民間保護地域という新しい取組みについて
今回のにじゅうまるプロジェクトの役割の一つに、民間保護地域(privately protected area)という動きを追うというものがあります。これも2003年の第5回世界公園会議から動き始めたものです。もうちょっと正確に言うと、民間(NGOなど)が独自に土地を購入して生物多様性を保護しようと言うのは、イギリス発祥のナショナルトラストを始め100年以上前からそういう手法があったのですが、これまで保護地域というと”国が設定する場所”という意識・議論が多くて、もっとこういうボトムアップの取組みを考えていこうという動きが生まれている、というのが正しいです。
国が法律で指定し、守る保護地域というのは何となくイメージがつくと思いますが、民間保護地域というのはどんなものだろうと思われると思います。これは世界も同様です。今回、IUCN-Jも参加したThe Future of Privately Protected Areaというレポートが発表されます(正式には17日(月))。そこでは、17カ国の事例をまとめるほか、民間保護地域の定義と個々の文言の解釈などもまとめました。民間保護地域を巡る主要な論点はほとんど網羅されており(解決策がないものもまだある)、今後、優良実践集(Best Practice Guideline)を作ったり、民間保護地域の専門家ネットワークを作ろうという動きが紹介されました。
新レポートで提唱されている定義によると、民間保護地域とは、「IUCNの定義に合致する保護地域であって、民間のガバナンス(管理)の下にある地域をさす」とし、「民間には、個人や個人が集まったグループ、NGO、営利を目的とした企業や個人土地所有者グループによって保護地域を管理するために設立された企業、営利を目的とした土地所有者、研究機関(大学や、その研究拠点)、あるいは、宗教組織がある」とされています。これだけでも幅広い形の保護地域を含むことが分かります。
今回、いくつもの民間保護地域のセッションに出て分かりましたが、その実情も各国バラバラです。ブラジルには民間保護地域を法律上認めていたり、個人や家族レベルで所有する保護地域の動きが盛んなチリの事例、アメリカに本部を置くThe Nature Conservancyやイギリスで発展しオーストラリアほか世界各地に広がっているNational Trustによるトラスト(土地を購入したり、新しく聞いたところで地役権契約による保全という手法も)があります。ラテンアメリカの国は民間による保護地域の動きが発展しているそうです(聞いたら、政府が頼りないからというNGOらしい回答)。ペルーにも10年以上の歴史があり、174カ所140万haの民間保護地域があるそうです。やフランスはLandlife programという名前での取組みが進んでいます。
これらの地域は、法律による認識(ブラジル)、法律によるインセンティブ(税制措置(地方税の控除、自然保護地役権契約の推進措置、アメリカとオーストラリア、イギリス)がある国もありますが、全く何もなく情熱で動いているチリのような事例もあります。今後の課題として専門家グループで話し合われたのは、
− 各国の生物多様性国家戦略等の中に位置づけられるようにすること
− 民間保護地域を財政的に支援する仕組みの選択肢
− コミュニケーションや巻き込みの戦略
− 各国の民間保護地域の管理の質の向上方法の検討 といったことが話し合われました。
日本の場合は、里やまの保全に力を入れていることになっていますが、陸域の17%を保護区にするという国内目標の指標には、民間保護地域は計算されない(民間保護地域の数を把握していない)形になっています。そこで、にじゅうまるプロジェクトには、2014年11月段階で38の事業が愛知ターゲット11に資するものとして宣言されているので、これを民間保護地域のポテンシャルサイトとして、場合によっては、世界データベースにしっかり登録できるようにしていこうという計画を持っています。そして、そんな動きがあることを、2つのイベントで5分間という短い時間でしたが紹介してきました。
にじゅうまるプロジェクトとしては、市民や企業が現場で取り組んでいることがちゃんと世界的にも「保護地域の取組み」として評価される状態を作ろうという取組みをしています。最終的には、より良く管理されている保護地域リストとしてこの世界公園会議で発表された「IUCN Green List」に日本の市民が管理している民間保護地域を入れていこうという壮大な計画を持っています。似たようなことをしているIUCNイギリス国内委員会では、750近くの民間保護地域を世界データベースに登録することができたそうなので、日本でもできるのではないかと思います。
(公財)日本自然保護協会 道家哲平