ナイロビ国立公園の現状と課題
ナイロビ国立公園で観られた動物たち
ナイロビ国立公園はナイロビ市街のすぐ近くにあり、野生動物と共に高層ビルの写真が撮れるという珍しい場所です。第1回ポスト2020作業部会(1stOEWG)が始まる前日の8月25日、日本から参加している5名でナイロビ国立公園を視察してきました。午前中から会議が設定されていた関係で1時間半ほどの短い滞在となりましたが、観ることができた動物(哺乳類・鳥類)をご紹介します。()内は学名です(誤同定の可能性はあります)。
哺乳類:マサイキリン(Camelopardalis tippelskirchi)、ハーテビースト(Alcelaphus buselaphus)、グランドガゼル(Nanger granti)、トムソンガゼル(Eudorcas thomsonii)、インパラ(Aepyceros melampus)、エランド(Taurotragus oryx)、グラントシマウマ(Equus quagga boehmi)、ベルベットモンキー(Chlorocebus pygerythrus)、コルビーモンキー(Cercopithecus mitis kolbi)
鳥類:ダチョウ(Struthio camelus)、アフリカコビトウ(Microcarbo africanus)、アオサギ (Ardea cinerea)、アフリカクロトキ(Threskiornis aethiopicus) 、カタグロトビ(Elanus caeruleus)、コシジロハゲワシ(Gyps africanus)、トビ(Milvus migrans)、ホロホロチョウ(Numida meleagris)、ハゲノドシャコ(Francolinus leucoscepus)、セネガルショウノガン(Eupodotis senegalensis)、オウカンゲリ(Vanellus coronatus)、アフリカジュズカケバト(Streptopelia capicola) 、オリーブツグミ(Turdus olivaceus)、ハグロオナガモズ(Lanius excubitoroides)、ツキノワテリムク(Lamprotornis superbus)、マミジロスズメハタオリ(Plocepasser mahali)、ハシブトハタオリ(Amblyospiza albifrons)、カオグロウロコハタオリ(Ploceus spekei)、コウギョクチョウ(Lagonosticta senegala)、テンニンチョウ(Vidua macroura)、カナリア属の一種(和名不明)(Serinus flavivertex)、ハゴロモシッポウ(Lonchura cucullata)、ムナジロガラス(Corvus albus)
ナイロビ国立公園の課題
上記のように短い時間でも様々な動物を観ることができるナイロビ国立公園ですが、野生動物の生息数減少につながる課題がいくつかあるように感じました。個人的な意見になりますが、以下に示します。
野生動物への接触時間の増加
同日の同じ時間帯に現地にいた他国のOEWG出席者から、シマウマを食べているライオンを観たと聞きました(我々は観ることができませんでした)。これは偶然では無く、サファリガイド間で連絡を取り合い、ライオンなど人気のある動物の居場所を共有しているとのことでした。そうすると、当然ながらライオンの周囲に車(人間)が存在する時間が増えるため、携帯電話が普及する前よりもライオンへの負荷は増えていると考えられます。これ以上ライオンや他の動物への負荷が増えないようにするためには、1)観察する時間を限定する(ex. 2分以下)、2)一度に観察できる車の台数を限定する(ex. 1台)、3)1日に入場できる車の総量を制限する、などの措置が必要になるのではないかと感じました。
野生動物の餌付け
ベルベットモンキーを観察している際に、群れのほぼ全ての個体が車のすぐ近くまで来てじっとしていました。幼獣が近づいてくるのは自然状態でもありうることですが、成獣まで近づいてくるのは異常です。餌付けされた経験があるのではないかと疑わざるを得ません。もちろん公園のルールで餌付けは禁止されています。しかしながら、入場の時にルールは説明されませんでしたので、徹底されていない可能性が高いと思います。入場の際にルールを説明するようにするべきだと考えています。ちなみに、入場料支払いの窓口が2つしか無く、その手続きにも時間がかかるため、待っている時間が結構発生しますから、モニターを設置して、ルール説明動画を流すと良いのではないでしょうか。
ケニアでの野生動物の再導入の試み
先にご紹介した課題のほか、ナイロビ国立公園を含め、ケニアではゲームハンティングや食肉としての利用、農地拡大による生息地の減少などにより大型動物の個体数が減少しています。その回復の試みとして再導入の事例をご紹介します。
キリン
キリン(Giraffa camelopardalis)には9つの亜種が認められており、ケニアにはそのうち3種類が生息しています(マサイキリン(G. c. tippelskirchi)、アミメキリン(G. c. reticulate)、ヌビアキリン(G. c. camelopardalis))。それぞれのケニア/ナイロビでの生息数*は、約12,000頭/100頭強、9000頭弱/0頭(分布せず)、約400頭/約10頭です。IUCNレッドリストでは、ヌビアキリンは絶滅危惧IA類、アミメキリンは絶滅危惧IB類に指定されています。
このうち、ヌビアキリンは1970年代から当初の生息地だけでなく他の地域にも再導入されてきました。その一つであるリマ国立公園は、今やケニアで最もヌビアキリンの生息数が多い場所となっており、再導入の成功事例とされています。
* Kenya’s Giraffe – Conservation Guide, Giraffe Conservation Foundation, 2016 PDFはこちら
ダチョウ
ナイロビ国立公園では、元々はいなかったソマリアダチョウ(Struthio molybdophanes)が1970年代に導入されています。ダチョウには3亜種(キタアフリカダチョウ(S. c. camelus)、マサイダチョウ(S. c. massaicus)、ミナミアフリカダチョウ(S. c. australis))が認められていますが、2014年より前はソマリアダチョウもダチョウの亜種と考えられていました。現在、ダチョウとソマリダチョウの交雑が起こっている*ことが分かっており、種の多様性の維持という観点では問題が発生しています。
*Birds of East Africa, Terry Stevenson et al., Christopher Helm, 2003
このように、再導入はキリンでは成功しましたが、ダチョウでは問題が発生しています。野生動物の個体数減少への対策としては、まず原因への対策を進め、自然状態での繁殖を促すことが優先だと考えます。
宮本育昌(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)