【報告レポート】IPBES勉強会を開催しました

2019年7月4日(木)に中央区立環境情報センターにて、「100万種絶滅ってほんと!?IPBESレポートを学ぶ」勉強会を行いました。

主催:国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)
協力:日本自然保護協会

当日の参加者は50名程度であり、NGO職員をはじめ、行政、企業、ユースなど多岐に渡るセクターの参加がありました。

勉強会の概要

本勉強会では、講師に、橋本禅准教授(東京大学大学院) をお招きし、「IPBESとは何か?」という基本的な内容から、「IPBESグローバルアセスメントのキーメッセージ」まで、とても充実した内容について、ご講演をしていただきました。
IMG_7128

勉強会の様子

「IPBESとは何か?」では、まず基本の情報整理から始めていただきました。

IPBESとは、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」の略称で、独立した政府間組織として位置づけられており、国連機関ではないことが説明されました。次に、IPBESに期待されていることの内容、IPBESが「生物多様性版IPCC」とも呼ばれていることから、気候変動枠組条約下のIPCCと生物多様性枠組条約下でのIPBESの評価方法の相違点などについてもご説明がありました。また、IPBESアセスメントの1つの特徴である、「政策形成に有用な知見を提供するが、政策形成には直接関与しない」という評価書を読む際の大事な視点(前提)についてその理由や、それを実現させるための国際会議の様子などもご紹介いただきました。

さらに、CBD事務局が2019年11月に発行を予定しているGBO5(5th Global Biodiversity Outlook)は、IPBESの知見を基に作成されることなどから、生物多様性条約におけるポスト2020枠組の議論においても今回の世界レポートが重要な資料になるとの見解が示されました。

「IPBESグローバルアセスメントのキーメッセージ」では、IPBESグローバルアセスメントレポートの構成が紹介され、時間の都合上、本勉強会では、政策決定者向けの要約である「Summary for Policy Makers(SPM)」のキーメッセージに焦点をあてて説明していただきました。SPMキーメッセージはA:現状・傾向、B:変化要因、C:国際目標の達成見込み、D:国際目標達成に示唆を与える取り組み、の4つから構成されており、それらに沿う形で詳細内容のご説明がありました。

内容を一部抜粋すると、A:現状・傾向では、人為改変が増大傾向にあり、陸域の75%、海域の66%が改変され、湿地の85%が消失していることや、評価した種の25%が絶滅の危機にあること(=100万種が絶滅危機)が具体例として示されました。
B:変化要因では、直接要因と間接要因のどちらもあり、特に間接要因では、私たち人間の価値観や行動様式が影響していることや、人間の活動領域が拡大したことなどが指摘されました。
C:国際目標の達成見込みでは、特にSDGsに焦点を絞って説明がなされ、自然が劣化することで、生態系サービスに代わるNCP(Nature’s Contribution to People=自然がもたらすもの)が享受できなくなり、その結果SDGsを達成することが難しくなる、という見解が示されました。現在のSDGsの達成状況からも、生物多様性の損失は望ましくない、と判断がなされているそうです。また、2015年から2050年までの生物多様性、NCPに関する3つのシナリオが提示され、それぞれの特徴や懸念点などに関するご説明がありました。
最後のD:国際目標達成に示唆を与える取り組みでは、今後どのようにすれば良いのか、という内容が示され、自然の劣化を引き起こす間接要因に対する根本的な変化を起こすための介入策(レバー)と、持続可能な社会に向けた転換につながる効果的な介入点(レバレッジ・ポイント)が複数提示され、図を交えてのご説明もなされました。どのような解決をするにしても、たとえば先進国と途上国間のNCP享受のバランスなどを考慮に入れ、どのような状態が我々人間の幸せな状態なのか、を念頭に置く必要があると、お話を伺っていて感じました。

質疑応答では、
・IPBESとIPCCの設立時期や人数規模の差異の理由について
・絶滅危惧種の数がIPBESレポートとIUCNで発表されている種数が大幅に違う点
・Economic optimismシナリオの結果の解釈
・「食料供給と自然の保全や持続的な利用の実現」における認証制度の有無
・分類ごとの絶滅危惧種割合・種数グラフの解釈
・日本のアンダーユースに関わる記述の有無
・行動経済学に関する記述の有無
など、参加者から多様な質疑が活発に見られ、非常に有意義な勉強会となりました。

当日の資料はこちらからご確認ください(PDF)

*この勉強会は、地球環境基金の助成を受けて開催いたしました。
IUCN-J事務局 矢動丸琴子