SBSTTA23の報告会を開催しました

2019年12月11日(水)に中央区立環境情報センターにて、生物多様性条約第15回締約国会議の準備会合であるSBSTTA23の報告会を開催しました。

主催:国際自然保護連合日本委員会

共催:日本自然保護協会、日本国際湿地保全連合、国連生物多様性の10年市民ネットワーク

協力:環境省

当日はNGO、ユース、研究者、行政機関等の多様なセクター35名程度の参加となりました。

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報告会の様子

報告会の概要

まず、環境省・中澤氏より、第1回ポスト2020特別作業部会(1st-OEWG)の概要報告を含めたSBSTTA23の全体概要に関する報告がありました。1月13日に予定されている共同議長からの「ゼロドラフト」の発表を含めた今後のスケジュール等についても、共同議長による1st-OEWGの報告で使用されたパワーポイントをベースに説明がなされました。

次に、国際自然保護連合日本委員会・道家氏、日本国際湿地保全連合・長倉氏、国連生物多様性の10年市民ネットワーク・三石氏/坂田氏からそれぞれの特性や立場から報告が行われました。

道家氏からは、「ポスト2020の視点から」中澤氏の全体概要を補足する位置づけで、論点の整理やIUCNの主張もふまえながら、ポスト2020枠組の交渉に特化した解説が行われ、併せて、これからの交渉のフェーズと予定されている会議のどの時点でどのようなことが話し合われるのかについても図を用いて説明がなされました。また、ポスト2020枠組のポイントについても簡潔にまとめられていました。

長倉氏からは、「生物多様性と気候変動」という観点からの報告が行われ、SBSTTA23内での議論や関連するサイドイベントの紹介が行われました。また、今年の世界湿地の日(2月2日)のテーマが「生物多様性と気候変動」であることから、関連するシンポジウムのご案内もありました。

三石氏からは、「先住民地域共同体」をテーマに報告が行われました。今回のSBSTTA23の前には、8(j)WG(生物多様性条約第 8 条(j)項及び関連する条項に関する作業部会)が開かれており、三石氏も参加されていたため、その約2週間の内容について報告されており、中でも、「ポスト2020の中で先住民として勝ち取りたい権利」について重点的にお話しされていました。なお、大人気映画「アナと雪の女王2」の中でも「先住民の伝統的知識」が重要視されているそうで、そのお話も混ぜながらの報告となっていました。

今話題の映画でも尊重される「先住民の伝統的知識」の記事はこちらから

坂田氏からは、NGOの活動と問題意識という観点から、CBDアライアンス(草の根NGOによるCBDに関する連合組織)の問題意識や中国政府との対話に関する内容を中心に報告がありました。CBDアライアンスは、「権利に基づくアプローチ」を重要視していること、生物多様性の損失に関わる直接的・間接的な要因へ対処すること、技術評価の軽視に対する懸念などを課題意識として強く持っているとのことでした。

各発表後には、質疑応答を行い、以下のようなやりとりが行われました

*●=質疑、〇=応答、として記載しています。

*複数の回答者からの回答も1つにまとめています。

●(中澤氏の報告で)生物多様性の劣化要因は外にある対応が課題とあったが、「外」の意味とは?

○生物多様性とは異なる産業のこと。いわゆる環境を所管しているところの外の要因に向き合うべき。生物多様性条約はいろいろな条約の傘になる条約だから、1条約の目標に留まらない。他の条約にも影響を及ぼすものとの認識が、生物多様性条約の参加者に広がっている。

●報告を聞いていて、特定の国による意見が顕著であるように感じたが実際どうだったのか。

○ブラジルの発言が目立っていた。中でも、既存の取り組みやトランスフォーマティブな仕方で生物多様性の損失に対処する、という文書に納得できない、という発言を会議の本当に最終段階でしていた。

●気候変動に関しての質問。世界的に異常気象が起っているが、防災対策のためのダム・防波堤に関する議論はあったのか。

○Nature based Solutions(NbS)の定義付けがされていない(IUCNでは定義付けがなされているがCBDではしていない)ので怖いという意見がブラジルやアルゼンチンからあった。トレードオフが起こる危険性(気候変動対策と銘打った自然活用手法(外来樹の緑化で、CO2固定)も丁寧に考えていくべき。

●生物多様性に関して、環境省は当然重視する姿勢があるが、農水省は二の次、という風に感じている。他省庁に生物多様性の取り組みの価値を認識してもらうことが大事だと思うが、環境省はどのように思っているか。

○農水省にも生物多様性戦略があるため、うまく連携していけたらと思う。世界的な目標に書かれたことは国内でも実施していければと思う。計測の部分については、いろいろな人から様々なアイディアを出してもらうことも大切かも知れない。

●第1回ポスト2020特別作業部会の際には、現在条約の3つの目的が「保全」に偏っているため、ポスト2020では3つの目的についてバランスをとっていこうという話だったが、今回は「持続可能な利用」と「ABS」について何か話が進んでいたか。

○具体的な議論はあまり見られず、進んでいないような印象を受けた。共同議長の示したフレームワークには残っている。アフリカは持続可能な利用が大事だと述べているが、具体的な文言は出てきていない。IUCNはすでに具体的な文言を出しつつあるが、あくまでオブザーバーなので具体的な要素は出てきていない。

●IUCNのWCCはCBDの会議体のフレームから外れているがどのように位置づけられるか。WCCで議論されたものはどう反映されるか等。

○会員団体によるモーションと、「具体的になにをするか」を話し合う場となる。Howの部分をクリアに世界に見せていくために実施し、COP15の議論を良い方向に導くための総会にしようとしている。

●先住民に関しての質問。小規模家族農業からSATOYAMAイニシアティブまで伝統的な資源の利用がある。資源を持続可能に利用していくための共通プラットフォームのように思えた。

○伝統的な自然保護について、SATOYAMAイニシアティブの考え方は使えるのではないか、という話もあった。加えて、人と自然の関係に対する協働プログラムを作ろう、という話が出ていた。

●「サイエンスベースド」なターゲットを設定しようとのことだが、サイエンスベースドの定義は何なのか?現時点では、IPBESのレポートを見ましょう、レベルだと感じている。COP14以降、何か議論は進んでいるのか。

○IUCNがサイエンスベースドを生物多様性にも入れよう、としている。中身をいま作り込んでいる雰囲気がある。意見出しの要素の中には、サイエンスベースドが残っているので、行動可能な部分がサイエンスベースドになれば、もっと進むように思う。

●世界全体の目標というよりは各国における国内での目標、という話があった。パリ協定のNDCのような方向性を考えている、という意味なのか。

○むしろギャップについて考慮している。NDCのような仕組みはCBDになじまないのではないか、という議論もある。国によって生物多様性による優先順位やアプローチが違うので、その単純な足し引きでやっていくのは難しい。保護地域の%を一律にするのではなく、国ごとに定義しても良いのではないか、という議論もある。評価自体も異なっているため、それらをどのように世界の枠組に合わせていくのか、というのも難しい。

●先住民に関する報告で、自分達の権利を認識してほしい、という意見はあるが、具体的に利益配分として何がほしいのか、いまのところわからない。

○遺伝資源以外の権利もCOP15のあとに勝ち取っていきたいと思っているため、COP15のときに文言として文書に盛り込みたい。そのために締約国にキャンペーンをする。しかし、具体的に何を求めるのか、を言語化できていない感じがある。いろいろな対話を重ねていく必要がある。

●主流化などといっても、周りの人の認識はそうでもない。なんで必要なの?(生物多様性が)ないと何が困るの?とよく言われる。そのような人たちを説得していくための議論をポスト2020の中でしてもらって、説得できるような議論をしていってほしいと思う。「~~だから必要なんだよ」と。(意見に近い発言)

○人に知らせていく必要がある。愛知目標の失敗から学んでいて、目標の要素にも入っている。人目につく(外に出していく)ような広報の仕方をしていかないといけない。コミュニケーションに関する戦略をいまCBDが作っていて、そろそろ出てくる予定。

 

プログラムと当日の発表資料

<概要報告>

●環境省 自然環境局生物多様性戦略推進室・中澤圭一

「SBSTTA23の報告 -ポスト2020GBFの議論を中心に-」(PDF)

<各テーマの注目・解説および各セクターの活動報告>

●国際自然保護連合日本委員会・道家哲平

「SBSTTA23報告 ポスト2020の視点から」(PDF)

●日本国際湿地保全連合・長倉恵美子

「生物多様性条約 SBSTTA23 生物多様性と気候変動について」(PDF)

●国連生物多様性の10年市民ネットワーク・三石朱美

「生物多様性条約SBSTTA23報告~先住民族と地域共同体の動き~」(PDF)

●国連生物多様性の10年市民ネットワーク・坂田昌子

「SBSTTA23報告NGOの活動と問題意識」(PDF)

 

*この報告会は、地球環境基金の助成を受けて開催いたしました。

IUCN-J事務局 矢動丸琴子