SBSTTA20 主要な決定の内容について

6日間に及ぶSBSTTA20が終わりました。木曜日、金曜日は連日夜10時半まで会議となりました。ここでは、決定事項について概要をご紹介します。ご紹介するのは、愛知ターゲット11・12の進捗、海洋関連決議、気候変動と生物多様性、生物多様性の主流化、生態学的復元、そしてIPBES花粉媒介生物に関するレポートです。

会場となっているICAO国際会議所内にあるメッセージ。SDGsのメッセージ(No one left behind.)をもじって作られたもの。

会場となっているICAO国際会議所内にあるメッセージ。SDGsのメッセージ(No one left behind.)をもじって作られたもの。

 

愛知ターゲット11と12の進捗

愛知目標11が求める全要素の達成のために、重要海域の特定の進捗や、重要生物多様性地域(KBA)の基準などを確認しました。

COP13への提言案
締約国等への奨励事項として
1)「その他の効果的な地域をもとにした保全手法」についてのIUCNなどの検証、

2)より広い景観レベルでの保全との連携、

3)多様なセクターによる保全、

4)効果的なガバナンスモデルについて、検証することを求めました。

その他、管理効果評価の実施を支える地球規模事業の模索、生物種の保全状況の評価のとりまとめの促進、地域や広域レベルでの能力養成や実施を支援するネットワークの推進を求めています。

 

事務局に対しては、1)〜4)に関するガイダンスの開発、OECMに関する定義や管理や特定のための科学的技術的助言を提供するためのワークショップの開催、進展に関してCOP14の前のSBSTTAに報告することを求めています。また、地球環境ファシリティーに保護地域やOECMの発展や実施のための支援を検討することを求めました。

 

海洋空間計画

海洋空間計画のためのガイダンスとツールを歓迎し、その活用を各国に奨励するよう求め、支援となるようガイダンスの試行や能力開発の奨励、経験の共有などを事務局に求めました。またこの取り組みをさらに進めるため、締約国に対して海洋空間計画に関する事例を提出するよう求め、事務局にそれらの情報をまとめ、COP14の前のSBSTTAに提出することをもとめました。

 

この海洋空間計画のために各地で行なわれている能力養成支援の取り組みであるSustainable Ocean Initiativeを歓迎するとともに、これらの取り組みが、愛知ターゲット11とも連携するようにするための専門家ワークショップの開催が事務局に要請されました。

 

そして愛知ターゲット6である過剰漁獲については、FAOと協働で実施状況のモニタリングに活用する提案をまとめました。

 

海中騒音と漂流物

事務局に対して、海中騒音に関する情報収集やとりまとめ、普及の取り組み、実践的ガイダンスの作成等を継続し、それらをCOP14の事前に開催されるSBTTAで検証することとしました。

 

また、海洋沿岸生物多様性への漂流物の影響を防止または緩和するためのガイダンスを承認し、それらの活用を求めることとなりました。拡大製造者責任原則を考慮すること、多様な関係機関と協同すること、途上国への能力養成の機会を提供することなどを決めました。

 

漂流物の影響防止・緩和のガイダンスには、海洋へのあらゆる固形物の廃棄の防止、既存の他の枠組みのツールやプラットフォームとの連携、経済インセンティブ・市場メカニズム等を含む複数の政策手法の活用という基本原則を掲げながら、陸上由来のゴミ・海上由来のゴミに分けて複数の対策がまとめられています。その他、情報共有、普及啓発、管理、調整、情報ギャップや研究に関する行動がまとめられています。

 

重要海域(EBSA)

COP13までにEBSAの見直しや追加に関する手続きをまとめることとなりました。このEBSAの科学的手法やアプローチの強化の選択肢としては、「データの収集、編集、統合、それらのEBSA基準への適用」、「新しい情報を追加するためのアプローチ」「EBSAへの登録と情報共有メカニズム」などが項目に挙がっており、これらを検討するための非公式アドバイザリーグループを設立するという提案がまとまりかけたのですが、少数の国が本国と調整しないと同意できないという話となり、COP13に持ち越すこととなりました。

 

気候変動

気候変動枠組条約パリ協定の成立と、生物多様性条約COPの要請を受けて事務局がまとめた気候変動への適用や緩和、災害への防災や減災への生態系を活かしたアプローチに関する報告やガイダンスなどを歓迎し、締約国に対し、生態系を活かしたアプローチを活用した気候変動への緩和や適応、自然災害への防災や減災を進めながら、生物多様性損失や普及啓発のプログラム開発、一般市民への普及啓発、さらに内容を改良するための情報共有や交換について進めることを提案しました。

 

事務局に対しては、緩和や災害リスク緩和のための生態系を活かしたアプローチのデザインや効果的実施のためのガイドラインを作ることを要請しました。ガイドラインには、生態系を活かしたアプローチの効果評価のツール、デザインや実施、モニタリングのためのツール、地域共同体や先住民の知識や技術、手法に関する情報なども含めることが事務局には求められています。また事務局に、気候変動枠組条約や砂漠化防止条約等との連携を求めました。

 

生物多様性の主流化

COP13の主要テーマと言われる生物多様性の主流化については9ページに及ぶ長い決定案がまとまりました。生物多様性という視点を農林漁業を始め、他のセクターの主要議題として組み込んでいくこと、それが持続可能な開発目標の達成にも書かせないこと、農林水産業・その他のセクターは生物多様性に依存することから双方に価値があるということを基本背景として認識しつつ、締約国に対しては、主流化を通じた景観レベルでの生物多様性の損失の減少、公的部門民間部門による持続可能な消費の推進、自然資源利用に関するモニタリングの強化などを提案する内容となっています。この分野ではFAO(国連食糧農業機関)との連携の重要性も指摘されています。

 

調達を含む持続可能な製品等の認証制度の活用という提案にはカッコ([ ]スクエアブラケット)がついており、一部の政府がこの提案を入れることについて留保を求めています。

 

この他、農業・林業・水産業毎に提案がまとめられました。

 

農業分野において
現在非持続可能な農業慣行が多く存在すること、国際社会の多くの決定が持続可能な農業の推進を求めていることを認識し、締約国に対していくつもの奨励事項を列挙しています。例えば、悪影響を及ぼす補助金の撤廃等も含む規制や奨励措置を活用した生物多様性損失の抑制、あらゆるレベルでの廃棄物発生の抑制、優良事例の共有などです。土地関連法制の実施、多様な農業の推進、森林伐採の減少に対する民間部門の多様な取り組みと更なる企業の参画の推進について、カッコが付き、留保となっています。

 

森林分野において
同様に、多くの国際会議・条約等での持続可能な林業の推進の重要性にふれ、同じく数多くの締約国への奨励事項をまとめています。例えば、パリ協定第5条の考慮、持続可能な林業の推進のための普及啓発、先住民地域共同体の参加の促進、持続可能な林業のための条件整備、森林活動の生物多様性への影響をモニタリングすることなどです。

 

漁業・養殖業において
報告のない違法な規制のない漁業の(IUU)取り締まりに関するFAO協定、漁業や養殖業への生態系アプローチの適用に関するガイダンスの活用などがあります。さらなる今後の取り組みとして、事務局に対して、FAO等との機関との連携、関連するガイダンスのウェブでの共有、主流化に向けたメッセージアプローチの開発等を求めています。

 

生態学的復元

生態学的復元に関しては、2020年までの短期的なアクションプランが採択され、今後の1~3年でやるべきこと、3~6年でやるべきことが具体的に示されました。生態学的復元に関しては、愛知ターゲットの目標5,12,14,15、SDGsの4番、8番に深く関係があり、特に愛知ターゲット目標15の、「傷ついた生態系の15%を2020年までに復元すること」に直結した動きだと言えます。

 

一方で、生態学的復元に関する優先順位は、まず自然保護を行い、生息域・生態系が破壊されないことを優先する必要がある(復元を前提に話を進めてはならない)ことがしっかりと明記されています。

 

アクションプランの鍵となる要素は、下記の通りとされ、この(a)~(d)のプロセスの繰り返しが行われ、フィードバックが行われることが求められています。
(a)生態学的かつ制度的な視点から、生態学的復元の機会をアセスメントする
今後1~3年のうちに:近年の、生態学的復元の活動とイニシアティブを特定し、それがどのように生物多様性の配慮に統合されているかを特定する。関係者と共に、特に劣化している生態系を特定する。
今後3~6年のうちに:コストや利益を含むアセスメントが実行中となっている。復元に必要となる資源が特定・確保されている。絵師物多様性の損失の要因を減らす/根絶する要素が特定されている。

 

(b)(国家的レベルもしくはそれに相当する権限で)制度的な有効性に関する環境を改善する
今後1~3年のうちに:目標・政策・戦略・奨励措置・計画ツールとプロセスを評価し、セーフガードの必要性を検討する。
今後3~6年のうちに:関係するツール・プロセスと対策を実施する。実行に必要となる資源が適切な量あるかを評価し、必要に応じて更なる資源を探し確保する。

 

(c)生態学的復元を計画し実行する
今後1~3年のうちに:ステップ(a)に基づき、復元の機会を優先順位付けし、明確かつ測定可能な目標を設定する。計画立案のために、最も関係の深いツール・プロセスと対策を優先順位付けする。現在実行されている復元活動を推進する。
今後3~6年のうちに:ステップ(b)に基づき復元プランを実行する。

 

(d)モニタリング・評価・フィードバックし、結果を公表する
今後1~3年のうちに:近年の活動とイニシアチブの経験を共有する。
今後3~6年のうちに:結果をモニタリングし、ステップ(b)と(c)から学んだことをレポートする。

 

花粉媒介・花粉媒介者・食糧生産に関するIPBESのアセスメント結果

花粉媒介者の件に関しては、こちらに記載した通り、一部の地域でのアセスメント情報の不足やカルタヘナ議定書への議題の持ち込みが話題となっていましたが、下記の通り文書が決定されました。

SBSTTAは、IPBESによるレポートを歓迎し、
事務局に:
・現在の要請を、カルタヘナ議定書のCOP宛てに持ち込むことを要求
・IPBESとFAOと協力し、アフリカ地域のアセスメントを準備・実施し、COP13前に査読用の研究結果を出すこと

 

締約国に:
・アセスメントのキーメッセージを強く支持する
・農薬の生産と販売を行っているビジネスセクターの巻き込みを推奨する。必要に応じて、当アセスメントの調査結果を、製品のリスクアセスメントの開発と見直しを行う際の企業活動で考慮するよう起業に推奨する。また、毒性試験の結果を、国際的・国内的・地域的スタンダードに沿う形で、透明性をもって公開するよう企業に推奨する。

 

(公財)日本自然保護協会・IUCN日本委員会 道家哲平・佐藤真耶