品を開発するための生物多様性の貢献」「伝統的薬」「生物多様性と精神的、肉体的、文化的健全さ」「医薬品生産が及ぼす生物多様性への影響と健康への影響」「気候変動や自然災害リスク緩和への地球気候変動への適応」「持続可能な消費と生産」「健康と生物多様性のための戦略」「ツール、手法、今後の研究」「持続可能な開発目標と2030アジェンダ」

となっています。”多岐にわたる”つながりの部分はご理解できるのではないでしょうか。その中でも、「微生物多様性・・」は、人間の体内の中の細菌の多様性(腸内フローラ)の観点での生物多様性と健康についてまとめており、個人的に興味深かったです。

このテーマについては

−生物多様性と健康についてポスト愛知ターゲットでしっかり取り組むこと。(欧州中心の提案)

−保護地域が多くの「健康分野」への良い影響について言及すること(オーストラリアやフィンランド)

−ワンヘルスアプローチ(生態系の健全性(Health)と人々の健康(Health)は一つのもの)という考えたかで取り組む活動)を組み込むためのガイドラインか優良事例を取りまとめること(アフリカ諸国)

−その他に、海洋・淡水生態系の重要性についての強調、先住民や伝統的知識への言及、GEFの支援テーマの一つに提案する

といったアイディアが出されました。

議題4.2 気候変動に関する地球工学(Geo-engneering)

気候変動に対して、地球上の仕組み(生態系、物質循環、その他)を大規模に改変することで対処しようという地球工学についてはCOP10の決議に基づいて取り組みが始まり、2012年にはテクニカルシリーズなどが生物多様性条約から発行されています。今回は、さらに新たな知見も踏まえた形で、この課題にどう対処するかを考えるのがこの議題となります。(本会議の資料はこちらから

テクニカルシリーズ(CBD Technical Series No. 66: Geoengineering in Relation to the Convention on Biological Diversity: Technical and Regulatory Matters)で地球工学の考え方も整理されていますが、その手法として、

1.太陽光反射/遮蔽手法(Sunlight reflection methods (SRM)):成層圏に硫酸塩を散布(火山を人工的に再現)?する技術や、雲を輝かせる?、地表面を白くする?といった技術で温度が上がる、太陽光が地球に届くということそのものに対応しようという技術と、

2.CO2貯蔵やCO2除去技術。海洋施肥(海中の植物プランクトンを大量発生させてCO2を吸収)、成長の早い(=早くCO2を吸収する)遺伝子組み換え樹木、CO2を液状化させて海底にとどめるなどの技術と

3.新たに注目されているものとしてBioenergy with carbon capture and storage (BECCS、ベックスという発音)が扱われています。BECCSはトータルで見て化石燃料のようにCO2の追加的排出がないバイオエナジーを使い、さらにその活用の際に生じるCO2も貯蔵するという技術で負の排出”net negative emissions”と呼ばれる技術のようです。

各国のCO2排出抑制量が、平均気温2度に留めるというシナリオからほど遠く、技術でなんとかしていこうという、趣旨は理解できます。しかし、確実に気候変動が予想されるのに、自然界からその対応能力(=レジリエンス・多様性がもたらす力)を損なってまで、気候変動対策をしようでは本末転倒とも思うのですが、革新的な技術(?)というものには色々な投資が集まるのが現実のようです。

会議では、いずれの技術も技術としての不確実性と、生物多様性の影響がしっかり検証されていないという技術であることから慎重論を求める意見が数多くつきました。ユースからも、テクノフィックスでの解決ではなく、生態系アプローチから排出量を減らすという課題に正面から取り組むべきだという強い意見がだされました。大人がどんちゃん騒ぎして、子どもが後片付けをするということなどあってはいけませんので、至極真っ当な意見でした。

(公財)日本自然保護協会国際担当・IUCN-J事務局長 道家哲平